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テレビ朝日21世紀シナリオ登竜門応募作「灰色の空があけるとき」 後編

2014-07-13 10:08:42 | テレ朝応募作「灰色の空があけるとき」
《後編》


〇早川ボクシングジム内
  勇治、リングの上で直樹のミット打ちの相手をしている。
  信吾、ステップを踏み、シャドウボクシングをしながら、鏡越しにチラッと勇治たちを見る。
  佐緒里、ジムの隅でスケッチブックに絵を描いている。
  ゴングが鳴る。
  直樹、リングサイドで息を切らせている。
  勇治、直樹の肩を叩き、
勇治「良かったよ! 特にボディフックは腰が入っていて威力があった」
  直樹、頷く。
  勇治、ステップを踏みながらシャドウボクシングをしている信吾に、
勇治「おい、有望株」
  信吾、シャドウボクシングを続けて、勇治の声を無視する。
勇治「お前もどうだ? 俺が練習付けてやるよ」
  信吾、シャドウボクシングを止めて、勇治を見て、
信吾「……結構です」
  信吾、勇治に背を向けて、ステップを踏みながらシャドウボクシングを再開する。
勇治「そういうなよ。うちのジムの有望株なんだろ。受けさせろよ」
  信吾、相手にせず、シャドウボクシングを続ける。
直樹「信吾! お前もやれよ」
  信吾、右ストレートを放って、動きを止めて、勇治を見て、
信吾「選手なのか、何なのか、分けわかんない奴に相手なんかしてもらいたくないね」
勇治「……」
直樹「おい、信吾。先輩に向かって、お前なんてこと言ってんだよ」
  信吾、勇治を見ずに、吐き捨てるように、
信吾「まともに練習もしない、ただ先輩風、吹かせに、ゴロまきに来ているだけの、ただのクズじゃねぇか」
勇治「……」
直樹「おい、信吾」
  直樹、気にしながら勇治の顔を見る。
  勇治、硬直した顔。
  信吾、勇治を見て、
信吾「クズにでかい面される覚えはない。はっきり言って、目障りなんだよ」
直樹「信吾!」
  直樹、リングを下りて、信吾をつかみ、
直樹「お前、いい加減にしろよ」
信吾「……」
直樹「会長に目かけられてるからって、調子のるな」
信吾「調子になんかのってませんよ。本当のことを言っただけです。だって、そうでしょう」
  信吾、勇治を見て、
信吾「あのとき深山は、たかだかプロ転向二戦目。あんたは一体何年、プロでやってるんだ!? そんな相手に、『俺の勝ちだ、俺の勝ちだ』って、リング 上で悪態ついて、恥ずかしくないんですか?」
勇治「……」
信吾「それに、あの試合、そんなに凄い試合じゃない。退屈な試合だ」
勇治「……」
  直樹、あたふたしている。
信吾「ただ、アマチュアから鳴り物入りで入った深山に、あんたが運良く対戦相手に選ばれただけのこと。しかも、二戦目の相手としておあつらえ向き  だったってことだ」
勇治「……」
  信吾、目の前にいる直樹をどかして、壁に貼ってある試合のポスターの写真の深山の顔を手のひらで叩いて、
信吾「深山は今や東洋太平洋チャンピオンだ!」
勇治「……」
  信吾、勇治を見て、
信吾「あんたはどうだ? 続けることも出来ず、辞めることも出来ず、なんの決断も出来ないただのクズじゃなぇか」
  勇治、絞り出すように、
勇治「……おもしれぇ。そこまで言われちゃ引き下がるわけにはいかねぇな。あがって来いよ。今ここで勝負してやる」
  と言って、勇治はつけているミットを外す。
  勇治と信吾、睨み合う。
直樹、どうしていいか分からず動揺している。
勇治「どうした有望株。あがって来い」
信吾「……」
  佐緒里、立ち上がり、
佐緒里「やめなよ、二人とも!」
  佐緒里、信吾の背中に手を当て、
佐緒里「けんかしている場合じゃないでしょ。あなたは試合が近いんだから」
  佐緒里、勇治を見て
佐緒里「信吾君は、あなたとは違うの」
勇治「……」
  佐緒里、リングに行き、勇治のジャージの袖を掴み
佐緒里「はいはい。試合のない人は出てって出てって」
勇治「……」
佐緒里「それにあなたの相手は私がしてあげるから」
勇治「……」

〇喫茶店の店内
  奥の席に、佐緒里と勇治が座っている。
  勇治、驚いた顔で、
勇治「由香に赤ちゃんが出来た!?」
佐緒里「やっぱりね。何も聞いてないんだ」
勇治「……」
佐緒里「と言っても、言えないか。日がな一日油売ってる亭主に」
  勇治、佐緒里に見ずに目を逸らして、
勇治「……別に好きでこうなったわけじゃない」
佐緒里「ふ~ん、そう」
勇治「……」
佐緒里「で、どうするつもり? ボクシング、続けるの? 辞めるの?」
勇治「……」
佐緒里「赤ちゃんまで出来て、油売ってる場合じゃないでしょ。一体、これからどうするの?」
勇治「……分からない。……正直、自分でもよく分からない」
佐緒里「……」
勇治「どこかでボクシングを続けたいという思いがある。けど、あの判定以来、どうにも燃えてこない……。奮い立つものがない……」
佐緒里「やっぱり、まだ拘ってるんだ。あの試合に」
勇治「……」
佐緒里「負けたと思えない負けに、ずっと拘ってる」
  勇治、伏し目がちになる。
  佐緒里、スケッチブックでテーブルを叩き、
佐緒里「甘ったれるな!」
勇治「……」
佐緒里「あんたは由香に甘えてる。由香は大人しい娘(こ)だから何も言わないけど、一家の主がだらしないこと言うな!」
勇治「……」
佐緒里「何が燃えてこないよ! 奮い立つものがないよ! 何言ってるの!」
佐緒里、テーブルに身を乗り出して、勇治の股間を掴み、
勇治「おい!?」
  勇治、思わず腰を引く。
佐緒里「赤ちゃんまで作っておいて!」
  佐緒里、座り直して、
佐緒里「しっかりしてよ! 男でしょ。あんたがそんなんだから、由香は何も言えないのよ」
勇治「……」
佐緒里「府抜けたこと言ってんじゃないの」
勇治「……」
佐緒里「……でも、まぁ、確かに、あなたのそのやるせない気持ち、分からなくもないんだけどね」
勇治「……」
佐緒里「でも、同情が欲しい訳じゃないでしょ? きついこと言ったけど、あなたのためでもあるし、由香のためでもあるのよ」
勇治「……」
  佐緒里、勇治を見て、ため息をつく。
佐緒里、ポケットから財布を出す。
  佐緒里、三万円を出して、机の上に乗せる。
勇治「……」
佐緒里「それで、憎いあんちくしょうの顔、見てきな」
勇治「……」
佐緒里「そしたら、何かあるんじゃない?」
勇治「……」
佐緒里「行ってきなよ」
勇治、テーブルに置いてある三万円を手にする。
佐緒里「言っとくけど、それ、貸しだからね」
  勇治、佐緒里を見て、
勇治「金的は反則だ」
  佐緒里、笑う。

〇新幹線が走る

〇同・車内
  勇治、座席でボクシング雑誌を読んでいる。
  ページに深山竜の記事。

〇商店街
  人々で賑わっている。
  商店街の中にあるボクシングジムの前に人集り。
  ジムの壁には、深山竜の試合ポスターが貼ってある。
  ボクシングジムの中が見える窓に人が集まり、中を見ている。
  勇治、窓から中を覗く。

〇ボクシングジムの中
  ジムの中にはトレーニングをしている選手たち。
  竜、リング上でミット打ちをしている。
  ミットをかわしながら当てるミットに的確にパンチを当てている。
  動きが俊敏で一際目立つ。

〇同・ジムの外
  勇治、一緒に窓の中を覗いていたおじさんたちが、
おじさんA「次勝てば世界挑戦やろ?」
おじさんB「とうとうこの商店街から世界チャンピオンが生まれるでぇ。こりゃ、盛り上がるでぇ~」
勇治「……」
  勇治、窓の中を見る。

〇同・ジムの内
  竜、上下に素早くミットに向けてパンチを打ち分けながらも、しっかりガードをしている。
勇治M「……上手くなってる。打ってから甘くなるガードもしっかり直ってる。隙がない。あのときより格段に上達している」

〇同・ジムの外
勇治「(呟く)今の俺とは、違いすぎる」
  勇治は虚空を見上げる。
  空は灰色の雲で覆われている。

〇公園の池
  佐緒里、公園のベンチに座り、風景をデッサンしている。
  勇治、ジャージ姿で走っている。
  勇治、佐緒里を見る。
勇治、止まって、佐緒里の隣に座り、タオルで汗を拭く。
  佐緒里、勇治を見ずに、絵を描き続けながら、
佐緒里「どうだった? 吹っ切れるものは、あった?」
勇治「……いや……遠くなっていた」
佐緒里「何が?」
勇治「……あいつはもう、遠いところに行っていたよ」
佐緒里「……」
勇治「俺は一体、何をしてるんだろ……」
  勇治、天を仰ぐ。
  佐緒里、筆を止め、勇治を見る。
  数羽の池のカモが前を横切るように泳ぐ。
佐緒里「そうか……。気分は未だ晴れず、か……」
勇治「……」
佐緒里「どうするつもり?」
  勇治、天を仰いだまま、首を横に振る。
佐緒里「どうしていいか、それもわからないんだ? 動こうにも動けない? 踏ん切りが付かないってとこ?」
勇治「……」
  池のカモが戻ってきて、前を横切るように泳ぐ。
佐緒里「なら、しょうがない。そのモヤモヤ、信吾君と戦って晴らすか」
勇治、まゆを寄せて、佐緒里を見る。
佐緒里「そりゃ、信吾君は新人で今の深山竜には到底及ばない。けど一年前のあのときと同じ状況なら、今の信吾君で作れると思うの」
勇治「……」
佐緒里「それじゃ、不服?」
勇治「……」
佐緒里「でも、きっと、あのときの試合に戻ることが出来る。信吾君なら十分、あのときの深山の代わりにはなると思う。どうお?」
  勇治、天を仰いだまま。
佐緒里「あなたにも分かるでしょ? 信吾君の才能」
勇治「……」
佐緒里「ジムが小さいから今は無名だけど、彼は強くなるわ。必ず頂点を手に入れるわ」
勇治「……」
佐緒里「それとも、プライドが許さない? 信吾君じゃ、あのときの深山にはならない?」
勇治「……」
佐緒里「信吾君と戦うことで、あなたの中でモヤモヤとしたまま、止まっている時が動くんじゃないかな……」
  勇治、天を仰ぎながら目を瞑る。
佐緒里「戦えるのは今しかないよ。いずれ深山竜のように、あなたが戦えないほど遠い存在になる」
勇治「……」
佐緒里「信吾君とスパーリングしなよ。それで白黒はっきりつけて、踏ん切りつけな」
勇治「……」
佐緒里「前にも後ろにも行けない、彷徨える愛弟子を救えるなら、きっと会長も許してくれるわ」
勇治「……」
佐緒里「その一戦で溜まっているモヤモヤを出して、一切合切吹っ切りなさい。そして、けじめをつけな」
勇治「……」
佐緒里「でないと、あなたも苦しいかもしれないけど、由香も苦しいよ」
勇治「……」
佐緒里「それでいいよね。会長には私から言っておくから」
勇治「……」
佐緒里「兎に角、やってみな。きっと何か答えが見つかると思う」
  勇治、立ち上がり、佐緒里の肩に手を乗せる。
  勇治、走り去る。

〇同・運動場
  雲(うん)梯(てい)や登り棒、腹筋台が置いてある。
  勇治、懸垂をしている。
    ×    ×    ×
  勇治、木々の間でシャドウボクシングをしてイメージトレーニングをしている。
  そし、木に手をかけて寄りかかり、息を整える。

〇回想・ボクシングジム
  リング上で信吾が、会長のグローブに向けて、フットワークを使いながら鋭いパンチを打ち込んでいる。

〇元に戻る・運動場
勇治「大丈夫だ。たとえ一年のブランクがあっても、体が覚えている。俺は十年、ボクシングをやってきたんだ。あんなかけ出しの小僧に負けるわけがない」
  勇治、木の枝にかけてあるタオルをとって汗を拭きながら、
 勇治、曇りがかった灰色の空を見る。

〇勇治と由香の住むアパートの部屋
  勇治、シャワーを浴びて、頭をタオルで拭きながら出てくる。
  勇治、おもむろに衣装箱からボクシングの試合で履く名前入りの派手なハーフパンツを出す。
  勇治、裏表眺める。
  勇治、ハーフパンツを履く。
  勇治、衣装箱から、試合用に着るガウンを出して羽織る。
  勇治、全身鏡で自分の姿を見る。
  勇治、構える。
  鏡の前でシャドウボクシングを軽く始める。
    ×    ×    ×
  勇治、ジャージ姿で、タオルでリングシューズを磨いている。
  勇治、かすかに口元が微笑んでいる。

〇勇治と由香の住むアパートの階段(夜)
  由香が買い物袋を持って階段を上る。

〇同・部屋
由香「ただいま」
勇治「ああ」
  勇治、床に腰掛けてテレビを見ている。
  由香は台所へ行く。
  勇治、後ろを向いて由香を見て、
勇治「何か変わったことあったか?」
 由香、冷蔵庫に買ってきたものを入れながら、
由香「別に何も」
勇治「そうか……」
  勇治、由香のお腹を見る。
勇治「お父さん、俺のこと、なんか言ってないか?」
由香「いや、特には」
勇治「そうか」
  勇治、テレビを見る。
  由香、オレンジジュースを二つ持って勇治の隣に座る。
  由香、勇治にジュースを渡す。
  勇治、受け取る。
  二人、並んでテレビを見る。
  勇治、テレビを見ながら、
勇治「明日、ジムでスパーリングやるからさぁ、お前、見に来いよ」
  由香、勇治を見る。
  由香、真剣な眼差しの勇治の横顔を見る。
由香「……分かった」

〇早川ボクシングジムの外観

〇同・ジムの中
  選手たちが練習している。
  直樹、サンドバックを叩いている。
  佐緒里、ジムの隅の指定席に座って、スケッチブックに絵を描いている。
  信吾、シャドウボクシングをしている。
  勇治、大きなカバンを持ってジムに入ってくる。
  由香も勇治に続いて入ってくる。
  由香、場違いなところに来たせいか、遠慮がちに入る。
佐緒里「由香」
  由香、佐緒里のいるところへ行く。
  会長、勇治に近づき、
会長「勇治、五ラウンドでいいな」
  と言って、手を広げる。
勇治「え、五ラウンドですか?」
会長「お前、満足に練習してないだろ。五ラウンドでも長いくらいだ」
勇治「……会長、今日のスパーリング、ヘッドギア無しでやらせてください」
会長「ヘッドギア無し!? それはお前」
信吾、会長の声を遮るように、
信吾「構いませんよ」
会長「信吾」
信吾「俺も試合近いんで、より真剣勝負に近い形で経験しておきたいんです」
  勇治、ニヤリと信吾を見る。
  勇治、会長の背を叩いて、
勇治「じゃぁ、そういうことで」
  勇治、更衣室へ向かう。

〇同・更衣室
  勇治、カバンから試合用のハーフパンツ、ガウン、リングシューズを出す。
  勇治、着替える。
  勇治、リングシューズの紐をしっかり結ぶ。
  勇治、ガウンを羽織る。
  勇治、全身鏡で自分の姿を見る。
  勇治、真剣な顔。
  勇治、構える。
  勇治、右ストレートを放ち、鏡の前で寸止めする。
  勇治、右手の拳を触る。

〇同、ジムの中
  勇治、試合用の姿で更衣室から出てくる。
  一同、勇治を見て驚く。
  ラフなカッコの選手たちの中、勇治の姿は明らかに浮いている。
  信吾、リング上のコーナーにいて、
信吾「……」
  佐緒里、リングサイドで信吾の近くにいて、
佐緒里「……」
  由香、ジムの椅子に座って、
由香「……」
  直樹、目を丸くしながら勇治に近づき、
直樹「どうしたんですか? そのカッコ?」 
  勇治、照れ笑いして、
勇治「スパーリングでも久しぶりの試合だから、ちょっと気合い、入れたくてね」
信吾「……」
  信吾、勇治の覚悟を感じ、顔つきがより真剣になる。
  勇治、信吾と目が合う。
  信吾、顔を逸らし、ロープにつかまり、肩胛骨を伸ばす。
  佐緒里、信吾に近づき、
佐緒里「信吾君。手加減しないでいきなよ。それが勇治のためなんだから」
信吾「……」
  佐緒里、申し訳ない顔で由香を見る。
  由香、椅子に座って、心配そうな顔でリング上の勇治を見ている。
  勇治、信吾の背中を見ながら、コーナーで構えながら、体を左右に揺すり、
勇治「有望株」
信吾「……」
  信吾、振り返り勇治を見る。
勇治「このクズが、お前の実力、見てやるよ」
信吾「……」
勇治「お前が深山竜以上の器か、俺が見極めてやる」
信吾「……」
  信吾、顔を逸らし、トレーナーを見る。
トレーナー「油断するなよ。特に右ストレートには注意しろよ」
 と言いながら、トレーナー、信吾にマウスピースをはめる。
  佐緒里、リングサイドから信吾に、
佐緒里「気抜いちゃダメよ。白黒はっきりつけてあげなさい」
信吾「……」
  勇治も直樹にマウスピースをはめてもらう。
  勇治、胸元でグローブを合わせる。
会長「よし、二人とも、行くぞ」
  会長がゴングを鳴らす。
  勇治と信吾は向かい合ったコーナーから飛び出していく。
佐緒里「二人とも、本気で戦うのよ!」
  勇治が先にジャブを出す。
  信吾、構えながら体を反らしてかわすも、すかさず勇治が右ストレートを力一杯打ってくる。
  信吾、体を反らしながらガードしている腕にぶつかる。
  鈍い音がする。
勇治M「……痛くない。もう大丈夫だ」
  勇治、体を左右に揺さぶりながら、ジャブで牽制しては、右ストレートを放つ。
  信吾、ガードでかわす。
勇治M「ブランクがあろうと相手は新人なんだ」
  勇治、信吾と竜がダブる。
  信吾の顔が竜の顔になる。
勇治M「……二戦目の相手をした深山竜なんかに俺は負けない!」
  竜の顔が信吾の顔に戻る。
勇治M「五ラウンド前に決着をつける!」
  勇治、猛攻を仕掛ける。
  信吾、ガードを固めて防戦一方。
セコンド「信吾、足を使え! 練習通りにいけ!」
  信吾、ステップで距離をとりながら勇治の猛攻をかわすも、勇治は信吾との距離をつめ、がむしゃらに猛攻を仕掛ける。
  一瞬、ガードの隙間から信吾の目が光る。
  信吾、いきなり踏み込み、勇治との間合いをつめる。
  勇治、ハッとする。
  信吾、右ストレートを放つも、それはフェイントで、勇治の顔の前で寸止めする。
  勇治、思わずガードを顔の前に持っていく。
  信吾は凄い早さで、勇治の脇腹に左ボディフック、顎に左アッパー、横顎に左フックの左三連打を続けざまに放つ。
  一瞬、静寂が過ぎる。
  勇治、後ろにぶっ倒れる。
  勇治、ピクリとも動かない。
  静寂を破るように会長の声。
会長「勇治!」
  セコンドや会長、直樹がリング上になだれ込み、慌てて勇治の傍に駈け寄る。
  会長や直樹が勇治を介抱する。
  勇治、うめき声を発するのが精一杯。
  由香、椅子から立ち上がって、ハンカチを両手で握っている。
  その手が震えている。
  信吾、倒れている勇治に近寄る。
  勇治、おぼろげながら信吾の姿が見える。
  信吾、介抱されてる勇治を見下ろし、
信吾「勇治さん。俺の試合に判定はありません。倒すか、倒されるか、それだけです」
  信吾、立ち去る。
  リング上では直樹が、
直樹「勇治さん!」
  勇治、意識が朦朧としている中で、
勇治M「……俺は、こういうのが欲しかったんだ……。白か黒か、誰が見てもはっきり分かるってやつを」
  勇治、朦朧とした意識の中で、灰色に覆われた隙間から光を見ながら、
勇治M「ああ、灰色に覆われた……霞(かすみ)がかっていた俺の空が、晴れていく……」
  勇治、恍惚とした表情を浮かべる。
  由香、リングに上がり、皆に介抱されている勇治に、
由香「勇治さん! 勇治さん!」
  勇治、弱々しい瞳で由香を見る。
  勇治、由香が霞んで見える。
  由香、涙を流している。
  勇治、ニヤリと笑い、そして、目を瞑る。

〇勇治と由香の住むアパートの部屋
  カーテンがしてあり、部屋は薄暗い。
  勇治、布団の上で寝ている。
  勇治、うめき声と共に目を覚ます。
  勇治、上半身を起こすも「イテテテ」と声を上げる。
  勇治、上半身を起こしたまま、暫くそのまま放心している。
勇治「……甘く見ていたのか? いや、そんなことはない……見えなかった……何が起こったのか、全く分からなかった……」
  上半身を起こしたまま、暫く、ボーとしている。
  勇治、ふっと微笑み、
勇治「……ここまでかな……ここまでだ」
 勇治、何度も頷く。
勇治「……もういいよ……もういいだろ」
  勇治、悲しみがこみ上げてきて、むせび泣く。
    ×    ×    ×
  暫くして、玄関のドアを開けて、由香が帰ってくる。
  由香、起きている勇治を見て、
由香「良かった。やっと起きた」
勇治「そんなに寝てた?」
  由香、頷いて、
由香「二日だけど……寝顔が気持ちよさそうだったよ」
勇治「そうか。二日、眠っていたか……」
  勇治、由香を見て、
勇治「じゃぁ、久しぶりに二人で公園に外の空気でも吸いに行くか」
由香「大丈夫……」
  勇治、微笑んで、
勇治「大丈夫だよ」

〇公園の池
  勇治と由香、木の柵に囲まれた池の周りを歩きながら、
勇治「……由香」
由香「ん?」
勇治「俺に何か話すことないか?」
由香「……」
勇治「出来たんだろ。赤ちゃん」
  勇治、由香を見て、
勇治「佐緒里に聞いたよ」
由香「……」
勇治「そんな大事なこと、なんで佐緒里から聞かなくちゃいけないんだ? 直接、俺に言えよ。夫婦だろ」
由香「ごめんなさい」
勇治「いいよ、謝らなくて」
  勇治、由香の肩を抱き寄せて、
勇治「お前にも、心配かけたもんな」
由香「……」
勇治「でも、もう心配することはない。なんか綺麗さっぱり吹っ切れた」
  勇治、両手をあげて背伸びをする。
由香「……」
勇治「赤ちゃんも出来たし、仕事、すっか!」
由香「ボクシングは?」
勇治「もうやったよ……。やりきったよ。ほんと、満足してる」
  勇治、開き直って明るく、
勇治「それに、まさか新人に、あ~もあっさりやられるとはなぁ~」
  と苦笑い。
  由香、勇治を見て涙が零れる。
勇治「……泣くなよ」
  由香、頷く。
  由香、もう一度深く頷く。
  勇治、由香の腰に手を回し、二人で歩く。
勇治「……それでさ、俺、勝八で働こうと思ってるんだ。お父さん、俺を弟子にしてくれるかな」
由香「え、お父さんの弟子になるの?」
勇治「ダメか?」
由香「ダメじゃないけど、きっと厳しいよ」
勇治「構わないさ」
  由香、微笑む。
  勇治と由香、寄り添って歩く後ろ姿。
N「灰色の空があけるとき、次のステージへのゴングが鳴る」
  灰色に曇りがかっていた空から、一筋の光が差し込んでくる。

             〈終わり〉




明日は、2012年作品、ちょうどこの作品を書く前に、小説で書いたのを脚本に脚色して応募した作品です。

日テレのスクールにも出したかな

ヤンシナに出して、テレ朝に出して、大幅改稿して、今年の創作テレビドラマに出して、もろくも砕け散った自分の中では自信作

でも、自信作と呼べるものは、自分が満足するだけじゃダメだ

読んでくれた人も満足してはじめて自信作と言えるんだなぁ~

と痛感させられた作品です。


ほんと、この「灰色の空があけるとき」は、ただ時間があったから書いた作品なんだよな

それが一次通過したときは、ほんと驚いた、というか、自信作は一次通った作品は一つもない


これで2013年に書いたのが、とても公開に耐えられない作品だったとわかった。←公開に耐えうる作品かどうか、今のところそれはやめておこうと思います。万年一次落ちの俺がいうのも変だけど、なんの成長も見えない作品だから、


まぁ、明日から、創作テレビドラマに出した作品を、全三回に分けて公開します。

ほんとこれは自信作でした

でも、ヤンシナ、テレ朝、創作テレビドラマとすべて一次も通らず



ほんと、この作品も二年も前の昔の作品ですが、コメントいただけたら幸いです

そこで、お互い何か明日への糧でも見つかったら、それだけで儲けもんです。

というか、それしか、得るものがありません。


さて、本日はジムでストレス解消だ

コメント (6)

テレビ朝日21世紀シナリオ登竜門応募作「灰色の空があけるとき」 前編

2014-07-12 18:26:31 | テレ朝応募作「灰色の空があけるとき」
これは、一昨年かな、シナリオスクールに行っていて、ちょっと時間があったので書いたら、

はじめて、テレ朝一次通過した作品です。

それを改稿して今年ヤンシナに出したら、一次も通らず落ちてしまいました

スクールに行ってるときは、脚本家の先生が、

「Aのコンクールでは落ちたけど、Bで受賞した人もいます」

とか言ってたけど、やっぱ落選作は通用しないのかな

来年か再来年の創作テレビドラマに出そうと思いましたが、なんか悪あがきしてもダメなものはダメだと思うので、

テレ朝とヤンシナだけにしておきました



タイトル「灰色の空があけるとき」



登場人物

小窪勇治(30)(31)バンタム級ボクサー

小窪由香(30)(31)勇治の妻

八巻佐緒里(31)画家

父(60)由香の父。とんかつ勝八の店主

会長(56)(57)早川ボクシングジムの会長

宮川直樹(26)フライ級

畑山信吾(19)バンタム級。早川ジム期待の新人。

川尻裕貴(18)ミニマム級

深山竜(20)(21)東洋バンタム級チャンピオン



《前編》


〇ボクシング会場
  リングの天井の照明の眩しい灯り。
  歓声がいきなり大きくなる。
  深山竜(20)、尻餅をついてダウンしている。
  両手を構えて立っている小窪勇治(30)の顔に驚きの色が伺える。
  赤コーナーにいるセコンドが、
セコンド「何やってんだ! ラッキーパンチ
 なんかもらいやがって! 舐めてかかるな!」
  竜、苦笑いをしながら、立ち上がる。
    ×    ×    ×
  勇治、竜のボディパンチを受けて、逃げ腰になっている。
  勇治、目尻から流血している。
竜、パンチを受けてないせいか顔が綺麗で表情に余裕がある。
    ×    ×    ×
  リングの天井の照明の眩しい灯り。
  歓声がいきなり大きくなる。
  竜、尻餅をついてダウンしている。
  赤コーナーのセコンドが、
セコンド「油断するなって言ったろ! ちゃんとガードしろ!」
  尻餅をついている竜が、セコンドに片手をあげて合図をする。
    ×    ×    ×
  試合終了のゴングが鳴り響く。
  リング上に選手、セコンドがいる。
  勇治、リングを回り、客席に向かって拳を上げている。
  竜、余裕の顔で、頭を回して待っている。
  レフリーがジャッジペーパーを見て、
レフリー「勝者、赤コーナー、深山!」
  竜の手が上げられる。
  勇治、思わず呆然とする。
  竜、手を合わせて観客に謝っている。
竜「しょっぱい試合してスミマセン」
  勇治、ボクシング関係者に異議を唱える。
勇治「嘘だろ! 冗談じゃない! どう見ても俺の勝ちだ! ダウン二回奪った俺がどうして負けるんだよ!」
  会長(56)、勇治を制しながら、
会長「やめろ、勇治」
  勇治、会長の制止を振り切り
勇治「ボクシング界、期待の新星だか何だか知んねぇーけど、こんなの八百長だ!」
竜「おい、コラ! ふざけたこと言うな!  誰がどう見ても俺の勝ちだ!」
ボクシング関係者「ちょっと君たち」
勇治「なわけねぇだろ!」
会長「勇治、やめろ!」
  勇治、リング上で叫ぶ。
勇治「こんなの、八百長だ!」
  勇治、竜を睨み、
勇治「俺はお前のかませ犬じゃねぇーんだ!」
竜「この野郎! いい加減にしろ!」
  竜、拳を上げて勇治に飛びかかろうとするもトレーナーに止められる。
  リング上は、騒然としたまま。
由香(30)、客席で困惑した顔をしている。
  リングの天井の照明の眩しい灯り。
    ×    ×    ×
N「半年後に遺恨試合として再戦が決まるも小窪勇治の拳の骨折で試合は流れた」
  勇治、ジムのリング上で右手を押さえ、痛がっている。
    ×    ×    ×
N「それから半年後。深山竜は東洋太平洋チャンピオンになった」
  試合後のリング上で、片手で東洋太平洋チャンピオンのベルトを掲げている。
    ×    ×    ×
N「小窪勇治は練習もせず、引退も出来ず、やるせない思いを抱いたまま、時をやり過ごしていた……」
  ジャージ姿の勇治(31)、釣り堀で釣りをしている。
  ウキが何度も浮き沈みするも、勇治はボーと見ているだけ。
  隣にいるおじさんが、見るに見かねて、
おじさん「お兄さん、さっきから引いてるよ」
  空は灰色に曇っている。

タイトル「灰色の空があけるとき」

〇とんかつ勝八のカウンターの中
  父(60)、とんかつを揚げながら、
父「亭主とはどうなんだ?」
  由香(31)、苦笑いして、洗い物を続ける。
父「ったく、お前たち、一体何やってるんだ!」
由香「……」
  父、サクッとしたとんかつを揚げて、
父「あいつも、いつまでもウジウジしやがって」
由香「……」
父「俺の作るトンカツみたいに、サクッとあげたろか!」
  由香、苦笑い。

〇公園の池
  公園は広く、池は木で出来た柵で囲まれている。
  池の周りをジョギングしている人たち。
  勇治、カモにパンをちぎってあげる。
  数羽のカモがパンを奪い合う。

〇早川ボクシングジムの外観
  ガラス張りで所々に試合のポスターが貼ってある。
  その間からジムの中が見える。
  数人の選手が練習をしている。

〇同・ジム内
  ジムは会話がなく、各自がサンドバックを叩いたり、シャドウボクシングをしたり、縄跳びをしたりしている。
  リング上では、会長と選手がミット打ちをしている。
  八巻佐緒里(31)、ジムの隅で椅子に座って選手のデッサンをしている。
  ジム、熱気がある。
  そこに、勇治がジムに入ってくる。
  サンドバックを叩く音が聞こえる。
  サンドバックを叩いていた宮川直樹(26)が勇治に気がつき、
直樹「勇治さん! 久しぶりじゃないですか」
  勇治、片手を上げて、
勇治「おう。元気」
  勇治を知ってる選手たちは勇治に会釈する。
  勇治、片手を上げて答える。
  リング上でミット打ちのミットをはめている会長(57)と目が合う。
会長「久しぶりだな。手の方は大丈夫か?」
勇治「もう大丈夫です」
  勇治、ベンチに座る。
  直樹、一心不乱にサンドバックを叩いている。
  ゴングが鳴る。
  リングでは会長が選手とミット打ちをする。
  佐緒里、ジムの隅の席でスケッチブックでデッサンをしている。
  勇治、練習をジッと見ている。
  直樹、息を切らせながら、勇治の前に来る。
勇治「随分、いい音、立てるようになったな。パンチが力強くなった」
直樹「あ、分かります?」
勇治「当たり前だ」
直樹「そうなんですよ。結構、パンチに威力が増してきたような気がして」
勇治「気じゃねぇよ。増してるよ」
  直樹、瞬間的に顔を下げ、
直樹「勇治さんにそういわれると、自信つきます。今度試合があるんですよ」
  直樹、ポスターを見る。
  ポスターのメインは東洋太平洋チャンピオン防衛戦で、そこに深山竜(21)が対戦相手と映っている。
  勇治、それを見て、
勇治「……」
  直樹、勇治を気づかい、申し訳なさそうに、
直樹「あいつの前座なんですけどね」
  直樹の顔も小さく写真が載っている。
  すると、二人のところに川尻裕貴(18)が、リングから降りてやって来る。
裕貴「小窪さんですか?」
  勇治、振り返る。
勇治「……」
裕貴「俺、深山戦見ました。あれは絶対小窪さんの勝ちですよ」
直樹「お、裕貴、わかってるじゃん」
裕貴「そりゃ、そうですよ。ダウン二度奪って負けだなんてありえないっすよ」
勇治「……」
直樹「だよな! ありゃ、いかさまだよ。出来レースだ」
裕貴「ああいうのがあると、ほんと嫌になりますよね」
直樹「ボクシング界期待のスターだかなんだか知んねぇーけど」
裕貴「俺、深山嫌いです」
直樹「おお、そうか! 今度飯おごってやる」
  裕貴、微笑み
裕貴「ありがとうございます」
  勇治、ポスターを見る。
  深山竜がファイティングポーズをとっている。
  佐緒里、パンチングボールを叩いている畑山信吾(19)をデッサンしている。
  佐緒里の筆が止まる。
  信吾、パンチングボールをやめ、ポスターを見ている勇治を見る。
  信吾、気に入らない顔で勇治を見る。
  佐緒里、勇治を見る。
  勇治、ポスターの深山に向かって、右ストレートを寸止めで打つ。
  リング上にいる会長が、
会長「信吾、あがれ」
  信吾、グローブを付けてもらう。
  勇治、佐緒里の傍に座って、
勇治「良く来るのか?」
  佐緒里、勇治を一瞥して、
佐緒里「……ここに来ると良質の筋肉が描ける」
  勇治、吹き出す。
佐緒里「あなたは何してるの? 女房に働かせて、亭主は油売り?」
  勇治、佐緒里を睨む。
  佐緒里、にらみ返して、
佐緒里「それじゃ、ただの紐ね」
勇治「……」
  佐緒里、リングに入る信吾を見る。
佐緒里「あの子、強いわ」
  勇治、鼻で笑い、
勇治「絵描きに分かるのか?」
佐緒里「分かるわ。動きが他の人とまるで違う。センスっていうのかな。まだ経験は浅いけど強いわ」
勇治「……俺より?」
  佐緒里、笑い、
佐緒里「問題外」
  勇治、笑って、
勇治「言ってくれるな」
  佐緒里、鼻で笑い、
佐緒里「ものが違うわ」
  ゴングが鳴る。
  信吾、会長の構えたミットに的確にパンチを打つ。
  いい音がする。
  勇治、目を見張る。
  勇治、しばし信吾を見続ける。
  佐緒里、勇治を尻目に出て行く。

〇とんかつ勝八の外観(夜)

〇同・店内
  佐緒里、スケッチブックを小脇に抱えて入ってくる。
  カウンターの中にいる由香と目が合う。
  佐緒里、カウンター席に座る。
  由香、お茶を出し、
由香「何にする?」
  佐緒里、カウンターに置いてあるメニューを見て、
佐緒里「そうだなぁ。薄切れとんかつとクリームコロッケ定食」
   由香、カウンターの中に入る。
佐緒里「おじさんは?」
由香「商店街の寄り合い」
佐緒里「そう。じゃぁ、由香が作るの?」
  由香、頷く。
佐緒里「亭主は油売って、女房はとんかつ揚げる、か」
  由香、苦笑い。
佐緒里「勇治はここに来ないの?」
由香「父さんとかみ合わないの。水と油なのかな」
  佐緒里、吹き出して笑う。
  由香、苦笑い。
由香「佐緒里。それより相談があるんだけど」
佐緒里「ん? 何?」
由香「店終わってからでいい?」
佐緒里「別に構わないけど」

〇喫茶店の店内(夜)
  由香と佐緒里が奥の席に向かい合って座っている。
  佐緒里、驚き、思わず大きな声で、
佐緒里「妊娠!?」
  由香、口に人差し指を立てて、「シー」という仕草をする。
  由香、あたりを見回す。
佐緒里「大丈夫よ。私たちだけだから。で、そのこと勇治には言ったの?」
  由香、首を横に振る。
佐緒里「なんで? そんな大切なこと」
由香「おそらく、今、言ったら困るでしょ?」
佐緒里「困らせればいいじゃない。練習もやらず、働きもせず、日がな一日、嫁からもらう小銭で油売ってるだけでしょう。あなた一人思い悩む必要ない わ」
由香「でも……」
佐緒里「でも、何?」
由香「もし、赤ちゃんを拒絶したら」
  と言って、俯きお腹に手を当てる。
佐緒里「由香。あなたが尻込みしている今も、お腹の子は育っているの。待ってはくれないの」
由香「それは分かるけど……」
  由香、考えあぐねる。
  店のカウンターではマスターが一人、コーヒー道具の手入れをしている。
  佐緒里、コーヒーを飲み、コーヒーカップをソーサーに置く。
  佐緒里、ため息をつき、感慨深げに、
佐緒里「でも、まぁ、中々、難しいのかなぁ」
由香「何が」
佐緒里「本人が負けたと思えないのに、負けたってことを受け入れることがさ。特に相手からダウンを二度も奪っちゃうと、余計そうなのかな」
由香「……」
佐緒里「人の評価って、ほんと難しいのよね。芸術の世界もそう」
由香「……」
佐緒里「芸術って良し悪しがはっきりわかんないでしょ。見る人がみれば分かるんだろうけど、あのゴッホだって生前は、全く売れなかったのに死んでか ら売れたわ。そしたら、若い頃に描いた絵まで評価されて高値で売れるようになったんだから」
由香「……」
佐緒里「私の絵だってそう。象が鼻で描いた絵の方が断然評価が高く高値で売れるわ。(苦笑し)ほんと、やんなっちゃう」
由香「……」
佐緒里「でも、ボクシングの世界は、比較的勝ち負けは、はっきりしてる方だと思う。でも、それもKOに限ってのことかもしれないのかなぁ」
由香「……」
佐緒里「判定になると難しいのかな。勇治のあの試合のように。色々な思惑があると、人の目はひいき目になりやすいのかもしれない」
由香「……」
佐緒里「負けたと思えない負けは、人からやる気を奪う。そう簡単に割り切れるものじゃない。そこから気持ちを奮い立たせるのは中々難しい」
由香「……」
佐緒里「今の勇治は、未だ気持ちの整理がつけられず、続けることも辞めることも出来ない。どうしたらいいのか、分からないのかもしれないな」
由香「……」
  佐緒里、身を乗り出して、
佐緒里「でも、それと赤ちゃんとは別。彼に言いなさいよ。そして、二人で考えなさい。いいわね」
由香「……」
  佐緒里、付け足すように軽い気持ちで、
佐緒里「あ~、お腹出てきたら描かせてよ。妊婦、描いたことないんだ」

〇勇治と由香の住むアパートの部屋(夜)
  勇治、寝そべってテレビを見ている。
  由香が入ってきて
由香「ただいま」
勇治「おそかったな」
由香「ちょっとお店の常連さんが長くて」
勇治「そうか」
由香「ご飯は?」
勇治「食べた」
由香「そう……」
  由香、何か言いたそうな顔。
  由香、お腹に手を当てる。
  由香、台所に行き蛇口をひねり、水を出して食器を洗い始める。



  後編に続く。



ワードをブログに移すと、改行とか、1行開ける、2行開ける、が出来てないんだね。

一応、わずかでも読んでくれる人がいると思うので←念

気がつく限り、ブログで1行、2行はやってみました。


さて、これで今年の希望はなくなってしまった。

あとは手元に新作があるだけ、

それと小説へのチャレンジだな

これで推定28年を迎えるのか

厳しいなぁ~


そうか、これ2012年11月作品だ


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