雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

青色LED ・ 小さな小さな物語 ( 672 )

2015-03-16 11:24:07 | 小さな小さな物語 第十二部
ノーベル物理学賞に、三人の日本人が選ばれました。心からお祝い申し上げますとともに、わが国に誇りをもたらしてくれたことに感謝申し上げたいと思います。
受賞のテーマとなったのは、青色LEDの基礎技術を発明した師弟コンビと量産化に道を開いた方ということで、技術の最初から完成まで導いた研究者の方々に賞が贈られたようです。
受賞決定とともに、LEDとは何ぞや、青色LEDの完成がいかに大きな意味を持っていたかなどがテレビなどで次々と紹介されていました。もちろん私などには、その技術の発明や開発がどう難しいのかは理解できませんが、LEDという聞きなれた物質であり、すでに多くの商品が商業ベースに乗っているだけに、物理学賞という割には身近に感じられました。
それだけに、技術開発の途上や、権利の所有などをめぐっては幾つかの訴訟騒ぎがあったことはよく知られています。

今回の三人の共同受賞に対しても、「ライバル共同受賞」という見出しを出している新聞もありました。
また、テレビのインタビューを見ていましても、実に三人三様で、とても興味が感じられました。
ノーベル賞というような大変なゴールまで至らないとしても、一つの研究が花開き、それなりの実を結ぶまでには、もちろん一人の孤高の天才が必要なのでしょうが、それを取り巻く多くの人々や、現在の物理や化学などの分野では気が遠くなるような資金を必要とするようです。
わが国が技術立国を目指すのであれば、そのあたりの環境を整備していくことが絶対に必要なようです。

今回の受賞の一人である中村氏と、もと勤務していた会社との訴訟争いは、私などでもよく記憶しています。
あの争いのお蔭で、多くの企業においては、社員の発明などに対する報奨のあり方がかなり変わったといわれていますが、実はどうなのでしょうか。今回の受賞インタビューを見た表面的な感想ですが、中村氏は、今もかつて勤務していた会社に対する怒りを感じますし、日本のこの種の司法判断に対してもそれ以上の怒りを抱いているようです。
中村氏に限りませんが、わが国の研究者に対する環境の劣悪さのため海外に流出している頭脳は少なくないそうです。世界中の人々に貢献するためには、研究の場所が日本であっても海外であっても良いようにも思われますが、「とても日本ではやっていられない」と見限られていることが多いのであれば、もっともっと真剣に考えなくてはならない問題です。

社員がある特許を取得した場合、当然研究を成功に導いた研究者はその権利を主張するでしょうし、企業側は、研究環境や資金を提供しているのは会社であり、その研究者一人だけで完成させたものではないと主張することでしょう。
その利益が、車一台買えるか買えないかという程度のことならいいのですが、中村氏の場合は、企業が得た利益は千数百億円なのに対して、報奨金は二万円だったという話も報道されていますので、まあ、少々極端すぎるような気もします。
一人の研究者を育てるのには大変な費用が掛かるそうです。しかも、経済的な利益を生み出してくれる成功は、かなり低い確率なのだそうです。一企業の場合には、そのリスクをどうカバーしていくかが常に大きな問題でしょうし、国家予算が絡むような場合も、その道の全く素人の国会議員や官僚が、安易に予算を打ち切ったりしてしまうこともあるようです。
ノーベル賞受賞を、まるでわがことのように国民の多くが喜ぶのは結構なことですが、研究者の環境ということを、もっともっと考えていく必要があるように思われます。

( 2014.10.11 )

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