『花粉症改善』夢の米 医薬品扱い、実用へ課題
金網で隔離された水田で育つスギ花粉症緩和米=茨城県つくば市の農業生物資源研究所で |
ご飯を食べ続けるだけでスギ花粉症が改善する―。そんな夢のようなコメ「スギ花粉症緩和米」が遺伝子組み換え技術で実現され、茨城県つくば市の農業生物資源研究所の農場でいま実っている。だが、このコメが医薬品の扱いを受けているため、人の健康への影響や効能について通常の遺伝子組み換え農作物以上に厳しい検査が必要で、実用にはまだまだ課題があるという。
花粉が目や鼻などの粘膜にくっつき、体内の免疫細胞から「体外から侵入した異物」と判断されると、免疫細胞からヒスタミンなどの物質が出て、くしゃみやかゆみなど花粉症を引き起こす。花粉に含まれる特定のタンパク質が異物と判断される際の目印で、これを感知することがアレルギーの引き金となる。このタンパク質を体に徐々に注射して慣らしていくと、やがて激しいアレルギー反応を起こさなくなる。この治療法は「減感作療法」と呼ばれる。花粉症緩和米は、この減感作療法を応用したものだ。「遺伝子組み換えで、コメの中にスギ花粉症の原因となるタンパク質の一部を作り出し、これを毎日食べれば減感作療法と同様にアレルギーが抑えられるのではないか。そうすれば、つらい注射もいらなくなる」と、田部井豊・同研究所遺伝子組み換え研究室長。同研究所は、2000年に花粉症緩和米の開発に着手。スギ花粉症を引き起こすタンパク質で、特に異物として認識されやすい「エピトープ」と呼ばれる部分を作る遺伝子を人工合成して、イネの遺伝子に組み込んだ。農林水産省の許可も下り、一昨年からは所内の隔離した水田でイネを育て、エピトープを含んだコメを収穫している。高岩文雄・同研究所遺伝子組み換え作物開発センター長は「コメの中ではエピトープが安定に保存される。食べた後も、胃液からエピトープが守られるので、腸の免疫細胞に届きやすい」と、イネを選んだ理由を説明する。