雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

めでたきもの

2014-11-28 11:00:10 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第八十三段  めでたきもの

めでたきもの。
唐錦。
飾り太刀。
造り仏の木画。
色あひふかく、花房ながく咲きたる藤の花、松にかかりたる。
         (以下割愛)


すばらしいもの。
唐錦(カラニシキ・唐舶来の錦。国産の倭錦に対する)。
飾り太刀。
造り仏(彩色された仏)の木画(モザイクのような工芸品と考えられるが、同種のものは現存していない)。
色合いが深くて、花房が長く咲いている藤の花が、松にかかっている姿。

六位の蔵人。身分の高い若君であっても、決して着ることの出来ない綾織物を、(天皇の身近に仕えるという職掌柄)平気で着ていて、青色の袍姿などがとてもすばらしいのです。
もとは蔵人所の雑色(ゾウシキ・雑役を務めた無位の役人。青色は着れず、定められた色がなかったことからこう呼ばれるようになった)であったり、一般人の子供なので、お歴々の侍所の侍として勤める四位や五位の官職のある人の下に使われていて、目にも止めてもらえない存在だったのですが、いったん蔵人になってしまいますと、その変わりようは何とも驚くばかりです。
勅使となって宣旨などを持参したり、大饗(ダイキョウ・正月に左右大臣家で、太政官の官吏を饗応する行事。この時、天皇から甘栗などを賜った)の折の使いとして参上した時などは、大臣がありがたがって大切に扱われる様子などは、「どこから天下った天人なのだろう」と思ってしまうのです。

御娘が后となっていらっしゃる場合、また入内前でも「姫君」などと申し上げている方に、蔵人が天皇から御手紙の使いとして参上しますと、その屋敷の女房は、天皇のお手紙を御簾の内に取り入れるのからはじめて、敷物を差し出す時の立派な袖口など、御使いに対する待遇ぶりは、これが明け暮れ見慣れている人とは思われないほどです。
下襲の裾を長く引いている衛府(武官)を兼ねている蔵人の場合は、さらにすばらしく見えます。その家の主人御自ら杯などをお差しになるのですから、蔵人自身も、どれほどすばらしいと感じていることでしょう。
以前は、ひどくかしこまって土下座していた、一族の方や若君たちに対しても、今は、表面的には慎み深くかしこまっているけれど、その人たちと対等に連れ立って歩きまわっていますのよ。

天皇が、身近に召し使いになられるのを見ると、妬ましい気持ちさえします。お側離れずにお仕えする三年、四年ぐらいの間を、制服である青色の袍を着ている時はいいのですが、粗末な服装で、その色合いも平凡なもので、殿上のお偉い方々と交わるのは、やりきれないことです。
身分低くても天皇の近くにお仕え出来る特別な立場を、叙爵の時期になって殿上を下りることが近づくことさえ、命よりも惜しく思われるはずなのに、この頃は臨時の受領の空きなどを申請して、殿上を下りてしまうのは、全くとんでもないことです。
昔の蔵人は、任期の一年も前の春夏からもう泣き騒ぎしたものですよ。ところが当世の蔵人は、早々に次の叙爵を目指して駆けっこするのですよ。

博士の才学のある人は、すばらしいというのは当然のことです。顔は醜くて、官位が随分低くても、学問のお陰で、高貴な方の御前近く参上し、それなりのご下問があり、経書の師匠として伺候しているのは、「うらやましく、すばらしいものだ」と思うのです。また神仏への願文、上奏文、詩歌の序文などを作成して褒められるのも、とてもすばらしい。

法師で才学のあるのは、まったく改めて言うまでもありません。
后の昼の行啓は、特に華麗ですばらしい。
摂政・関白の御外出。
春日明神への御参詣。
葡萄染(エビゾメ)の織物。
全て、どのようなものでも、紫色であるものは、すばらしいのです。花でも、糸でも、紙でも。
庭に雪が厚く降り積もっている景色。
摂政・関白。
紫の花の中では、かきつばただけが少し憎らしい。
六位の蔵人の宿直姿が魅力的なのは、それは指貫が紫のせいなのですよ。



めでたきものとは、立派ですばらしいものといった意味ですが、多くの事例が列記されています。
その中でも、六位の蔵人に関して特に重点が置かれています。
少納言さまは、この六位の蔵人の青色の袍姿が特にお気に入りのようで、あちらこちらの章段に登場してきます。

その裏返しとして、天皇の側近くに伺候するというすばらしい職掌なのに、もっと実入りのよい受領を希望する者が多いというのが、大変お気に召さないようです。
「兄妹」と呼ばれた仲の則光もその一人であり、大変ご立腹の様子が描かれていますものねぇ。(第七十九段)

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