雅工房 作品集

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三人の若者 ・ 今昔物語 ( 27 - 44 )

2018-10-25 08:13:52 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          三人の若者 ・ 今昔物語 ( 27 - 44 )

今は昔、
伊勢の国より近江の国へ越えようとする三人の若者がいた。下賤な者たちであるが、三人とも豪胆で思慮もあった。
その三人が、鈴鹿山を通りかかった時、どうして言い出したのか、その山中に、昔から鬼がいるといって、人が決して泊まらない古いお堂があるという。このような難儀な山越えの途中にあるお堂だが、こういう言い伝えがあるので、人は決して立ち寄ろうとしない。

さて、この三人の男、山を通っているうちに、夏の頃とて、突然空が暗くなり夕立が降ってきたので、いま止むかと葉の繁った木の下に入って待っていたが、なかなか止まず、日もしだいに暮れてきたので、三人のうちの一人が、「どうだ、例のお堂に泊まろうではないか」と言うと、あとの二人は、「あのお堂には昔から鬼がいるとのことで、誰も近寄らないお堂ではないか」と反対したが、泊まろうと言った男は、「この機会に、本当に鬼がいるのかどうか、はっきり確かめてみよう。また、もし喰われたら、どうせ人間は一度は死ぬものだ。無駄死にしたっていいではないか。また、狐や野猪(クサイナギ・ムジナ、タヌキの類らしい。)などが人をたぶらかそうとしていることを、このように言い伝えているのかもしれないぞ」と言うので、二人の男は渋々ながら「それでは、泊まるとするか」と言っているうちに、日も暮れて暗くなってきたので、そのお堂に入って泊まることにした。

そのような所なので、三人とも寝ないで雑談などしていたが、一人が、「昼間に通ってきた山中に男の死骸があったな。あれを今から行って取って来れるかなあ。どうだろう」と言う。すると、先ほどこのお堂に泊まろうと言い出した男は、「どうして取って来れないとこなどあるものか」と言うと、あとの二人の男は、「今から取りに行くことなど、絶対に出来まい」とけしかけると、けしかけられた男は、「よし、それでは取ってこよう」と言って、たちまちのうちに着物を脱ぎ捨てて、裸になって走り出ていった。

雨は止まず降り続いていて真っ暗の中を、もう一人の男もまた着物を脱いで裸になって、先に出て行った男の後を追って行った。先の男のそばをそっと走り抜けて先に立ち、彼の死骸のある場所に行き着いた。そして、その死骸を取って、谷に投げ棄てて、その跡に自分が横になっていた。

すると、先に出た男がやって来て、死骸の代わりに横になっている男を背負うとすると、この負われる男は、負う男の肩をがぶりと噛みついたので、負う男は、「そんなに噛みつきなさるな、死人よ」と言って、背負ったまま走り出しお堂の戸の脇に放り出した。
「方々よ、ここに背負ってきたぞ」と言ってお堂の中に入っていったが、その間に、背負われてきた男は逃げ去ってしまった。
背負ってきた男が戻って来て見ると、死人がいないので、「なんと、逃げて行ってしまった」と言って、立ち尽くしている。
すると、背負われてきた男がそばから出てきて、笑いながら事の次第を語ると、「とんでもない奴だ」と言って、一緒にお堂の中に入っていった。
この二人の男の肝っ玉は、いずれも劣っていないと言いながらも、背負ってきた男の方が勝っている。死人の真似をする者は他にもいようが、行って背負って来る者はそうそういるものではない。

また、この二人の男が出て行っていた間に、お堂の天井の格子の一ます一ますから、様々な恐ろしい顔が突き出てきた。
そこで、残っていたもう一人の男は、太刀を抜いてひらめかせたので(太刀には魔よけの霊力があると考えられていた。)、一度にどっと笑って消えてしまった。その男は、それを見ても騒ぐことがなかった。されば、その男の肝っ玉も劣ってはいない。三人ながら、大した者たちである。
やがて、夜が明けたので、お堂を出て近江の方へ越えていった。

これを思うに、あの天上から恐ろしい顔を突き出したのは、狐が化けたのであろうと思われる。それを人々は鬼が出ると言い伝えたのであろう。
その三人の者たちが無事に泊まって出て行った後、別に何のたたりもなかった。本当の鬼であれば、その場でも、後になってからでも、とうてい無事であるはずがない、
此(カク)なむ語り伝へたるとや。

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