風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

北の湖理事長の急逝

2015-11-21 20:58:07 | スポーツ・芸能好き
 子供の頃から親に連れられて大相撲に親しんできた私は、豊山(先代)を応援していたらしいし、大鵬が最後(32度目)に優勝したときの新聞をスクラップしていたが、いずれも動いている豊山や大鵬についての記憶はなく、物心ついて最初の贔屓力士は輪島である。それにしても昨晩、元・横綱の北の湖理事長が急逝したとの報に接して胸にぽっかり空いた喪失感は何だろう。同時代を生きたヒーロー、大相撲の最盛期の一つである輪湖時代を築いたかつての好敵手への鎮魂であろうか。あるいは輪島がさっさと廃業したのに対して、北の湖はその後も指導普及部長、事業部長などを歴任した後、日本相撲協会理事長に就任し、朝青龍騒動や時津風部屋力士暴行死事件やロシア人力士の大麻問題と、立て続けに不祥事に見舞われながら、日本相撲協会の公益法人化に尽力し、低迷していた相撲人気の回復に努めた、その功績とその存在感の大きさの故であろうか。否、それだけではない。「憎らしい」ほど強く、横綱が勝つのは当然なのに勝って座布団を舞わせたほど大相撲界のヒールを演じながらも、私たちは風格ある横綱として尊敬し、彼のことが大好きだったに違いないのだ。アンチ巨人が巨人ファンでもあるように。
 Wikipediaはよくしたもので、数日前のブログで触れたダッカ日航機ハイジャック事件もそうだったが(http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20151118)、時として記憶する事柄や事件の真相を知らされることがある。北の湖が「憎らしい」「ふてぶてしい」と思われていた理由の一つは、倒した相手が起き上がるのに一切、手を貸さず、相手に背を向けてさっさと勝ち名乗りを受けてしまう態度が“傲慢”と見なされていたためとWikipediaは解説し、実際に私も、勝って当たり前と言わんばかりに無表情に引き上げる彼を憎らしく思ったものだが、北の湖本人は「自分が負けた時に相手から手を貸されたら屈辱だと思うから、自分も相手に手を貸すことはしない」と明確に説明していたとも解説している。今だからこそ知る彼の勝負師としての心意気であり、誠実な人柄でもある。
 輪島が全盛の頃の北の湖との一戦は、まさに手に汗握る興奮を覚えたものだった。当時の角界にあって「憎らしいほど強い」北の湖の勢いを止められるのは輪島の「黄金の左」くらいしかなかったし、そのとき右上手を取った北の湖もまた滅法強かった。ここはWkipediaの言い回しをそのまま引用したい(これを読めば当時の熱狂が目に浮かぶ)。

(引用)
 「この対戦は、右上手十分の北の湖に対して、輪島は左下手投げを得意としたこともあり、立合いからガップリ四つの横綱同士の力相撲となることが常だった」
 「右で絞って北の湖に強引な上手投げを打たせ、下手投げを打ち返すかまたは右前廻しを引きつけて北の湖の腰を伸ばすのが輪島の勝ちパターン。北の湖が左下手廻しを引き、ガップリ四つになって胸を合わせるのが北の湖の勝ちパターンであった」
(引用おわり)

 二人の対戦は、Wikipediaによると、1972年7月場所から1981年1月場所までの8年半、52場所の間に44回実現し、通算成績は北の湖の21勝23敗でほぼ互角(とは言え、5歳の年齢差があり、北の湖が優勢になる頃には輪島が引退してしまった)、優勝は両者合わせて38回(あの柏鵬の37回を上回る)に及ぶらしい。とりわけ1975年9月場所から1978年1月場所までの2年半、15場所の間、千秋楽の結びの一番は全て「輪島対北の湖」の対戦となり、連続15回は史上最多で(2位は白鵬対日馬富士の10回、3位は朝青龍対白鵬の7回)、まさに大相撲の一時代を築いたのだった。
 つい三日前、九州場所十日目、横綱の白鵬が稀勢の里に対して猫だましを使って、「猫だましをやられる方もやられる方だが、やる方もやる方だ。しかも横綱だから、負けていたら笑いものだった。白鵬はせっかく全勝で走っても、これではいい感じに見られない」と厳しいコメントを残されていただけに、既に亡き人とは信じられない思いである。北の湖部屋大阪後援会長によると、北の湖理事長は「光の当たる人はいいが食べていけない人もいる。引退後も皆が順風満帆に生活できているわけではない。いい方法があればいいんだけど」と口癖のように話していたという。「あまり思ったことを口に出さず、私利私欲なく公のために尽くすことができる人だった」というのが会長評である。失ってからその失ったものの大きさを思う。合掌。
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