さらにもう一つ、面白いことがあります。三つの化学物質の一つは、「ここにおいしい餌があるよ」と仲間に知らせる「餌場マークフェロモン」でもあるようなのです。一つの化学物質が、ある時は攻撃を知らせるフェロモンになり、ある時は餌場を知らせるフェロモンになる。その違いは、ほかの物質との組み合わせ方や配合比、濃度などによるもののようです。
なんだか、人がアルファベットやあいうえおを組み合わせて話すのと似ていると思いませんか。
この三つの化学物質が、バナナなどのフルーツの香り成分や化粧品に使われる香料などに含まれる場合がある、ということですね。
警報フェロモン中の3種の化学物質を合成し、しみ込ませたろ紙には、働き蜂が激しく反応し群がるが、化学物質がないと蜂はまったく寄って来ない。
そうです。ただし三つの物質は、人に好まれる香りを構成する成分の中でもマイナーなものですよ。
それに、私たちの研究グループは、日本にいる計7種のスズメバチの警報フェロモンを、既に絞り込んでいます。それぞれのスズメバチによって、警報フェロモンに含まれる化学物質の数も種類も異なり多様です。
したがって、学術的には個々の物質の構造がたいへん重要なのですが、応用という観点からは今回の論文で明らかにした三つの物質が含まれる化粧品や食品を探したところで、あまり意味があるとは言えないでしょう。オオスズメバチは避けられても、ほかのスズメバチを刺激するかもしれませんし、自然界にはマタタビの香りに猫が反応してしまうような予期せぬことも起こりえるのです。「スズメバチの巣があるところでは、香りの強いものの使用を控える」、これが大切だと思います。