みつばちマーサのベラルーシ音楽ブログ

ベラルーシ音楽について紹介します!

「オモチャヤサン」(2001年)

2008年02月08日 | トーダル
「店長の開店の歌」より・・・
・・・何世紀にもわたり、一緒に遊んでいるけれど
   いつまでたっても分からない。
   人がオモチャと遊んでいるのか?
   オモチャが人と遊んでいるのか? ・・・・・

 クリヴィを脱退し、ソロ活動に入ったトーダルが2001年に発表したファーストアルバム。
 どうして「おもちゃ屋さん」とか「オモチャ屋さん」などに翻訳せず、全部カタカナの「オモチャヤサン」にしたのかは、理由があります。
 それは、おもちゃという言葉の持つかわいらしさとは全く違う、「ブラックユーモア」と「風刺」が満ち満ちているから。

 トーダルが
「僕はクリヴィを脱退して、自分の音楽を追求します!」
と、いきなりソロ活動に入ってしまい、
「そうか。それじゃあ、どんな音楽を作るのかな? 楽しみ。」
と思っていたファンは「オモチャヤサン」を聴いて、びっくり仰天したと思うよ・・・。
 ベラニカなんか、これ聴いたとき
「ええっ?! こんな作品を作りたいからクリヴィをぬけたの、トーダルは!? むきーっ!!」
と自分の髪の毛を引っ張ったかもしれない・・・
 と想像してしまうほど、今までのトーダルとは違った印象と、強烈なインパクトを与える曲が収録されています。

 どうして「オモチャヤサン」というのかと言うと・・・
 収録されている12曲全部が「オモチャヤサン」ことおもちゃ屋の店長の歌と、売られている(しかも生きているという)おもちゃの歌になっているから。
 さらにそれぞれのおもちゃの歌の合間に、店長の宣伝文句が入るという懲りよう。
 ただ、このおもちゃは全部動物のおもちゃで、どうも動物の形をしたぬいぐるみのおもちゃらしい。そしてその動物が自分の持ち歌を歌うのです。
 収録曲のタイトルについては下記をご参照ください。
 
 しかしまあ、これ、「おもちゃの歌」って言っているけど、本当は動物の歌で、しかも人間の歌です。
「こういう人、いるよねえ。」
「いるいる!」
と言う具合に聞けます。そして笑えます。
 歌詞の内容もさることながら、歌の合間の店長の宣伝がかなり強烈です。ちなみにこの店長の宣伝文句も詩人のレアニード・ドラニコ-マイシュークさんが書いたものです。しゃべっているのはトーダルだけどね。
 せっかくなので、一部ご紹介しましょう。
 
 たとえば8番の「自由なズーブルの歌」の後、店長がリスナー(つまり「オモチャヤサン」の買い物客)に向かって話しかけます。
「(前略)ズーブルに荷馬車はくくりつけられませんが、ウマにはつけられます。(中略)
馬具をつけようとすると首を振っていやいやをするウマもいますが、鞭で引っ張ったけば、おとなしくなります。(中略)
荷馬車に乗って鞭を振るご主人が紳士的な人間なら、ウマのほうも恥ずかしくないんですが、そうじゃない人間だった場合、ウマも恥ずかしく思っていることだけは覚えておいてくださいね。」

 この宣伝文句の後、9番の「おとなしいウマの歌」が始まります。その歌詞はこんな具合。

「僕はおとなしく我慢強い。
 住んでいるところはベラルーシ。(中略)
 重荷を背負って汗だくになって働いているうちに
 人生は過ぎ去っていく。
 僕に干草をあげるのを忘れないで。
 麦をあげるのを忘れないで。」

 そして、この歌の後、店長の宣伝文句が入ります。

「働きすぎて、疲れきり、よぼよぼの年寄りになってしまう。こういう怖いことが起こることもあります。
 でも、これは私の店のウマのことではありません。うちのウマはオモチャですから、全然疲れないし、買えばあなたの家にずっといます。どこへも逃げないよ。
 あなたも仕事に疲れたら、このウマのように家にずっといればいいんです。自分の仕事だけを適当にやって、給料という名の麦をもらえばいいんです。余計な仕事なんてするだけ損です。自分の能力を見せびらかして、周囲に認めてもらおうなんてしなくていい。(中略)
 いつもにこにこ愛想よく、上司の言うことには何でも、『はい。』とだけ答えておく。間違っても反対意見なんか言っちゃいけませんよ。(中略)
 個人的意見などというものを挟まないようにすれば、職場のみんなはあなたに満足してくれます。
 まあ、個々の人間が全員賛成ばかりしていると、社会全体というものは、だんだん腐ってくるんですが。
そのことをよく知っているのはクマです。」

 そしてこの宣伝文句の後、すぐに10番の「お人好しなクマの歌」が始まります。
 いやあ、このウマ「住んでいるところはベラルーシ。」と歌っているのですが、私には「日本」に聞こえてしまうんですよね。
 オモチャヤ店長が言っていることも、全部日本、ならびに日本人にも当てはまると、思いませんか?
 いやはや、詩人のレアニード・ドラニコ-マイシュークさんは天才だね。尊敬する。よくこれだけ、思いつけたよ・・・。人間と動物と社会をすごく観察しているんだなあ、と思いました。
 ちなみにマーサが一番好きなのは「賢いカラスの歌」です。 

 とにかく、どの歌も「これでもか!」というぐらい強烈です。笑えるんだけど、心の底からの楽しい笑いはできないですね。
 ちなみに歌っているのは、店長も動物も全員トーダルです。店長の宣伝もトーダルが語りに語ります。
 トーダルが歌うと本当にその動物が歌っているように聞こえます。そこのところがまたすごい。性格も歌い分けている。7番の「満足しているオンドリの歌」なんか、コケコッコーとか鳴いているわけではなく、人間の言葉の歌詞を歌っているだけなのに、本当にオンドリが歌っているように聞こえます。
 トーダルの芸達者なところがよく分かるアルバムですね。
 ちなみに他の動物の歌もあり、全部で20種類の詩があるのだそうです。
 そのうち10種類をトーダルが選んで曲をつけました。(他の動物の詩も読んでみたい。)

 ゲストで有名な歌手ヤドビガ・パプラフスカヤ(このブログ内「ミュージカル「預言者」② と③参照。)がトーダルといっしょに歌っているのも、特筆ものです。ああ、きれいな声。ほんと、声がきれいだと得だと、感じます。それにしても、トーダルからの出演依頼に応じたよね。私はこの人のこと、元祖ベラルーシ人眼鏡アイドルだと思うのだが・・・。(ちょっと失礼?)

 ところで、収録曲の内容にちょっと注釈を加えると・・・ 

 4番の「賢いカラスの歌」で「百年は一日のよう。生き続けても疲れない」という歌詞がありますが、これはベラルーシではカラスは100年生きると言われているからです。日本で言うところの「鶴は千年、亀は万年」みたいなものでしょうか。

 6番の「不幸なヤギの歌」の歌詞。
「でも、しょっちゅう嫌がらせを受ける
子どもも大人もみんな
僕のことをヤギと呼ぶ」
 どうしてヤギと呼ぶのが嫌がらせになるのか、というと、ヤギはベラルーシ語で「馬鹿」とか「間抜け」と同意語として使われるため。

 7番の満足しているオンドリの歌の歌詞。
「僕より若いオンドリはとさかも・・・」のとさかですが、原作ではとさかではなく、「そ嚢」と歌っています。これは食道が膨らんで、一時的に食物をためておく器官のことです。(「そ嚢」のその字が出てこない。口へんに素)
 そ嚢と言われて、すぐに分かる人はとても少ないと思ったので、とさか、と訳しています。

8番の「ズーブル」とはヨーロッパバイソンのこと。分かりやすく言うと野牛。
 野生のものではベラルーシとポーランドにまたがる白い塔の森にだけ生息する希少動物。詳しくはHP「ベラルーシの部屋」の過去ログ「TBS『世界遺産』撮影裏話 生息する動物たち」をご覧ください。

http://belapakoi.s1.xrea.com/logs/tbs0415/menu.xhtm

「オモチャヤさん」のCDジャケット、表ジャケットには普通の牛(ただしピンク色)がデザインされており、内側にはズーブル(ただし変な色)がデザインされている。
 ちなみに表ジャケットには牛の写真が使われているけど、「ウシの歌」はない。(謎)どうしてこんなデザインにしたんだろう。よく分かりません。 

 「昼休みの休憩」とは商店で働く店員のための昼休みの休憩時間のこと。今でこそほとんどなくなったが、昔はあった。お昼ごろに買い物客を追い出し、1時間閉店してしまう。休憩時間が始まる5分前などに買い物に来ると
「もうすぐ昼休みの休憩時間です。入店しないでください。」
と入り口のところに立っている店員に入店を阻まれる。
 お客の買い物の便利さ、商店の利益などより、労働者ために、規則正しく、健康的で、みんなが同時に集まってわいわい食べる昼ごはんを優先させた制度。
 さすが、労働者の国、ソ連。
 ちなみに美容院でもこの制度があったため、昼休みの休憩時間になると、カット中でもパーマ中でもほったらかしにされた。
 今のベラルーシは(特に都市部では)利益優先に変化し、商店の休憩時間はもうない。
 
(「コンドラトの子守唄」のことは調べたけど分からなかったので、今度トーダルにきいておきます。)

・・・・・・・・

「オモチャヤサン」 作詞 レアニード・ドラニコ-マイシューク

1.店長の開店の歌
2.腹ぺこオオカミの歌
3.怖がりアナグマの歌
4.賢いカラスの歌
5.機嫌の悪いイヌの歌
6.不幸なヤギの歌
7.満足しているオンドリの歌
8.自由なズーブルの歌
9.おとなしいウマの歌
10.お人好しなクマの歌
11.コルホーズのヒツジの歌
12.店長の閉店の歌  

・・・・・・

 「オモチャヤサン」はただ今Vesna!で発売中です!
 もちろん、この黒い笑いが日本人の皆さんにも分かるように、歌詞、店長の宣伝文句とともに、日本語訳がちゃーんとついています。
 私も宣伝はしておいたよ。売れるかどうかは別として。(笑)

「店長の閉店の歌」より・・・
・・・親愛なる人間よ、
   小さい子どもも年よりも
   みんな、ねじを巻いて動いている
   生きてるオモチャみたいだよ・・・


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