風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

天安門から25年(後)

2014-06-14 19:29:44 | 時事放談
 前回に引き続き、この話題です。
 ところで、周永康氏と言えば、江沢民氏が率いる上海閥の重鎮として知られます。国有企業・中国石油のトップを経て政界入りし、大きな利権を持つ石油閥の中心人物であるとともに、公安相を経て2007年に政治局常務委員となり、胡錦濤政権で党内序列9位ながら、警察、検察、司法部門を統轄する責任者である党政法委書記として絶大なる権力を振るいました。薄煕来・元重慶市トップを国家主席に担ごうとした、いわば後見人だったことでも知られます。既に2012年11月に引退しました。
 そんな大物の周永康氏を、習近平国家主席ら最高指導部が、汚職などの疑いで調査することを決めたと報じられたのは、昨年8月のことでした。そして12月には、党内の監察にあたる党中央規律検査委員会に汚職容疑で身柄を拘束されたと報じられました。拘束容疑は、石油企業の海外進出を巡る巨額な汚職だけでなく、部下を使って前妻を殺害した疑惑や、2度にわたって習近平国家主席の暗殺を図ったというクーデター未遂疑惑まで出回っています。尖閣諸島の国有化を巡って、中国各地で起きた反日デモを利用し、習近平指導部発足を妨害しようとしたとも報じられました。ある中国研究者は、周永康氏拘束か?の報を受けて、習近平体制確立の最終段階にある、と解説したものでした。
 その後、今に至るも、周永康氏の失脚について正式な発表がないところを見ると、相当強い抵抗があることが読み取れます。北朝鮮なら体制固めのために簡単に殺害するなりして根こそぎ除去するところでしょうが、中国では根強いネットワークが存在し、そう簡単なことではなく、それこそ内戦にさえなりかねないと、先ほどの中国研究者は言います。ロイター通信は、今年3月、本人に加えて親族や部下ら300人以上がこれまでに拘束され、差し押さえられた資産は総計で900億元(約1兆4900億円)以上にのぼると報じました。失脚に向けて、着々と外堀が埋められつつあることは間違いなさそうです。それにしても、さすが中国、賄賂の桁が違いますねえ・・・
 元・党政治局常務委員という超大物をブタ箱にぶち込むとすれば、中国共産党史上初めての画期的なことです。これはとりもなおさず党内で大きな影響力を持つ長老たち(元・党政治局常務委員)の不満を招きかねませんし、党内で汚職疑惑を抱える指導者や元指導者も反発しかねず、政局がかつてないほど不安定になりかねません。それほどのリスクを冒してまで習近平国家主席をして立ち向かわせるのは、勿論、江沢民氏の支持を受けてのことではありますが、権力闘争を通して自らへの求心力を高め権力基盤を固めるため、と言うよりも、これらの闘争相手よりも更に恐るべき「相手」の目を意識せざるを得ないためだと言われます。その「相手」とは、もはや「敵」と言うよりも「ご機嫌を取らなければならない」中国「人民」です。それほど中国「人民」は、格差問題を腹に据えかね、その象徴としての贈収賄や腐敗官僚に対して怒りを募らせ、中国社会は抜き差しならない不安定な状況にあると言えます。しかし、格差問題は、ただ腐敗官僚を始末するだけでは、根本的な解決になるわけではないのですけどね。根は深い。
 因みに、ニューズウィーク6月10日版によると、最近、北京市内を走る地下鉄の3つの駅で新たに乗客全員の身体検査を始めたとして、まるで遊園地のジェットコースター待ちか有名アーティストのコンサートの待ち行列のように、駅前に柵を張り巡らせて人々を待たせる写真が掲載されていました(5月29日、北京電)。テロ予防策なのだそうですが、「昨秋、天安門前でウィグル族による自爆テロがあり」「その後も、地方で続発するテロは徐々に規模が大きくなっている」とされ、「身体検査を受けなければ地下鉄にも乗れない・・・中国の哀しい現実だ」と記事は結んでいますが、なんとも異様です。
 さて、天安門事件の話に戻ります。ことほどさように「人民」の目を意識せざるを得ない中国共産党にとって、天安門事件はまさに鬼門であり、徹底的に統制せざるを得ません。どこまで徹底しているのか。ロイターの興味深い記事を見つけました。天安門事件の犠牲者の一人のお母ちゃんは、8人もの警察・公安関係者によって24時間監視されていたそうです。77歳のおばあちゃんに、8人も! なんとも異様です。

(引用)
焦点: 中国・天安門事件から25年、民主化運動の衰退鮮明に
2014年 6月 4日 17:22 JST
[北京 4日 ロイター] 王楠さん(当時19)は25年前の1989年6月3日遅く、数万人の群衆が民主改革を求めて集まる中国・北京の天安門広場にカメラを持って向かった。友人には歴史を記録したいのだと話していた。
 「軍隊は発砲するかな」──。出がけの問いに母親の張先玲さん(77)はそれはないだろうと答えた。それから約3時間後、王さんは兵士に射殺された。
 息子の死から25年を迎える張さんは現在、8人の警察・公安関係者によって24時間監視されている。
 今年に入って監視態勢はこれまでにないほど厳しくなっている。4月の段階で、ロイター記者を含め、外国人ジャーナリストの張さん宅訪問は警察が妨害。張さんはロイターの電話取材に対し「ばかげている。私は年寄りだというのに」と語る。「(記者に)何を語ることができるというのか。国家機密を知っているというわけでもないし、私が語ることができるのは息子に関することだけ。何を恐れているのか」。
 中国共産党が民主化運動を武力弾圧した天安門事件から4日で25年を迎えた。現場では多くの武装した警察官が警戒の目を光らせている。
 数百人から数千人の武器を持たない人々が殺されたとされる事件。中国の主要インターネットサイトでは関連語句が検閲されており、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」では、事件が起きた6月4日を意味する「5月35日」といった隠語が削除されている。また、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、天安門事件25周年に関連して少なくとも66人が身柄を拘束された。
<締め付け強化>
 張さんの場合は、どこへ行こうと警察車両に乗せられ、市場へ行けば2人の警察官にぴったりと張り付かれるといった状態。これは張さんが天安門事件の犠牲者のために活動する遺族団体「天安門の母」の共同創設者であるためだ。
 張さんらによると、別の共同創設者である丁子霖さんは上海近くの無錫に赴いていたが、北京に戻る許可が得られなかったという。
 中国外務省は天安門の母に対する締め付けについて、中国人民の法的権利は保障されているが、全ての人民は中国のルールと法を尊重しなければならないと指摘した。
 当局が民主化運動を「反革命」と位置付け武力弾圧に乗り出した天安門事件は多くの中国人に深い傷跡を残した。中国はその後、民主化運動に背を向け経済成長にまい進。多くの若者は「愛国教育」を受け、民主化運動に乗り出そうとする気配もない。
 天安門事件当時の学生リーダーで、現在は台湾に逃れている王丹氏は、25年前は政治問題を話し合う「民主サロン」を北京大学で開催することができたと指摘。「今ではそんなことをやろうとすれば拘束されると誰もが知っている。事件当時よりも(中国の民主化運動が)衰退していることは明白だ」と述べた。(Sui-Lee Wee記者 執筆協力:Michael Gold in TAIPEI and Ben Blanchard and Paul Carsten in BEIJING and Reuters Television in NEW YORK 翻訳:川上健一 編集:宮崎亜巳) 
(引用おわり)
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