雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

歴史散策  空白の時代 ( 6 )

2016-06-03 09:13:20 | 歴史散策
          『 空白の時代 ( 6 ) 』

神託を受ける

仲哀九年三月、この時より、神功皇后が実質的には天皇家の実権者となったといえよう。西暦でいえば、200年とされる。

神功皇后は、吉日(ヨキヒ)を選び、斎宮に入り自ら神主(カンヌシ・祭事の長)となられ、武内宿禰(タケウチノスクネ)に命じて琴を弾じさせ、中臣烏賊津使主(ナカトミノイカツオミ)を召して審神者(サニワ・神託の意味を解く者)とされた。そして、千高(チハタタカハタ・多くの幣帛)を以って琴の首部と尾部に置き、祈請して申された。「先日、天皇にお教えいただいたのは、いずれの神でしょうか。どうぞその御名をお知らせください」と。
それから七日七夜に至って、答えがあった。「神風(伊勢にかかる枕詞)の伊勢国の、百伝う(モモツタウ・広く伝えられるといった意味で、渡逢にかかる枕詞)渡逢県(ワタライノアガタ・伊勢国の一部)の、拆鈴五十鈴宮(サクスズイスズノミヤ)に鎮座する神で、名は撞賢木厳之御魂天疎向津媛命(ツキサカキ イツノミタマ アマザカル ムカツヒメノミコト)と仰せられた。

皇后は、「あなた様の他にもまだおいででしょうか」と尋ねられた。
「幡荻穂(ハタススキホ・旗のように風になびくすすき)のように現れた吾のほかに、尾田の吾田節の淡郡(オダのアガタフシのアワノコオリ・地名。志摩国の辺りか)に鎮座される神が有る」と答えた。
さらに皇后は尋ねられた。「他にもおいででしょうか」
「天事代虚事代玉籤入彦厳之事代神(アメニコトシロ ソラニコトシロ タマクシイリビコ イツノコトシロノカミ・託宣の神か)が有る」と答えた。
「他にもおいででしょうか」と、皇后はさらに尋ねられた。
「有るとも無いとも知らない」と答えた。

そこで、審神者が言った。「今すぐお答えにならなくても、後になって仰ることはありますか」と。
それに対して、「日向国の橘小門(タチバナノオド・小門は水門、河口を指す)の水底においでになって、水葉のようにわかやかに現れます神、名は表筒男(ウワツツノオ)・中筒男・底筒男(住吉三神)という神が有る」と仰られた。
「他にもおいでですか」とさらに尋ねると、「有るとも無いとも知らない」と言われ、遂に、さらに神が有るとは言われなかった。

     ☆   ☆   ☆

周辺を平定

これによって、神功皇后は神のお言葉をお受けして、教えのままに祭られた。
そうして後に、吉備臣の祖である鴨別(カモワケ)を派遣して熊襲国を討伐させられた。幾日も経たないうちに、熊襲は自ら服従した。
また、荷持田村(ノトリタノフレ・北九州辺りの村か)に羽白熊鷲(ハシロクマワシ)という者がいた。その性格は強く猛々しく、また体には翼があって、よく空を飛び高く飛翔した。そうして、皇命に従わず、常に人民を略奪した。

十七日(三月)に、皇后は熊鷲を討伐しようと思われて、橿日宮(カシヒノミヤ)から松峡宮(マツオノミヤ)に遷(ウツ)られた。その時、つむじ風がにわかに起こり、御笠が吹き落とされた。それで当時の人は、その地を御笠と名付けた。
二十日に、層増峡野(ソソキノ・筑前国の地名)に至り、ただちに兵を挙げて羽白熊鷲を討ち滅ぼした。この時、側近の者たちに、「熊鷲を討ち取って、私の心は安らかになった」と仰せになった。それで、その地を安(ヤス)と名付けられた。
二十五日に、山門県(ヤマトアガタ・筑後国内か)に移られ、土蜘蛛(ツチグモ・この地の豪族。先住民族か?)の田油津媛(タブラツヒメ)を誅伐した。その時、田油津媛の兄である夏羽(ナツバ)も兵を挙げていた。しかし、妹が打たれたことを知ると逃げ去った。

夏四月の三日、北方の火前国(ヒノミチノクチノクニ・肥前国)の松浦県(マツラノアガタ)に到着され、玉島里の小川のほとりで食事をされた。この時、皇后は縫い針をまげて釣り針を作り、飯粒を餌にして、裳の糸を抜き取って釣り糸として、川中の岩の上に登って、釣り針を投げ、神意をうかがって申された。「私は、西方の財国(タカラノクニ・新羅・中国は西方にあると考えられていた)を求めようと思う。もし事が成就するのであれば、川の魚よ、釣り針を呑め」と。
そうして竿をあげると、たちまち鮎を獲られた。その時皇后は、「これは珍しい物である」と仰せられた。それで当時の人は、その地を梅豆羅国(メヅラノクニ)と名付けた。今、松浦(マツラ)というのは訛ったものである。
この事から、その国の女たちは、四月の上旬になるたびに、釣り針を川中に投げて鮎を獲る習わしが今も絶えていない。但し、男たちは、釣ろうとしても魚を獲ることは出来ない。

     ☆   ☆   ☆
  




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