中川輝光の眼

アトリエから見えてくる情景
paraparaart.com ArtDirector

坂本の美しい食べ物

2007-09-02 | 文化を考える
 坂本の美しい食べ物

「ハチのせんべい」にはびっくりしましたが、人が食べる物でこれほど美しいのはほかにないのではないかと思うほど美しい食べ物です。観賞用としても十分に美しい菊を食材としてその色を残したまま、食べるのですから。

 鮮やかに歯ごたえも残し

さっとゆでほうれんそうとあえる

食べ方は、摘み取った食用菊の花びらの額の部分をとり、歯ごたえを残すように、多い目のお湯でさっとゆでます。ほうれん草と合わせてお浸しにしたり、酢の物、豆腐とあえてしらすあえにしたりして食べます。お寿司の具や漬物などにもするそうです。坂本の食用菊は、さくさくとした独特の歯ごたえとうま味があります。生で食べたときの苦みはゆでると嘘のように消えます。ほうれん草のお浸しに混ぜると、黄色い色の美しさにもまして、菊自体が独特のうまみがあり、美しさと共に大変おいしいほうれん草のおひたしができます。

食用菊が栽培されている坂本は、大津市の西部、比叡山延暦寺の門前町として栄え、今も町には多くの寺院があります。坂本では、古くから各家の庭や畑の片隅に食用菊を栽培していたそうです。松尾芭蕉の句にも堅田で菊なますを出された際に読まれたものがあり江戸時代には、すでにこのあたりで栽培されていたことが伺われます。食用菊で有名な東北地方とは違い、関西では、食用菊といえば普通刺身のつまなどに、一輪添えるぐらいですが、坂本では、東北地方と同じように、小菊や中輪の菊をおひたしや酢の物にして食べます。

作る人は年々減少

食用菊は、少し前まではこの地域では自家用に多くの家で作っていましたが、宅地開発のため農地が減っていることや、毎年植え替えていかなければならないなどの手間がかかることから、年々作る農家は少なくなってきています。坂本では、食用菊を守るため坂本菊料理振興会を作り、苗の交換や技術の向上を図るなど坂本の食用菊の伝統を守っています。しかし、会のメンバーのほとんどが60歳以上の人ばかりで、なかなか若い人に受け継がれていないのが現状です。栽培面積も坂本地区全体で30a程度だと言われています。出荷も関西では、食用菊を食べる習慣があまりないことからか、市場にはほとんど出しておらず、坂本の門前の寺院に精進料理の材料として提供したり、土産物店で販売されるぐらいだそうです。

この先も引き継がれるだろうか

坂本の食用菊は、鮮やかな色、味、季節感、そして花を食べるという華やかさなど、現代にも受け入れられる多くの良い点をもっています。坂本の食用菊は、間違いなく歴史ある坂本の町が育てた守らなければならない滋賀の貴重な伝統野菜です。