風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

さらにアメリカ~技術神話

2017-11-13 11:50:23 | 永遠の旅人
 出張で週末を過ごすのは実に久しぶり・・・10数年振りだろうか。ワシントンDCといえば、上の子が生まれたときに(米国産!)、両親が遊びに来て以来だから20年振りで、せっかくなので同僚と散策に出た。観光スポットが目白押しとは言え、一日歩き回る元気はなく(苦笑)、土曜日は、ナショナル・ギャラリーのフェルメール展(ナショナルなので無料である)とスミソニアンのAir & Space博物館(こちらも驚くなかれ無料である)に絞った(スパイ博物館には20ドル払ったが、コスパの酷さは話にならない)。そして今日は、スミソニアンのAir & Space博物館の別館(もちろん無料!)が空港傍にあるというので出かけてみた。本館は手狭なので、エノラゲイやスペースシャトル・ディスカバリーの実機展示があるという。時間があって行かない手はない。
 フェルメールももちろん素晴らしかったが、スミソニアンの展示は圧倒的だった。
 ダウンタウン本館にも、ライト兄弟の飛行機や、ゼロ戦をはじめ、第二次大戦中、ドイツ空軍の主力戦闘機だったメッサーシュミットBf109、そのドイツ空軍の侵略からイギリスを守ったスピットファイアといった、航空オンチの私でも知っている名機が展示されている。冷戦時代、ソ連やキューバ危機のときに撃墜されたロッキードの偵察機U-2もある。こうした飛行機だけでなく冷戦時代のソ連の中距離弾道ミサイルSS-20もある。それからSpaceといわれるだけあって、月の石に触れられるのも、なんとも大らかなアメリカらしい・・・と言っても、テーブルに埋め込まれていて、触れるのは人差し指の先でなぞるくらいのごく小さな部分で、しかも既に多くの人に可愛がられて表面はツルツルだ(苦笑)。
 空港傍の別館には、本館どころではない、巨大倉庫にところ狭しと歴史的名機が実物展示され、これでもかと迫ってくる。タクシーの運ちゃんに帰りも迎えに来てもらうことにしたため、3時間限定としたが、まだもの足りない、それでもお腹いっぱい・・・といったところだった。
 入り口で、係りのおじさんに何に注目しているのかと聞かれ、エノラゲイとは言い出せず、ついスペースシャトルと答えてしまった。かつて私がボストンに駐在していた頃、本館でエノラゲイ展が企画されたが、退役軍人の団体から反発があり、規模を大幅に縮小することを余儀なくされた、いわくつきの実機である。Wikipediaによると、「重要な常用展示機体であり、その歴史的背景から破壊行為などが行われないよう、複数の監視モニターにて監視され、不用意に機体に近づく不審者に対しては監視カメラが自動追尾し、同時に警報が発生するシステムを採用。2005年には映像解析装置も組み込まれるなど、厳重な管理の元で公開されている」とあるが、そんなことは今、ブログを書くまで知らなかった。当時の原爆はまだ小型化できず大きかったとは聞いていたが、余計な装備を削り落とした機体そのものは巨大である。広島に原子爆弾、所謂「リトルボーイ」を投下したB-29そのものであり、これで多大な(日本への上陸作戦になれば百万人もの犠牲者が出るといった)戦争被害を食い止めるためとの名目で正当化され、その実、長崎に投下されたプルトニウム型の所謂「ファットマン」と並ぶウラン型の「実験」とされたのが実相であろうことを思うと、日本人としては複雑な思いに囚われる。
 そのほかハイライトとしてガイドマップにはエールフランスのコンコルドや、朝鮮戦争やベトナム戦争で活躍し今も日本の陸上自衛隊などで現役で活躍する軍用ヘリUH-1などもあるが、やはりスペースシャトル・ディスカバリーの実機は感慨深い。表面は無数の耐熱タイルに覆われ、傷だらけであるのが、大気圏突入の凄まじさを伝えている。ディスカバリーだったかどうか定かではないが、静岡の企業のセラミック技術が使われたと聞いたことがある。
 こうした技術は、アポロ計画のように、冷戦時代に国家の威信をかけた軍事対立を支え、スペースシャトルのように超大国の威信と人々の夢を叶える、大いなる無駄と言ってもよいものであるが、第一次大戦に登場した軍用機がその後の民間航空産業を生み、ミサイル=ロケット技術がその後の宇宙産業を育てたという意味で、人々の豊かな生活を支える基盤技術であり(コンピュータやインターネットやGPSもそうだった)、一概に無駄と切り捨てるわけにはもちろん行かない。古くは、空を飛ぶことに夢を馳せ、今は当たり前に宇宙を探索したいという情熱が原動力となって、絶えず技術革新が続いている。実のところ、技術革新や研究そのものに「軍事」も「民事」もない。この展示には、多少、戦勝国としての鼻持ちならないニオイを感じなくもないが、軍事研究に背を向けるという極めてイデオロギーに囚われた日本の大学などのアカデミアには、是非、爪の垢でも煎じて飲ませたいほどの圧倒的迫力である。日本でも、子供たちや若い人たちに技術の素晴らしさを伝える技術展示を、是非、進めてもらいたいと心から思う。
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