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Plavi voz ~チトー大統領のブルートレイン 1:ベオグラードの森の中に眠る青い列車

2017年09月03日 | 旅行記:2017 セルビア・ブルガリア
Photo:ベオグラード近郊の車庫に眠るPlavi voz(セルビア語で「青い列車」の意味)


ヨーロッパの東側、アドリア海を挟んでイタリアと向かい合うバルカン半島にかつて「ユーゴスラヴィア」と呼ばれる国があった。

「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字」を有する「1つの国」、ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国は今日では完全に解体され地上から消滅しているが、この余りにも多くのものを内包していた混沌とした地域を30年以上に渡り「1つの国」としてまとめ上げていたのが、ヨシップ・ブロズ・チトー大統領

クロアチアの田舎の小学校を卒業後すぐに錠前工として働き始めた少年は、やがて労働運動に身を投じ、徴兵され、ナチスドイツに抵抗するパルチザンのリーダーとなり、遂には新たに生まれた連邦国家の終身大統領にまで上り詰めた訳だが、この稀代のカリスマが1980年に死去するとユーゴスラヴィアは崩壊への道を歩み始める…

今日、チトーはようやく落ち着きを取り戻した“旧ユーゴスラヴィア”諸国において、ある種のノスタルジーをもって語られる事が多いという。
旧き良き時代、懐かしいあの頃の象徴として、連邦解体と凄惨な民族紛争と内戦を乗り越えてきたこの地において、チトー大統領もようやく安らかな眠りに就けたということだろうか。

そんなチトー大統領の生前を偲ばせる意外な遺産が、実は今日も秘かに存在している。
それは何と、鉄道車両
チトー大統領の専用列車として特別に製造された車両が、今でもかつてのユーゴスラヴィアの首都であったセルビア共和国のベオグラード近郊の車庫で保管されているのだ。

美しい青い塗装を施され、セルビア語で「青い列車」を意味する「Plavi voz」と称されるチトー大統領の専用車両は、日本でも海外の鉄道好きの間では「チトーのブルートレイン」と呼ばれてそれなりに名の知られた存在であったが、何しろ日本では現地セルビアの情報が少なく「幻の列車」という印象だった。
だが今回、インターネットを通じて知り合ったベオグラード在住の方にお世話になって、実際にこの「幻の列車」に直接対面することが出来たのである!
インターネット時代の文字通り世界を越えた人と人とのつながりの素晴らしさと、遠く離れた街でわざわざ手配を整えて下さった事にひたすら感謝です。

…それでは、天燈茶房読者の皆さんもご一緒に「チトーのブルートレイン」に会いに行きましょう。
青い列車たちは、ベオグラード近郊の森の中の車庫にひっそりと眠っていました…


(取材日:2017年8月14日)


朝から、タクシーで「チトーのブルートレイン」が保管されている車庫へ。
ベオグラードは大都市だが都心からでも少し車を走らせるとすぐに緑豊かな森が広がる。この森の向こうにブルートレインが眠っている…


やがて、木立の中に線路と鉄道車両が留置された工場のような建屋が現れた。
「あっ、青い客車がいる!」間違いない、どうやらここがブルートレインの車庫のようだ。

車庫に着いて、現在ブルートレインの整備を担当しているセルビア鉄道の関係者の皆さんに挨拶。
「今からブルートレインの電源を入れるからちょっと待ってて」と整備場の詰め所に案内される。

鉄道員の皆さんは突然訪れた日本人に対してとても親切で、「ラキヤ(バルカン半島で客人に振る舞われる蒸留酒)飲まないかい?」と勧められたが、断酒中だし度数40度(!)もあるラキヤなんか飲んだらひっくり返るに決まっている!(笑)
「せっかくですが、アルコールは駄目なんですよ」と丁重にお断りしたら、大笑いされた後に濃いトルコ風コーヒーが出てきた。皆さん本当に気さくでもてなし好きのようだ。


ブルートレインの電源を立ち上げるのに時間がかかるようなので、その間に車庫の整備工場を見学させてもらう。
工場長のデスクにはしっかりユーゴスラヴィアの国旗が掲げられていた…


そして壁には、ブルートレインの主であるチトー大統領の姿を列車と共に収めた写真が…

電源の準備にもう暫く時間がかかるようなので、車庫の中のブルートレインの外観をじっくり眺めてみる。



ブルートレインの車両は、車体に波型のコルゲート(ビード加工)が入った重厚なもの。
青く塗られているが、車体そのものは旧共産圏やかつての中国などでよく見られた緑色の「社会主義国の標準客車」と同じもののように見える。
セルビア鉄道の公式サイトによると1959年に製造されたとあるから、新製から既に60年近く経過したとても古い車両ということになるが、きれいに整備されているのでまるで新車のようだ。




車体に英語表記が一切無いのでよく分からないが、窓配置が異なる車両は食堂車かコンパートメント車かも知れない。


ブルートレイン車両の車体を飾るエンブレムは、6つの共和国を表す「燃える松明」をあしらったユーゴスラヴィアの国章。
ただし、オリエント急行のワゴン・リ車の「向い獅子」や「ななつ星in九州」の五芒星のエンブレムと比べたら非常に小ぶりで、控えめに掲げられている印象。


車庫にずらりと並ぶ磨き上げられたブルートレイン車両。壮観である…


ふと「そういえばチトー大統領が健在だった頃は『ブルートレインは実は常に2編成が運用されており、チトーが乗っているのとは別の影武者編成が暗殺者の目を誤魔化す為に走り続けている』なんて噂もあったらしいなぁ…」などと独り言をつぶやいたり。
この車庫の中には相当な数のブルートレイン車両が収蔵されているようなので、その気になれば実際に2編成運用も可能だったかも?

やがて詰め所の方から「電源の準備が出来た!列車の中に入れますよ」と声がかかった。
…お待たせしました、赤いテールランプの灯るデッキのタラップを登って、いよいよ幻のチトーのブルートレインの車内に入ります!



2:ようこそ、ユーゴスラヴィア大統領専用列車へ!に続く

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