徒然なるままに

日常を取り留めなく書きます

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

死の理由 4

2009-05-31 19:00:21 | 空想
サカキバラ警部がウエイターを呼んで、私はアイスコーヒーを頼んだ。机の上には飲みかけのコーヒーカップがふたつ置いてあった。
私はまず、今日呼ばれた理由を聞いた。
「サカキバラさん、ぼくは今日、何を話したらいいのでしょうか?」
警部は人懐っこい顔をしながら言った。
「ヨウコさんは明らかに自殺と思われるのですが、理由がわからんのですよ。遺書もないし、両親に聞いてもそれらしい原因はわからない。それでヨウコさんのまわりの人にいろいろと聞いているわけですよ。まあ、すべての自殺者の理由がわかるわけではないのですが」
私は警部の丸い顔を見ながら、また聞いた。
「その―、こんなことを聞いていいのかよくわからないのですが、ヨウコさんはどんな感じで、その、発見されたと言うか―、その時の状況と言うかー」
私は言葉の最後の方がしどろもどろになってしまった。
「ミツヤさん、ヨウコさんの家に行ったことがありますか?」
私はヨウコさんと初めて出会ったあの日のことを思い出し、少し恥ずかしくなった。
「一度だけ行ったことがありますが、ちょっと立ち寄ったくらいでして」
サカキバラ警部は私の顔を見て、何故か頷いた。
「ヨウコさんが亡くなったのは、6月3日の未明だと思われます。発見されたのは朝6時半くらい。いつもの朝食の時間にヨウコさんが来ない。母親はキッチンで何回かヨウコさんを呼んだが、返事がないため、まだ寝ているのだと思い、2階にあるヨウコさんの部屋に起こしに行った」
サカキバラ警部はまるで何かの調書を読んでいるように、唐突に話し出した。
「母親はドアをノックして、何回か呼びかけたが、ヨウコさんは出てこなかった。ヨウコさんの部屋は内側から鍵がかかって開かなかった。母親が鍵がキッチンの戸棚にあることを思い出して、キッチンにもどり戸棚を調べたが、鍵はそこになかった」
その時、ウエイターがアイスコーヒーを運んできた。少し乱暴にテーブルの上にコップを置くと、無言で立ち去った。
「ヨウコさんの部屋には鍵がついていたんですか?」
私はそう聞いてみた。
「ええ、鍵がついていました。しかし、母親に聞いたところ、ほとんど鍵をかけたことはなかったそうです」
私はアイスコーヒーをストローで少し飲んだ。
「ヨウコさんの母親は心配になって、父親を呼んだ。父親は前の日、会社の仕事を持ち帰って、夜、書斎で仕事をしていた。それでそのまま書斎で寝ていたそうです」
私がヨウコさんの家に行ったのは、初めて出会ったあの夜だけだ。まだ新しい2階建ての家だった。その時はリビングだけしか見ていない。書斎なんてものがあったのは気づかなかった。
「それで、父親が起きてきて、ヨウコさんの部屋のドアを開けようとしたが、鍵がかかっていて、やはり開かない。何度かノックして、呼びかけたが、ヨウコさんは出てこなかった」
私は無言でサカキバラ警部の次の言葉を待つ。
「ここまできて、ヨウコさんの両親は、ちょっと尋常ではない、娘に何かあったのかと不安になり、父親はドアに体当たりをして、強引にドアを開けたのです」
サカキバラ警部はここまで言って、コーヒーを一口のんだ。クワタ刑事は興味のなさそうな顔をしながら、髪をいじっていた。
「ヨウコさんの部屋は6畳のフローリング。ベッドと本棚、そして小さなテーブルがある。ヨウコさんはテーブルの横に横向けに倒れていました。机の上には大量の睡眠薬とブランデーのボトルが置いてありました」
私は、気になっていた質問をサカキバラ警部に向けた。
「その、ヨウコさんの死因は睡眠薬の飲みすぎなんでしょうか?」
警部はまたコーヒーを飲む。クワタ刑事はちょうど2本目のタバコに火をつけたところだった。
「睡眠薬はおそらく、かなり大量に飲んでいたでしょう。アルコールもかなり飲んでいたようです。しかし直接の原因は嘔吐した時に、気管を嘔吐物がふさいでしまったための窒息死。これが検死の結果です」
私は、いつか聞いたサンタの言葉を思いだしていた。睡眠薬では死ねない。ヨウコさんの死因はサンタの想像通りだった。
「その睡眠薬なんですが、普通の薬局には売っていません。医師に処方されなければ、手に入れることができないものなんです。しかし、ヨウコさんは最近、医師にかかった記録がない」
サカキバラ警部は私の瞳を覗き込んで、そう言った。
「ミツヤさん、状況は自殺なんですが、原因がわからない。どこからヨウコさんが睡眠薬を手に入れたか、それもわからないんです」
クワタ刑事がタバコを吹かしながら、突然、割り込んできた。
「ミツヤさん、ヨウコさんと付き合っていたんでしょ。彼女が何を悩んでいたか、どこから睡眠薬を手に入れたか、そんなことを知っていたら言って欲しいんだけど」
彼女の大きな瞳が私を見つめていた。その刺すような視線を感じて、私は思わず目をそらした。
「いや、ミツヤさん、些細なことでもいいんです。何かありましたら、お願いします」
サカキバラ警部は引きつった顔でクワタ刑事を一瞥して、その後、私の方には笑顔を見せた。
コメント

武道に至る過程

2009-05-30 23:18:21 | ボクシング
ボクシングジムに行き始めて、もう2年くらいになるだろう。
元々、ボクシングが好きだった。目が悪くなかったら、プロを目指すつもりだった。
まあ、素質はないかもしれないが。
39歳ごろ、体重が70Kgを超えて、腹が出てきた。外食中心の食事と、ビールが原因だろう。これではいけないと、食事制限をしてみたが、若いころみたいに体重が落ちない。ジョギングしたり、家でウエイトトレーニングをしたりしていた。
ふと、通勤経路にボクシングジムの看板があった。健康コースもあるという。
とりあえず、電話して、
「プロじゃないくて、健康のためにやることができますか?」
と聞いてみた。
「むしろ健康のためにきている人が多いですよ」
という会長の言葉だった。
一度、見学に行って、その場で入会を決めた。
健康コースとはいえ、それまで全く運動をしていなかった中年太りのぼくには、最初、かなりきつかった。
ロープ(縄跳び)なんて、10回くらいやると息があがった。
それでも、何とか続けて、シャドー、サンドバッグ、ミット打ちなど、だんだんと体が慣れてきた。
ロープも3ラウンド続けられるようになった。体重も10キロくらい落ちた。
やれば、できるじゃないか。
と、内心うれしかった。
そんなころ、会長から、
「スパーリングやってみないか?一人でやってるだけじゃおもしろくないだろ」
と言われた。
ぼくはかなりスタミナもついたので、やらせてくださいと言った。
ぼくがひとりで練習しているときに選手の人はスパーをやっていた。ぼくは練習しながら。それを見ていた。ぼくがやっても中々いい勝負ができるのかな、なんて思っていた。
初めてのスパーリングはよく覚えている。相手は選手じゃないけど、20代の若者だった。
ぼくの思いはあっけなく打ち砕かれた。
パンチはまったく当たらない。
相手のパンチがくることがわかっていても、よけられない。
ヘッドギアをしていて、16オンスのでかいグローブをしているので、致命的なダメージはないが、打たれると、頭がくらくらした。
それから、何度か選手の人にもスパーをやってもらったが、ほとんどパンチは当たらず、打たれてばかり。
頭でもああしよう、こうしようと思っているのだが、体の疲労が激しくて、思ったとおりに動かない。2ランド目はほとんどパンチが出せない。スタミナのなさを痛感した。
スパーリング大会にも出場したが、いいところがなく、負けた。
ボクシングもそうだが、格闘技、スポーツというのは、体力、反射神経、筋力などで勝負が決まることが多い。
そんなものは30歳を超えると、確実に衰える。どんなに練習しても、20歳の若者には、勝てない。ぼくは身をもって、そう実感した。
オリンピックの金メダリスト、ボクシングの世界チャンピオン、空手や柔道、K-1、サッカー、野球などのスポーツ、格闘技でも、40歳以上で、一流を続けている人はほとんどいない。まあ、例外もたまにいるが。
身体能力は歳とともに衰える。これはどうしようもない。だがそんな身体能力に頼らないで、強くなることはできないだろうか。
バガボンドという漫画がある。吉川英治原作の宮本武蔵を漫画にしたやつだ。
これに柳生 石舟斎という老人がでてくる。剣の達人。若き武蔵を圧倒する。
本当に強いということはどういうことだろう。
体力にまかせて、ぎらぎらとした強さ。そうではない。
柳生 石舟斎はかなりの老人だが、
「わし、今、最高」
なんてことを言う。
実際、剣道では老人が若者を子供あつかいするようなことがある。
ぼくが習い始めた武道は何歳からでも強くなれるという。
ただし、それなりに地道な鍛錬は必要だ。ただ体を鍛えるのではなく、技を、精神を、鍛える。
それが武道。誰かと比較は基本的にしない。強いて言えば、己との比較。
本当の強さとは何なのだろう。
ぼくの探求の道はまだ始まったばかりである。
コメント

死の理由 3

2009-05-30 09:08:31 | 空想
鉛色の空が私の心に重くのしかかり、今にもつぶされてしまうような錯覚に陥り、私はふらふらと歩きながら、喫茶店「マルボロ」を目指した。
ふと私は、「マルボロ」の古ぼけた看板の前で立ち止まり、携帯電話を取り出した。
サンタの声が聞きたくなった。あの男なら、このような場面での対処の仕方のヒントをくれるかもしれない。
何回かコールが続く。サンタは中々出なかった。私があきらめかけて、携帯を切ろうとした時、電話はつながった。
「もしもし」
不機嫌そうな声が聞こえた。
「あ、ぼくだ。ミツヤなんだけど。今ちょっと話せるかな」
私はわらにもすがる気持ちでそう言った。
「いいけど、今ちょっと取り込んでいるんだ。手短にお願いしますよ、ミツヤさん」
サンタはぶっきらぼうに言った。
私はむっとしたが、今の状況をサンタに伝えた。
「警察から会社に電話があったんだ。ヨウコさんの死について聞きたいって」
「そう、それで?」
「いや、だから、これはどういうことだろう?」
サンタは一呼吸置いて、話し出した。
「ヨウコさんの自殺の原因がわからないんで、単なる聞き込み調査でしょ。おそらくミツヤさんだけじゃなくて、ヨウコさんの職場の人もいろいろ聞かれたんじゃない?」
サンタはめんどくさそうにそう言った。
「ぼくは何を話したらいいんだろう。裏サイトでヨウコさんがひどく中傷されていたことを話すべきだろうか?」
「ミツヤさん、何も隠すことなんてないと思うよ。言ったらいい。まあ、もう警察は知っているかもしれないけど」
私が考え込んでいるとサンタが言う。
「ミツヤさん、ごめん。今ちょっと忙しいんだ。警察の人と会った後、またいろいろ聞かせてよ」
サンタはそう言うと、電話を切った。
私はサンタの態度に若干腹が立ったが、なんだか少し気が楽になったような気がした。

「マルボロ」の黒ガラスの木の扉を開けると、チリンと鈴の音がなった。
ウエイターが、私の方を見て、いらっしゃいませと事務的に言う。
相変わらず店内は薄暗く、ジャズが流れていた。私が一番奥の席に着こうとすると、入り口の近くのテーブルから声が聞こえた。
「ああ、ミツヤさん、こっちです」
振り向くと、丸い顔をした男がにこにこしながら立ち上がった。
灰色のスーツを着た太った男だった。頭髪は短く刈られていて、目はつぶら。丸い鼻。丸い顔。そして、体型も丸かった。
「サカキバラです」
男は明るく、そう言った。電話で聞いた声だった。
まだ約束の時間より、30分以上早い。私はちょっとためらいながらも、サカキバラのいる入り口のテーブルに向かった。
サカキバラの横には、女性が座っていた。その女性が私の方を見た。ショートヘアの端正な顔をした若い女性で、私ははっと息を飲んでしまった。
「ミツヤさん、お忙しいところ、すみません。ちょっと早くついてしまったので、待っていました」
サカキバラはにこにこ笑いながら、そう言った。ショートヘアの女性は座ったまま、私の方を見ていた。
「愛知県警のサカキバラといいます」
サカキバラはそう言って、私に名詞を渡した。
愛知県警 刑事課 警部という肩書きが書いてあった。私は自分の名詞を渡そうかと迷っていると、サカキバラ警部が言った。
「こっちに座っているのは、私の後輩のクワタといいます。まだ入ったばかりで研修中なんです」
ショートヘアの女性は座ったまま、私の方に軽く頭を下げた。目がぱっちりと大きく、鼻筋がとおった、奇麗な顔をしていた。
「すみません。まだ名詞ないんで」
クワタ刑事はぶっきらぼうにそう言った。
私は警察に名詞を渡すのもおかしいと思い、名前だけを言った。
ひととおりの挨拶がすみ、私はサカキバラ警部とクワタ刑事の前に座った。
「今日は、本当にすみませんね。お仕事終わるの早かったですね」
サカキバラ刑事は座ると、まずそう言って、私の方に笑顔を向けた。私は少し気まずく感じた。
「いえ、今日は仕事が早く終わってしまって―」
そう言いかけると、クワタ刑事が小さな声で言った。
「タバコ吸ってもいいっすか?」
私は、その言葉遣いに少し唖然としたが、ああ、どうぞと答えた。
サカキバラ警部は引きつったような笑顔になって、クワタ刑事の方を一瞬見て、すぐに元のにこにこした穏やかな顔に戻って私の方を向いた。
「すみません。まだ研修中でして―」
クワタ刑事は小さなグリーンの鞄から、マイルドセブンを取り出して、電子ライターで火を点けた。その仕草は流れるように連続的で、軽やかで、高級クラブのホステスのようだった。
「えーと、今日はですね。電話でも少しお話しましたが、先日お亡くなりになったヨウコさんのことで、いろいろと聞きたいことがありまして―」
サカキバラ警部は少し真剣な顔になった。クワタ刑事は中空を見ながら、タバコをふかしていた。
コメント

オープンカーの季節

2009-05-26 21:18:32 | 思い出
初夏―。
春が終わり、梅雨に入るまでのこの時期、オープンカーの季節だよな。
幌をあけて走っているオープンカーをよく見る、
昔、HONDA BEATに乗っていたころは、この季節はうきうきしていた。
オープンカーというと夏というイメージがあるが、夏のオープンは熱くてたまらん。帽子かぶっていなかったら頭がふらふらしたことがある。熱射病だな。
オープンカーは1年の中で、初夏と初秋が最も気持ちよく走れる。
ぼくはBEATに乗っていたころは「基本はオープン」という考えで、いつでもなるべく屋根をあけるようにしていた。
真冬は帽子、サングラス、耳あて、マフラーという防寒対策をして、ヒーターを全開にしていると、結構走ることができた。その姿で実家のあたりを走っていたら、親に見つかったことがある。
「真冬に屋根あけて走っているバカがいると思ったら、我が子だった。このバカ!」
って言われた。
でも、夏は帽子かぶって熱射病対策しても、どうしようもなく、暑かったなあ。
まあ、BEATは屋根閉めても、エアコンがあまり効かなかったので、どっちにしても暑かった。
時々オープンカーに乗りたくなる。景気がよくなったらセカンドカーを考えよう。
北海道を走ったらさぞ気持ちいいだろうな。
何故BEATに乗っている時、北海道行かなかったのかなあ。
コメント (2)

死の理由 2

2009-05-24 19:29:07 | 空想
「私は愛知県警の刑事課のサカキバラといいます。先日、お亡くなりになった、ヨウコさんのことで、ちょっと聞きたいことがあるんですが、今日、会えませんか?」
サカキバラは一方的にそう言った。
私は、はぁ―と言ったまま、しばらく黙ってしまった。
「ミツヤさんの会社の近くまで行きますんで、喫茶店でちょっと話を聞かせてください」
「あの、サカキバラさん、いったいどういったことを―」
私は、ヨウコさんの死に何か不審な点でもあるのですか?という言葉を寸前で飲み込んだ。私の隣の席の新入社員が訝しげな顔をしている。
「いや、ちょっと形式的なことです。ミツヤさんがヨウコさんとお付き合いしていたということを聞きましたんで」
サカキバラという刑事の言葉はまるで古い友人か、メーカーの営業のように明るく、刑事といえば気難しく、厳しいものだという私の想像とは異なっていた。結局、サカキバラとは会社が終わった後、近くの喫茶店で会う約束をした。
「ミツヤさん、誰だったんですか?」
電話を取った新入社員が不思議そうな顔をしながら、私に尋ねた。
「いや、昔付き合いのあった得意先の営業だよ。何か転職したらしいけど、ちょっと売り込みにくるみたいだ」
私はとっさにうそをついた。私はうそをつくのは上手くない。
しかし新入社員は、そうですか―と言ったまま、パソコンに向かって仕事を始めた。あまり興味がないらしい。
会社は基本的に5時で終わる。残業はない。私は会社が終わるまで、いったい警察は私に何を聞きたいのだろうと想像していた。
ヨウコさんの自殺の理由。
遺書はなかったはずだ。
あるいは、裏サイトのことを警察も感づいて、調査を始めたのだろうか?
さらに、ヨウコさんの死に不審な点があって、私は何か疑われているのだろうか?
私の想像は悪いほうに、悪いほうに向かう。
私の心臓の鼓動は大きくなっていくが、悪魔の手が私の心臓を鷲づかみにしている。今にも私の心臓が止まってしまうのではないのかという不安が襲う
マウスを握る手は、大量の汗で、座っていても、膝ががくがくする。
ふと気づくと、前に座っている課長が私の方を見ていた。
「ミツヤ君、どうしたんだ。顔色が悪いぞ」
私のことを心配している、というより、私が何も仕事をしていないのに気づいている。
「ちょっと、体調が悪くて、すみません」
「体調が悪いのなら、今日はもう、帰ったほうがいいよ。急ぎの仕事もないし」
課長は温厚な性格だった。私はしばらく考えて、課長の指示に従うことにした。
「はあ、すみません。ちょっと頭も痛いので、今日はお先に失礼させていただきます」
隣に座っていた新入社員は不思議そうな顔をしていたが、私は、今の心境のまま仕事を続けることは、とてつもなく苦痛に思えた。
時刻は午後4時を少し過ぎたところだった。私はWindowsをログオフして、机の上を片付けた。
「すみません。今日は失礼します」
私の島の社員はパソコンを見ながら、めんどくさそうに、お疲れ様―と言った。

ヨウコさんの職場にはトキタとミヤモトがパソコンに向かっていた。他の社員は見当たらなかった。
私はその島を避けるように、部屋を出て、更衣室に向かった。
本社の建物から出ると、外は今にも雨が振り出しそうに、真っ黒な雲が広がっていた。
太陽は見えなかった。
生温い風が、私の体にまとわり付くように、静かに吹いていた。気温はそれほど高くないが、湿度はかなり高いように感じた。私の体から汗がでる。それは不快な汗だった。
サカキバラ刑事と約束した時間には1時間以上早かったが、私は約束した喫茶店「マルボロ」を目指し、生温い空気が満ちた会社の前の細い道を歩き出した。
コメント

ラヴソング

2009-05-23 00:42:59 | 働く
今日は新人歓迎会。
ぼくはなんだか知らないけどしめの言葉を言わされた。
これが結構受けた。
笑いを取ったところで、カラオケ。
新人の女の子が何かチャラチャラした歌を歌っていたので、ここは本物のラヴソングを聞かせてやろうと、まず、ブルーハーツの「夕暮れ」を熱唱したが、いまいち。
「尾崎豊 I love you」を入れたが時間切れ。
尾崎聞いてほしかったなあ。
でもしゃべりは受けたな。
何で新人に全く関係ない自分の言葉があるのだろう。
最近、何かみんな勘違いしている。
飲み会の度に最後にぼくの一言があるのである。
まあ、いいか。
コメント

死の理由 1

2009-05-20 20:23:01 | 空想
次の日の朝、私はいつもより30分早く会社に出勤した。
特別な仕事があったわけではない。サンタから聞いたサイトのログのことが気になり、よく寝付けなくて、朝早く目が覚めてしまったのだ。
会社の重厚な門をとおり、本社の建物に入り、品質管理部の部屋を目指す。
品質管理部の自分の席に行くためには、必ずヨウコさんのいた総務部の部屋を通らなければならない。
まだ、早い時間のせいか、部屋にはほとんど人がいなかった。私は総務部の島をさけるようにして、自分の席を目指した。
横目で総務部の席を見ると、トキタが出社していた。パソコンに向かって何か仕事をしている。
サンタの話では同一人物があの掲示板に書き込んでいたのだという。
それはトキタである可能性もなくはない。
私の中に、トキタに掲示板のこと、ヨウコさんのことを問いただそうという衝動が溢れてくる。しかし今のところ何の証拠もないのだ。私は衝動を抑えて、横目でトキタの後姿を見ながら、自分の席に着いた。
その日はほとんど仕事に手が付かなかった。ただ、特に急ぎでやるべき仕事もなく、私はパソコンに向かったまま、昨日のサンタの話を思いだしていた。掲示板に書いた個人の特定は、サンタやサンタの知り合いのハッカーでも難しいという。やはり、そういうことをやるのには警察に頼むしかないのだろうか?
午前中は、ほとんど仕事をしないで、ただ時間だけが無常に過ぎていった。
ふと、サンタの言葉が頭の中に蘇った。
病院で処方される睡眠薬では、相当な量を飲まなければ、死に至らないという話である。私の中に、ヨウコさんは本当に睡眠薬とアルコールで死に至ったのか?という素朴な疑問が浮かんだ。
トモミさんならその原因を多少は詳しく知っているかもしれない。
私は自分の席を立って、総務部の島を目指した。時刻は午前11時を過ぎたところだった。総務部の社員もほとんど出社しているだろう。
総務部の島には、トモミさんの姿が見えなかった。総務部は出張なんてほとんどないし、打ち合わせでもしているのだろう。私はしかたなく自分の席に戻って、仕事をしているふりを続けた。
正午を告げるチャイムがなると、そこから1時間の昼休みになる。社員はほとんど社員食堂に向かう。私はすぐに席を立って、総務部のトモミさんの席に行った。
トモミさんはいなかった。机の上のノートパソコンも閉じられていて、使用した形跡がない。
私は思い切って、トモミさんの隣に座っているミヤモトという男に聞いてみた。
「すみません。トモミさんは今日はお休みなのですか?」
言葉を発するのには、少し勇気が必要で、妙にうわずってしまった。
ミヤモトは不思議そうな顔をして、私の方を見つめていた。
何故、この男、ミツヤがトモミさんのことを聞くのだろう、という疑問が、ミヤモトの眉間にしわを作っていた。
それでもミヤモトは真顔に戻ってこう言った。
「なんか、トモミさん、突発で休んでいるようですよ。トモミさんに何か用事でもあるんですか?」
ミヤモトの最後の言葉は、まるで私をからかっているように感じて、ちょっと腹立たしかった。
それでも私は心を落ち着けて、
「いや、それならいいんだ」
と言い、ミヤモトの前から立ち去り、自分の席に向かった。
トモミさんは休んでいるのか―。
その時は、風邪かなんかで体調でも悪かったのかと思い、あまり気にとめなかった。
午後になり、私の前にある電話が鳴った。
私が取ろうとすると、今年入った新入社員がなかば強引に受話器を取った。新入社員は積極的に電話応対をするように教育されているらしい、
「はあ、ミツヤですか。失礼ですがあなたは―」
新入社員は応対に苦戦しているようだった。しばらく問答をした後、受話器を私の方に向けて言った。
「サカキバラっていう人なんですけど、会社名言わないんですよ。何か怪しいですけど、ミツヤさん、出てもらっていいですか?」
私はサカキバラという人物に心当たりはなかった。会社にはいろんな企業からの売り込みやアンケートなどの怪しい電話もある。新入社員はそれらの対処の仕方をまだ身につけていなかった。
「しかたないな」
そう言って、私は受話器を受け取った。
電話の向こうでサカキバラが話す。
「あ、品質管理部のミツヤさんですか?」
「そうですが、あなたは―」
と、言いかけた時、サカキバラがさえぎった。
「すみません。私愛知県警のサカキバラといいます。先日、お亡くなりになった、そちらの会社のヨウコさんのことで、ちょっと聞きたいことがありまして―」
私はその言葉を聞いて、体の緊張が高まっていくのを感じた。私のこれまでの人生で、警察からこのようなことを聞かれるのは初めてのことだった。
しばらく言葉を発することができなかった。
「もしもし、ミツヤさん、聞いてますか?ちょっと話を聞きたいだけなんで、時間作れますか?」
サカキバラは明るい口調でそう言った。
コメント

エコ

2009-05-19 20:40:03 | ニュース
エコブームである。
新型プリウスが発売された。
すでに8万台のバックオーダーがあるという。
4月に始まったエコカー(環境対応車)減税の影響もあるだろうな。
Softbankでもソーラーハイブリッドなんていう、太陽光で充電できる携帯がでるらしい。
http://mb.softbank.jp/mb/product/3G/936sh/#introskip
プリウスにもオプションで屋根にソーラーパネルが付くらしい。充電はできないが。
環境にやさしいし、燃費もよくて、経費もかからない、プリウスいいかもね。
でも、なぜか、まわりで乗っている人、ひとりもいないんだよな。
今ぼくが止めてる会社の駐車場では100台くらいの車があるが、プリウス1台もない。
ちょっと不思議だな。
コメント

初恋

2009-05-18 22:21:08 | 思い出
初恋―。
もうはるか昔から、ありとあらゆる人に、語られたり、詠われたりしている。
イワン・ツルゲーネフだったり、島崎藤村だったり、村下孝蔵だったり、斉藤由貴だったり、宇多田ヒカルだったり、中原みすずだったりする。
何をもって初恋というのか?
みんな違う。
ってことは何でもよいととらえ、ぼくはぼくなりに定義する。
初めてキスをした―。
これは違うな。
初めて異性とつきあった―。
違うな。
初めてセックス―。
全然違うな。

ということで、
「初めて異性を異性として意識して好きになった」
ということを初恋と定義する。

いつだろう。
幼稚園に行く前に近所の女の子とよく遊んでいた。
トモ君のお姉さんのカオリちゃんとよく遊んだが、別にカオリちゃんが女の子でなくてもよかったから、これは違うな。
同じころ、ショウコちゃんともよく遊んだが、別にショウコちゃんが女の子でなくても、たぶんよく遊んだから違うな。
楽しかったけど、ただ家が近かっただけだと思う。これは初恋ではない。
桜田淳子が気になったけど、「わたしの青い鳥」っていう歌が好きだったんだ。
森昌子が「青い鳥」を歌っていたら、森昌子が気になったかもしれないから、これも違うな。


と考えていくと、ぼくの初恋の人は幼稚園の年長組だった時の担任のオオバ先生だと思う。
23、4歳くらいの奇麗な女性だった。
最初は好きっていう感情はなかった。
ただ、先生にかまってもらおうと思って、無茶してた。
よく怒られたけど、それで先生に接することができるのがうれしかった。
何回か親が呼び出されて、親にもよく怒られていたけど。
夢に先生がよく出てきた。
今でもその夢はよく覚えている。
先生は紫色の幼稚園の園服を着て、ニコニコ笑っている。
先生と一緒に観覧車に乗っていた。
そんな夢だった。
何回か親が呼び出されていたので、親と先生もいろいろと会話をしたのだろう。
「オオバ先生ってな、ヨコスナのおじいちゃんの家の近くに住んでるんだ」
なんてことを親父が言ったことがある。
ヨコスナのおじいちゃんというのは親父の親父。
おじいちゃんの家に行くことがあると、
「先生、いないかな?」
なんて、おじいちゃんの家の近所を歩き回ったこともあった。

いつでも探しているよ
どっかに君の姿を
向かいのホーム
路地裏の窓
こんなとこにいるはずもないのに
~One more time, One more chance 山崎まさよし~

「みんなは4月から小学生だよ」
卒園式の日、オオバ先生と一緒に写真を撮った。
まだ、実家に残っているかな。
「ぼくは小学生になるけど、先生はまた幼稚園の先生なの?」
ぼくは次の言葉を言いかけた。
また会いにきてもいい?
先生はぼくが言う前に笑顔で言った。
「先生はね、お嫁さんになるの」
ぼくはそれがどういう意味かあまりよくわからなかったが、急に先生が別人のように、その存在が遠くなっていくのを感じた。
ぼくの初恋は終わった。
コメント (2)

武道

2009-05-15 22:25:52 | Weblog
今週からボクシングジムで武道を始めた。
武道とは何か?
よくわからん。
スポーツではない。
格闘技ではない。
武道なのである。
今のところ、よくわからん。
本当に強いということはどういうことなのか?
もって生まれた身体能力や反射神経ではないらしい。
ある日、突然、頭のロックが外れて、わかるようになるらしい。
鍛錬を積んでいかなければ、ロックは外れない。
信じなければロックは外れない。
ロックが外れるのは、明日かもしれないし、10年後かもしれないし、外れないかもしれない。
でも、ロックが外れると、「わかる」らしい。
それは生きる喜びにつながるらしい。
もう哲学か宗教である。
騙されているのか?と感じることもあるが、別に自分にマイナスになるわけでもないし、誰かに迷惑をかけることもないので、しばらく続けようと思う。
コメント (2)