大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

読んだ本―「金正恩の正体―北朝鮮 権力をめぐる死闘」(近藤大介著:平凡社新書)

2014-10-01 07:22:32 | インポート

サブタイトルが示すように、北朝鮮における「権力をめぐる死闘」の様子が活写された本です。

あまりにも生々しく描かれているので、「見てきたような・・・」という感じさえも受けてしまうのですが、「北朝鮮の労働党幹部たちと脱北者たち、それに中国、韓国、日本、アメリカ、フランス、ドイツ、ロシアなどの外交官や、訪朝経験のある同業のジャーナリスト、研究者たち」などへの取材によって積み上げた「事実」と、その上での根拠ある「推測」によって成り立っているもの、ということなのだと思います。

私も本書によって多くの蒙を啓かれました。

一つは、昨年末の「ナンバー2」と言われた張成沢の粛清・虐殺についてです。それまでも何回かの「失脚」が報じられていたことは知っていたのですが、北朝鮮の権力トップ層における対立が本書で紹介されているような構造で、非常な厳しさを持っている、ということについて、初めて驚きとともに知りました。また、その厳しさの割に、非常に低水準でなものであることを、情けなさとともに知り、驚きを禁じ得ません。このような国の国民は、本当に不幸だと思います。

もう一つは、張成沢の粛清・虐殺とも関わることですが、中国の北朝鮮に対する姿勢が、私の思っていたものよりずっと厳しいものである、ということです。所詮は、自分たちの利害の上で考えられているに過ぎないことなのだと思いますが、「危機」が進行すると、それまで「味方」であった者までもが離反していく、という構造は非常に興味深いものです。

もっとも本書については、このように対象(北朝鮮)に対する事実認識を積み上げてしっかりできているのだとしても、その対象に対する自分たちの対応方針を立てる、ということは難しいことなのだ、ということを考えさせられます。著者は、

「現在、安倍晋三政権は、そんな隣国の『特異な指導者』と、長年の懸案事項である拉致問題を解決し、国交正常化を果たそうとしている。」と分析して、「いまこのタイミングに日本が対北朝鮮外交を復活させたのは賢明であった。」と評価しています。

「北朝鮮においては外交もまた『死闘』である。敵国・韓国とそのバックに控えるアメリカの圧力に怯えるだけでなく、長く最大の後見役だった中国との関係悪化で北朝鮮は激震。ついに日本との国交正常化に活路を見出そうと舵を切った。」

というように状況を分析しているわけですから、国際的な孤立状態に陥っている北朝鮮に「だからこそつけ入ろう」ということなのでしょうが、それは「助け舟をだす」ということでもあるわけです。、そうしていくことが「賢明」だとするのは、私には理解できないところです。