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そのあと、正雄くんはなかなか眠ることが出来ませんでした。
お母さんやお姉ちゃんと長い時間話し合ったあとの気持ちの高ぶりが、なかなかおさまらなかったからです。
お母さんもお姉ちゃんも、お父さんが死んだのは正雄くんのせいではないと言ってくれました。お父さんが、正雄くんのわがままをいつまでも怒っていたりしないとも言ってくれました。二人が繰り返し言ってくれたので、ほんの少し気持ちが楽になったように正雄くんは感じていました。
しかしそれは、本当にほんの少しでした。
自分のベッドに戻ったあとも、正雄くんは考え続けました。本当にぼくのせいでないとしたら、なんでお父さんは死んでしまったのだろう・・・。
正雄くんの考えは、そこまで行くと先に進まなくなってしまいます。お父さんが死んでから、正雄くんはお父さんの夢を何度かみましたが、いつも、怒っている顔か悲しそうな顔でした。
「やっぱりお父さんは、まだ許してくれていないんだ」
正雄くんの考えは、結局そこに行きつきます。
グルグルグルと、考えを繰り返しているうちに、正雄くんは眠ってしまいました。
朝になってもまだ眠くってぐずぐずしていると、お母さんがベッドの中の正雄くんをのぞきこんで、「行ってくるわね」と声をかけてくれました。
正雄くんも、「行ってらっしゃい」と返事をしましたが、少し経ってから、「そうだお母さんはお仕事なんだ」と思いながら、また眠ってしまいました。
次に目が覚めたのは、お昼前でした。
一階におりて行くと、お姉ちゃんがキッチンにいました。
「おはよう、よく眠っていたわね」と、何だかお母さんのような言い方です。最近お姉ちゃんは、だんだんお母さんに近づいているみたいに正雄くんは感じていました。
「うん、よく眠った。でも、お母さんとは話したよ」
「まだ寝ぼけているみたいって、お母さん言ってたよ」
「寝ぼけてなんかいないよ」
正雄くんは口をとがらせるようにして抗議しましたが、お姉ちゃんは相手にしないで、サンドイッチを運んできました。
「もう、お昼よ。お母さんがサンドイッチを作ってくれているのよ。いまスープを作るからね」
食卓にサンドイッチを二皿置いて、インスタントのスープをコーヒーカップに手際よく入れています。
「お母さんみたいだ」
正雄くんのひとりごとのような言葉に、道子さんは満足そうです。
**
食事のあと、正雄くんは自転車で家を出ました。
「遅くならないうちに帰ってくるのよ」
お姉ちゃんは、やっぱりお母さんと同じ言い方で正雄くんを送りだしました。
正雄くんの自転車は子供用ですが、運転には自信があります。少し遠いのですが、行く先は決まっていました。
ベッドの中で何度も何度も考えた結果、正雄くんは、とても大切なことを思いだしたのです。お父さんが死んだのが、あの図書カードのことだと思い込んでいたのですが、お母さんやお姉ちゃんが絶対違うと言うので少し気が楽になりましたが、何か原因があるのだという考えは正雄くんの頭から消えませんでした。
そして、もう一つ重要なことがあったことに気付いたのです。こんな大切なことが今まで気づかなかったことが不思議ですが、これまでは図書カードのことが原因だと正雄くんが思いこんでしまっていたからです。
正雄くんが向かった公園は、家から三キロメートルほど離れているので、今まで一人で行ったことがないのですが、行き方は簡単です。それに、自転車だとすぐです。ただ、最後のあたりがずっと登り坂なので、自転車から降りて押しながら進みました。
正雄くんが着いたのは、山を切り開いて造られた広い広い住宅地の一画にある大きな公園でした。
そこは、お父さんの運転する車で何度も来た所です。テニスコートや野球などが出来る広いグランドがあり、別に小さな子供たち用の広場があるのです。その広場の中央には、ひょうたんみたいな形をした大きな砂場があります。砂場の中には背の高い山小屋みたいな建物があって、ハシゴのような階段と滑り台がついているのです。
砂場には、正雄くんよりずっと小さな子供が二人遊んでいるだけでした。子供のお母さんらしい人が砂場の外に立っています。子供たちは、ハシゴを登っては滑り台を滑り降りています。二人ともキャーキャー言いながら、何度も何度も繰り返しているのです。
正雄くんは、しばらく子供たちの遊んでいる様子を見ていましたが、しばらくしてから、子供たちとは一番離れている砂場の隅に立ちました。手には、家から持ってきた植木用のプラスチック製の棒を持っています。正雄くんの身長よりずっと長い棒です。
そして、その棒で、砂を掻き始めました。慎重に、慎重に、砂の中から何かを探しているのです。
そのあと、正雄くんはなかなか眠ることが出来ませんでした。
お母さんやお姉ちゃんと長い時間話し合ったあとの気持ちの高ぶりが、なかなかおさまらなかったからです。
お母さんもお姉ちゃんも、お父さんが死んだのは正雄くんのせいではないと言ってくれました。お父さんが、正雄くんのわがままをいつまでも怒っていたりしないとも言ってくれました。二人が繰り返し言ってくれたので、ほんの少し気持ちが楽になったように正雄くんは感じていました。
しかしそれは、本当にほんの少しでした。
自分のベッドに戻ったあとも、正雄くんは考え続けました。本当にぼくのせいでないとしたら、なんでお父さんは死んでしまったのだろう・・・。
正雄くんの考えは、そこまで行くと先に進まなくなってしまいます。お父さんが死んでから、正雄くんはお父さんの夢を何度かみましたが、いつも、怒っている顔か悲しそうな顔でした。
「やっぱりお父さんは、まだ許してくれていないんだ」
正雄くんの考えは、結局そこに行きつきます。
グルグルグルと、考えを繰り返しているうちに、正雄くんは眠ってしまいました。
朝になってもまだ眠くってぐずぐずしていると、お母さんがベッドの中の正雄くんをのぞきこんで、「行ってくるわね」と声をかけてくれました。
正雄くんも、「行ってらっしゃい」と返事をしましたが、少し経ってから、「そうだお母さんはお仕事なんだ」と思いながら、また眠ってしまいました。
次に目が覚めたのは、お昼前でした。
一階におりて行くと、お姉ちゃんがキッチンにいました。
「おはよう、よく眠っていたわね」と、何だかお母さんのような言い方です。最近お姉ちゃんは、だんだんお母さんに近づいているみたいに正雄くんは感じていました。
「うん、よく眠った。でも、お母さんとは話したよ」
「まだ寝ぼけているみたいって、お母さん言ってたよ」
「寝ぼけてなんかいないよ」
正雄くんは口をとがらせるようにして抗議しましたが、お姉ちゃんは相手にしないで、サンドイッチを運んできました。
「もう、お昼よ。お母さんがサンドイッチを作ってくれているのよ。いまスープを作るからね」
食卓にサンドイッチを二皿置いて、インスタントのスープをコーヒーカップに手際よく入れています。
「お母さんみたいだ」
正雄くんのひとりごとのような言葉に、道子さんは満足そうです。
**
食事のあと、正雄くんは自転車で家を出ました。
「遅くならないうちに帰ってくるのよ」
お姉ちゃんは、やっぱりお母さんと同じ言い方で正雄くんを送りだしました。
正雄くんの自転車は子供用ですが、運転には自信があります。少し遠いのですが、行く先は決まっていました。
ベッドの中で何度も何度も考えた結果、正雄くんは、とても大切なことを思いだしたのです。お父さんが死んだのが、あの図書カードのことだと思い込んでいたのですが、お母さんやお姉ちゃんが絶対違うと言うので少し気が楽になりましたが、何か原因があるのだという考えは正雄くんの頭から消えませんでした。
そして、もう一つ重要なことがあったことに気付いたのです。こんな大切なことが今まで気づかなかったことが不思議ですが、これまでは図書カードのことが原因だと正雄くんが思いこんでしまっていたからです。
正雄くんが向かった公園は、家から三キロメートルほど離れているので、今まで一人で行ったことがないのですが、行き方は簡単です。それに、自転車だとすぐです。ただ、最後のあたりがずっと登り坂なので、自転車から降りて押しながら進みました。
正雄くんが着いたのは、山を切り開いて造られた広い広い住宅地の一画にある大きな公園でした。
そこは、お父さんの運転する車で何度も来た所です。テニスコートや野球などが出来る広いグランドがあり、別に小さな子供たち用の広場があるのです。その広場の中央には、ひょうたんみたいな形をした大きな砂場があります。砂場の中には背の高い山小屋みたいな建物があって、ハシゴのような階段と滑り台がついているのです。
砂場には、正雄くんよりずっと小さな子供が二人遊んでいるだけでした。子供のお母さんらしい人が砂場の外に立っています。子供たちは、ハシゴを登っては滑り台を滑り降りています。二人ともキャーキャー言いながら、何度も何度も繰り返しているのです。
正雄くんは、しばらく子供たちの遊んでいる様子を見ていましたが、しばらくしてから、子供たちとは一番離れている砂場の隅に立ちました。手には、家から持ってきた植木用のプラスチック製の棒を持っています。正雄くんの身長よりずっと長い棒です。
そして、その棒で、砂を掻き始めました。慎重に、慎重に、砂の中から何かを探しているのです。