風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

TPPの茶番

2011-11-14 01:27:12 | 時事放談
 10日に予定されていた会見を、勿体をつけて一日遅らせた金曜の夜、野田総理はTPPについて「交渉参加に向け関係国との協議に入る」と、結局、初心を貫きました。
 些か驚かされたのは、慎重派の急先鋒・山田元農相の反応です。「本当にありがたい」と、歓迎の意を示したのはなんとも異様でした。「『交渉参加』でなく『事前協議』にとどまってくれた」からだそうですが、ひとえに離党問題を回避し(もとより離党する覚悟はなかったでしょうが)、かつ農業関係者らからの批判をかわすためなのでしょう。そもそも、各国との協議を経て9ヶ国の合意を得ないと交渉参加にならない(外務省)という意味では、総理の発言は慎重派に配慮したものではなく、事態を正確に表現したものに過ぎません。現に、世間の受け止め方は、昨日朝の「ウェークアップ」で辛坊さんが紹介した主要各紙一面トップが判で押したように「TPP参加表明」と報じた通りでした。
 もっとも、民主党内で反対派を自称せずに慎重派と呼び続けた人たちのことです。その彼らにプレッシャーを与えていた、国会前に座り込みを続けていた人たちは、一体何者だったのでしょう。農業を生業にする人たちはそれどころではないでしょうし、時間に多少余裕がありそうな農業経営者は、高関税や補助金で市場を混乱させる保護行政を迷惑千万と思っているに違いありません。そうすると農協関係者か、農水省の下部組織で、濡れ雑巾の農政の利権に巣食っている人たちでしょうか。結局、資源が乏しく、伝統的に(それこそ江戸時代から)供給過剰なニッポンとしては、通商国家として世界に開かれた国のありようを選ぶほかなく、TPPはやむなしと観念しつつ、農林票を気にして、農家を保護するポーズを取って来たに過ぎないというところなのでしょう。
 その証拠に、もともと小沢さんが代表として臨んだ2007年の参院選マニフェストは、「農産物の国内生産の維持・拡大と、世界貿易機関(WTO)における貿易自由化協議及び各国との自由貿易協定(FTA)締結の促進を両立させます。そのため、国民生活に必要な食料を生産し、なおかつ農村環境を維持しながら農業経営が成り立つよう、『戸別所得補償制度』を創設します」と明記していました。そして、2009年8月の衆院選に向けたマニフェストでも、発表時には日米FTAについて「締結」と明記していたのですが、その後、鳩山代表と菅代表代行は、農業団体などの猛反対にあって「促進」へと後退した経緯があります。
 日本が、世界に類を見ない所得格差の少ない平等な社会を築きあげたのは、高度成長で皆が豊かになる中で、公共投資や農業保護の名目で、産業界が稼いでおさめた税金を地方に還流する、社会主義的な所得再分配政策を進めたお蔭でした。ところが冷戦が崩壊し、東ヨーロッパや、中国をはじめとする新興国が台頭するのに歩調を合わせるかのように、新たな技術的なブレークスルーが乏しくなり、技術が成熟しつつあるがために、日本の相対優位が弱まってきたことに加え、日本の社会自体が成熟して少子高齢化が進展したため、経済成長力も弱まり、失われた10年が20年に延びるような長い停滞期に入りました。それでも政治が変われないのは、かつての所得再分配を支えた選挙制度、とりわけ一票の格差問題が解消していないためです。政治家の関心の第一は、所詮は選挙で勝つことであって、二年前に民主党が政権交代を遂げたのは、選挙を知り尽くした小沢さんが自民党の伝統的な支持基盤を切り崩したのが主因であることを、民主党だけでなく自民党も忘れられないのでしょう。そんな足元ばかりが見えたTPPの空騒ぎでした。
コメント
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