大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

民主的な意思決定のあり方について

2012-05-10 09:31:25 | インポート

今の政治の状況を見るにつけ、「民主的な意思決定」というのはむずかしいものだな、と思わされます。

このことは、日本全体のように大きなことでなくても、身近な組織においても、同様のことが言えます。本来、一つの問題に対する組織としての意思を決定する際には、その問題に関するさまざまな情報が構成員に正しく伝えられ、構成員がしっかりと問題を考え、具体的な方針を含めた意見を持ち、それらの意見交換がなされる中で組織としての意思決定を行っていく―というようにできればいいのですが、これはなかなか難しいことです。大分県調査士会では、できるだけそのような姿を実現したいものだと思っていますが、まだまだ十分なものとは言えないことを自覚してもいます。

その上で、ごくごく基本的なものの考え方の問題です。次のような考え方があります。

「〇〇〇(組織の名称です。別に匿名化する必要もないのかな、と思いますが、一般的な問題として論じたいだけですので固有名詞はださずに行きます。以下同じ、です)では、理事会を始めとする部会・委員会等のさまざまな会議が開催され、案件についての議論、対応についての協議を経て、事業の実施や会務の運営を行っており、これらについて、・・会員に随時お知らせしているところである。一方で、会議における協議事項は、あらゆる角度から検討し、じっくりと取り組むために継続協議となるものも少なくない。協議を重ねるにつれ、当初の『考え』とは異なるものになり得ることもある。いうまでもなく協議中のものはあくまでも検討段階のものであり、決定を見ないうちは、〇〇〇としての『考え』とはならない。/そこで役員においては、これらのことを念頭に置いた上で、協議段階の『案』が独り歩きして思わぬ混乱を招く危険性もあることを十分に認識し、協議中の案件の詳細を正当な理由なく他に漏らすことは現に慎んでもらい、役員としての守秘義務の徹底を図ってほしい

問題は、最後のアンダーラインをひいた部分にあります。つまり、「協議中の案件の詳細」を「他に」漏らしてはならない、というところです。この場合の、「他」というのは、理事会・部会・委員会等その検討の協議をしているところ、の「他」ということとして使われています。つまり、組織の成員であっても、その協議をしているところ以外は「他」とされ、「漏らしてはいけない」対象と考えられるわけです。

このような考え方には、私は反対です。問題は二つあります。一つは、「代議制的な意思決定の方法をとっている組織における意思決定のあり方」をめぐる問題で、もう一つは、「守秘義務」に関する問題です。

後の方のことを先に言いますが、「守秘義務」というのは、当然「秘密」に関することです。この「秘密」をどのようにとらえるのか、ということが問題になります。さしあたり「個人情報」的なものを「秘密」ととらえるべきなのでしょう。それにしても、拡大解釈してしまうとなんでも「秘密」になってしまい、情報公開はできなくなってしまうので、これはこれで難しい問題です。・・が、ここで問題のされているのは、「協議段階の『案』」についてですから、協議をしている問題についてどのような考え方があるのか、という「内容」の問題であるように思えます。そのような問題までをも「秘密」にしてしまって「守秘義務」の問題にしてしまうということには、大いに問題があるように思えます。「守秘義務」という本来は必要なことを盾にして、それを拡大解釈することによって必要な情報公開や民主的な意思決定の道を閉ざしてしまう誤った対応であると思います。

次に前者の問題。

組織はある程度大きくなると、その成員のすべてが参加して意思決定をする、というわけにはいかなくなります。さまざまなレベルの違いはあるにしろ、「代議制」的な意思決定をしなければならなくなります。つまり、少数の人々に、多かれ少なかれ具体的な意思決定を委ねて、その事業執行を行っていかざるを得ないことになります。

この場合、「日常的な事業執行に携わる少数の人」と「組織全体」とのあいだの意思疎通がどの程度実現されているのか、ということが大きな問題になります。言い換えれば、「組織全体」の意思が実現されるようなものとして「少数の人々の意思決定」がなされるのかどうなのか、ということが問題になるのです。ここに緊張関係がある、ということになります。

この場合、「日常的な事業執行に携わる少数の人(長いので以下「執行部」といいます)」と「組織全体」との間で「情報」を共有化することが必要です。意思決定をするためには、その意思決定をするための基礎になる条件についての認識が必要だからです。

さまざまな情報は、まずは「執行部」に集まります。したがって、「執行部」は、自らの下に集まった情報を、できるだけ適切な形で「組織全体」と共有化するように努めることが必要です。これは、「右から左にすべて流す」ということではなく、重要度を公正に判断しつつ取捨選択することが必要になることなので、なかなか難しいことなのですが、少なくともそのような姿勢を持つ、ということが必要ですし、日常的に事実をもって検証されるものであることを自覚しておくことが必要でしょう。

ある重要な事項について、「執行部」で意思決定をしようとする場合、その問題についての重要な情報を「組織全体」のものにして、そこで「組織全体」がどのように考えるのか、ということを諮っていくことが必要となります。「代議制」というのは、「組織全体の意思決定」を効率的に行うためにとる形式なのであり、「白紙委任」ではないものとして考えることが、「民主主義」の基本だと、私は思います(もっとも最近は、「マニフェスト選挙」の失敗への反動から「白紙委任」的な姿をとるべきだ、と主張する人もありますが、その場合でも、一定の政策や政策の基本方向を示して、そのもとにおける具体的な問題については「白紙委任」的にならざるをえない、というだけのことなのであって、「代議制」をとっている以上はある意味あたりまえのことを言っているにすぎないような気もします)。

たとえば、「消費税増税」が課題だ、とする場合、「執行部」(内閣や国会)は、その内部で「協議」をするわけですが、その「協議中の案件の詳細」はできるだけ組織の成員(国民)に示されるべきです。「何故、どのような事情があって、どのような理由で消費税の増税が必要なのか」という「協議中の案件の詳細」は、できるかぎり国民に示されるべきだし、それに反対して消費税増税を不要とする考えも明らかにされるべきです。そして、それらを受けて「国民的議論」がおこなわれて国民は自らの意見を固めていくべきなのであり、それを受けて、また「執行部」は方向性を探っていくべきなのだと思います。このような「民主的な意思形成」こそが追求されるべきものだと私は思います。「消費税増税という案件の詳細を国民に漏らしてはならない」などという考え方は、少なくとも今の日本の民主主義の中では出てくるものではないでしょう。

もちろん、今のべたような民主的な意思形成というのは、口で言うほど簡単なことではなく、実際にはさまざまな問題があります。しかし、このようなものを追求する、という姿勢がなくては始まりません。もしも組織の執行部が、「重要な問題についての決定は自分たちだけで協議して決めるから、組織の成員には協議中の案件の詳細を知らせてはならない」というような姿勢を取るのなら、それは民主的な組織運営ということからかけ離れたものになってしまうのであり、健全なあり方ではない、としなければならないでしょう。