My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

ガラパゴス問題をガラパゴスに閉じるのはやめよう

2010-05-08 04:15:09 | 2. イノベーション・技術経営

今日、ハイテク系の戦略論の授業で発言したとき、流れで「ガラパゴス問題」について皆に解説した。
その授業はMBAの中でも、特にハイテク分野に詳しく、興味もある人たちが集まってるのだが、
みんな、へ~、そうなんだ~、という感じで、「ガラパゴス問題」は初耳って感じの人が多かった。

ここでいうガラパゴス問題とは、

「日本では製品が、インターネットや携帯など日本の高度なインフラや既にある高い技術を前提としたり、
日本の消費者の高いニーズにカスタマイズしすぎたものになっており、
他の国がそのレベルに達していないので、他の国に広められない問題のこと。
ガラパゴス諸島で、亀などの動物達が高度に進化を遂げているが、他の環境に適応できないのと同じように、
日本という島国で技術が高度に独自に進化を遂げて、日本ニッチになってしまい、
他の国に売れないことが、日本のハイテクメーカーなどにとって大きな問題になっている」

と解説しておいた。
(「でもって、遅れてやってきた技術がいつの間にかスタンダードになり、逆に乗り遅れてしまう」
ってところまでは解説できなかったが。)

特に、「ガラパゴス諸島で、亀などが独自の高度の進化を遂げているのと同じで」というところで、
「へ~」と同時に、笑いが起こっていた。
で、ある程度の共感を呼んでいた。

私が驚いた、というか、良くないな、と思ったのは、
「日本のメーカーがガラパゴス問題に陥ってる」ということが、意識の高い人にすら、
海外ではほとんど知られてない、ということだ。

まさに「ガラパゴス問題」が、ガラパゴスに閉じちゃってるのである。
これは良くないよ。

実はこの問題を、
「ある分野の進化しすぎた技術インフラ、ニーズに基づきすぎて、ニッチになり、市場に出せない・売れない問題」
と一般化すると、アメリカの企業も含め、多くの先進国がこの問題に直面してきた問題なのだ。

例えば、有名な例はゼロックス。
ゼロックスは1960年代には、コピー機技術の多くを有しており、市場でもほぼ独占メーカーだったが、
コピー機を更に良くするための技術を中央研究所で次々に開発していた。

例えば、Appleのスティーブ・ジョブスが「生まれてから目にしたものの中で最も優れたもの」と驚いて、
マッキントッシュApple IIを生み出すきっかけになったといわれる、GUI(グラフィック・ユーザー・インターフェイス)。
1980年代の世界を支配した、クライアント/サーバアーキテクチャ。
ローカルエリア・ネットワーク。
ビットマップ。
オブジェクト指向のプログラミング。

これらは全てゼロックスの研究所PARCで、
ただ「ゼロックスのコピー機をより優れたものにするため」という目的で開発されてきた。(注→追記)
オブジェクト指向でプログラムが書かれ、ビットマップとGUIで表示され、ネットワークでつながり・・・
ってどんなコピー機だよ(笑)、と想像すると、
ゼロックスが当時目指していたものが、如何に「ゼロックスガラパゴス」であったか、想像できると思う。

当たり前だが、そんなものを搭載したコピー機は高くてハイエンドすぎて売れないわけで、
これらの技術はゼロックスの研究所に埋もれていたのだった。
で、コピー機では後発のキヤノンが出てきて、お株を取られてしまった。

ゼロックスが復活したのは、これらの先進技術をコピー機以外の企業と深く協業することで、
技術ライセンスを売り、コピー機以外の製品へと転用し、いわゆる「オープンイノベーション」を成功させたこと。
そして、自社の技術を垂直統合するのなく、市場のニーズにこたえて技術の「モジュール」を組み合わせる、
水平分業的ビジネスモデルで、
新しいニーズにすばやく適応することが出来るようになったことが大きい。
(参照:Engines of Innovation; Mark B. Myers "Research and Change Management in Xerox")

あるいはインテル。
インテルの場合、1980年代後半の未だIBMが支配していたPCのアーキテクチャにおいて、
プロセッサだけやたら速く進化しすぎて、他のコンポーネントのスピードがついてこられず、
インテルがいくら進化させても、チップは売れない、意味ない、「インテルガラパゴス」状態に直面していた。

ここでインテルは、PC内のコンポーネントどおしをつなぐネットワークをIBMから「取り上げ」、
自社でハイスピードかつコンポーネントどおしの相関を減らせるようなネットワーク-PCIハブを開発し、
それを業界標準に推し進めた。
それによって、インテルはマイクロソフトとともに、PC業界全体を牛耳るまでになった。

(かなり話をはしょったが、詳しくは: "Platform Leadership", Michael A. Cusumano を参照)

ゼロックスやインテルは、成功例と言えるが、失敗例もたくさんある。

例えばコダックは、1975年には、当時の技術を駆使したデジタルカメラを開発していたが、
当時はCCDやマイクロチップなどが市場で簡単に手に入る時代ではなかったので、
前提としている技術が、垂直統合されすぎで、価格も高く、発売はしないでいた。
ところがその後、CCDやマイクロチップなどもっと安い技術に基づいた「モジュラー化された」
アーキテクチャのデジタルカメラが日本企業から発売されて、
そっちがドミナントになっていったのは、皆様ご存知の通りだ。

機能が非常に優れているが、時代を先取りしすぎ、かつそれに固執しすぎたために、売れず、
いつの間にか後から出てきた技術標準にお株を取られてしまった、例なんて、
かつて隆盛を誇っていたアメリカやヨーロッパの企業を見ればいくらでも出てくる。

いろんな成功例と失敗例を見ていると、
「自社の技術が優れすぎて、他の人たちがついていけず、
 いつの間にか時流に乗ったスタンダードが開発されて、そっちが主流になって、乗り遅れる」
という問題を解決するために、
-自社・自国の技術を他に利用可能なように切り刻む(モジュール化する)
-自社・自国技術が新しいアーキテクチャでも動くことを前提に、インターフェースを確立する
-その上で、他企業と協業して、自社技術を活用したスタンダードを作るように運動する
などが成功の鍵の一つであることが見えてくる。

もちろん、少しずつ問題の根が違うので、全ては利用できないんだけど、
「何が成功の鍵だったか、何が失敗の原因か」を分析すれば、ヒントをもらえることはたくさんある。

確かに「国全体」がこの問題に陥ってるのは、世界でも余り見ない例だが、
ちゃんと世界の皆が分かるように一般化すれば、何も「ガラパゴス問題」は日本独自の問題ではない。

このまま「ガラパゴス問題」を、日本独自の問題と扱って、門戸を閉じてしまい、
自分達だけで解決しようとするのは、効率も悪いし、
せっかく考えて見つけた解決方法もガラパゴスになりかねない、と思う。

「ガラパゴス問題」をもっとオープンに、世界に発信し、分かりやすく解説し、
誰もが直面しうる問題として興味を持ってもらえば、
世界の優秀な頭脳に日本を意識してもらい、問題解決に協力してもらい、
それをきっかけに日本の技術が注目され、スタンダードになるのに役に立つとも思うのだが。

ただ発信するんじゃなく、「自国の宣伝を兼ねて、世界の優秀な頭脳を活用する」という目的を持ってるのは重要。
問題をオープンに議論してくマインドセットって、技術をオープンスタンダードにしていくのと
共通点があると思うんだよね。

ネックは英語ですかね(笑)

この記事の続き→「My Life in MIT Sloan-ガラパゴス問題の論点まとめ。」(2010/05/09)

(追記: 技術系の話が好きな人のために補足しとこ。
当時のXeroxは「コピー機だけではダメだ」ということは認識しており、自らをオフィスのドキュメント関係の生産性を上げ、サービスを提供する会社に生まれ変わろうとしてました。
だから、「コピー機を優れたものにするためにこれだけの物を作った」というと、ちょっと言いすぎなんだけど、
かといって、  
その後のコンピュータの世界を完全に把握してたわけでもなく、
Document周りに固執しており、やっぱり発想はコピー機だったと思う。

ちなみに当時はIBMやコダックが、このドキュメント周りに進出し始めており、彼等に対抗する目的もありました。

同じように、日本企業も「日本の技術やインフラだけによったものではダメだ」ということは認識し、
生まれ変わろうとしてますが、どこかに固執して、生まれ変われずにいますよね。
その構造が非常に似ていると思って、書きました。

私もコンピュータ史の専門家ではないため、「違う」と思うことがもしあればコメ欄でご指摘ください♪)

(追記2: ここで挙げた3つの事例は、高い技術・インフラに基づいてると言う意味ではYesだが、
高い消費者ニーズに基づいて、日本国民は満足してるって意味では違うのでは?という突っ込みをいくつか頂いてますが、
まったくその通りと思います。
例として、PalmとかNewtonなど「一部のファンだけが満足してキャズムを越えられなかった例も
挙げても良かったかなと、後で思いました。本質的な解は一緒とは思いますが)

(追記3: イノベーションのジレンマとガラパゴス問題は、専門的には違う話なので、ご注意を。
 「イノベーションのジレンマ」が広義に解釈されすぎているせいなのですが、こちらは
 
新しい技術は通常旧技術とは異なる顧客(市場)、ビジネスモデル、組織の動き方を必要とされる、
 実際動こうとしても、新技術は最初は市場が小さいから本気度が出せない、
  そうしてるうちに出遅れて、にっちもさっちも行かなくなる、と言う話です。
 ただ、それを引き起こす組織の疾病が似ている、というのは私も同意ですが。 

わたしの下記エントリが参考になると思います。

My Life in MIT Sloan-自社事業を破壊するイノベーションが出てきたとき (2009/09/10)
My Life in MIT Sloan-日本の出版社が直面するイノベーションのジレンマ (2010/01/26)

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グローバル化と言語 (yumemakura)
2010-05-08 05:56:34
大変面白い。グローバル化は既定事実だから、その視点でものを進めなければならないと思う。グローバル化の時代、英語はコミュニケーションの上で大事なことだが、技術の世界では読めるがしゃべれない日本の教育も大いに役立ち、外国の文献はよく技術者や研究者に読まれていると思います。

最近よく言われてるガラパゴス現象の事では日本の携帯電話のことが言われてますが、携帯にカメラをつけたのは日本のアイデアやカメラ技術ではなかったのかな? かってソニーのウオークマンが世界を席巻したが、音楽は言語を介さないので通用したが、通信の世界は言語が介在するので、グローバル言語の英語の本家に有利だったのかも知れない。

私もかって仕事で英語を書いてましたが、パソコンと英語は相性がよく、一方、変換を必要とする日本語は不自由だろうなと思ってました。ましてや中国では画数の多い漢字だらけの文章を処理するのは大変だと思ってましたが、そのうちメモリーの増大やソフトの向上で日本人や中国人の間にも携帯があっというまに普及しました。

サンフランシスコで日本セッション (taketomi)
2010-05-08 07:14:02
>「日本のメーカーがガラパゴス問題に陥ってる」ということが、意識の高い人にすら、
海外ではほとんど知られてない、ということだ。

同意です。
こちらは先日adtech Sanfranciscoでのセッション。
http://www.ad-tech.com/sf/session_detail.aspx?refad=1&session=1477

現地でかなりウケました。
ガラパゴスと自虐する必要ないと思いました。
Unknown (greenT)
2010-05-08 08:05:14
非常に興味深いエントリでした。
日本のガラパゴス化の代表例は携帯電話ですが、これも無理やりiモードやらなにやらで垂直統合せず、
今のスマートフォンが弱いおサイフ機能とかをバラ売りすれば良さそうですね。

ぜっロックスについては面白い本で知っているけど (石川)
2010-05-08 08:18:00
純粋の現実のガラパゴスは閉じられていて、そこで生態系が維持されているから問題なし。外との競争がないわけだし。

企業の場合は、組織が縮小されたり解散していくことで、あるいは、外へ貴重なものが流出することで、結局は解決する。

だいたい、人間そのものがガラパゴスだから、解決不能だよ。で、日本の知識階層の駄目なところは、解決不能の問題を解くことが好きなんだよ。解いたときには、時代が変わっているから。企業活動のガラパゴスは解決できません。できたら、スゴイ。

で、ガラパゴスにも有利なことがある。現実のガラパゴス諸島は、全地球が人間に汚染されて死滅しても生き残っていけるかもしれない。

それと、日本なんか、明治になるまで、ずっとガラパゴスだったし。だから、日本がガラパゴスをやめるとかいったら、世界中が悲しむ。もし、本気でガラパゴスをやめるつもりになったら、中国と大摩擦だよ。中国の態度が変わったのは首脳たちが日本を歩いて、直接見て、日本は、ガラパゴスに戻って安心したからだよ。
ガラパゴス化の教訓について (沢 昭彦)
2010-05-08 08:39:46
興味深く読ませていただきました。

モバイル業界に従事する者からの視点で一言コメントさせていただきます。

今言われている「ガラパゴス化」の最大のアイロニーは、世界で最も整備された第3世代ケータイネットワークを日本はもちながら、それを利用する端末をみたら、国際競争力に乏しい産業構造になっていた・・・という点だと思います。また、技術的理由ではなくて、ビジネス上の損得勘定の理由で、海外の端末サプライヤーからの参入も進まないことが危機感をいっそう高める理由になっています。

このことについて総務省は早い段階から気づいて、規制産業である通信業界の中に、オープン化、つまり水平分業をサーポートする政策を着実にうってきています。

少なくとも消費者側の利益。便益は今後も守られていくと考えられます。一方、供給側、つまりメーカーはさらなる市場撤退、経営統合などがでてくるでしょう。

経営の観点から言えば、次のようなことを、痛烈に考えさせられる事例ではないかと思います。

・ Networkableな製品・サービスについての、外部経済や不経済の影響の大きさの再認識
・ グローバル経済の中での日本市場の小ささ
・ 要素市場の規模の経済、プラットフォームをふまえたvertical scope / horizontal scopeの戦略選択の重要性

十把一絡げにするつもりはないのですが、一般論で言えば、日本メーカが最も不得意とする課題分野だと思います。

独自と高度と優れている事は別 (ryu)
2010-05-08 09:46:54
非常に興味深いエントリでした。

優れた技術の定義が読み取れませんでした。
・売れない、使えない、高度な技術
・売れる、使える、技術
どちらも優れた技術ですね。
世界最高速の買えない金額のスパコンと世界2位の買える価格のスパコン、どちらを優れていると定義するか。

wiiやPS3、プリウスの様にガラパゴス化してない(していてもグローバルで通用している)例も有ると思います。

またガラパゴスであることで守られている部分も多々あると思うので、オープンにしても飲まれない技術が必要ですね。たとえば守られていないソフトウェア(パッケージ・ミドルウェア)なんかは自給率が非常に低くなっています。

グローバルな視点で何のために何にお金をかけるのかが大事なのではないでしょうか。
Unknown (猫の足)
2010-05-08 09:50:29
いわゆる「ガラパゴス問題」というのを「ガラパゴス」という用語で説明することすら問題があるかもしれませんね。
独自の進化自体は多様性ということでポジティブにもとらえられますから。
単純に、言語・文化・地域に由来する過度な閉鎖性といえば良いのではないでしょうか。
Unknown (通りすがり)
2010-05-08 10:08:40
携帯について。

確かに独自の進化を遂げたって意味ではガラパゴス。
お財布機能のフェリカも日本独自のもの。
ワンセグもそう。

グローバルに端末を製造したいなら、これらの機能はデフォルトされてないのは当たり前。

でも日本のユーザーはすでに便利さを知ってしまっている。

でも一方でiPhoneやXperiaは売れている。

機能満載のガラケーか
機能を付加していいくスマートフォンか

純日本メーカーで殻を破れるのはどこでしょうか?

ちょっとズレちゃいましたね。すみません
Unknown (Unknown)
2010-05-08 10:23:43
本筋とはあんまり関係ないけど、『未来をつくった人々』を読んだ感じ、Xeroxの話はちょっと違う感じがする。

当時はコンピューターに規格標準なんてほとんどなくて、いわば全ての会社がマダガスカル島みたいな状態だったんだから。
ここに現在のガラパゴス問題を単純に当てはめられるのかは疑問。

それに、結局XeroxはPARCで開発された初のレーザープリンタで研究所への投資を回収できるくらい儲けたんだそうな。
中小企業 (Pandy)
2010-05-08 13:09:31
ガラパゴス問題を解決するキーのひとつとして、中小企業が突破口になってくれないかなぁ、期待しています。
かつてのクライアントの中には、熱処理技術でボーイング社とビジネスをしていたり、ホーニング技術、造形技術など、個々の技術でグローバルに仕事している、もしくはポテンシャルがある企業は多いと思います。
そういった企業は、大企業よりもフットワークが軽いという利点もあり、海外と繋がりやすい。
さらには、主要取引先が、ザ ガラパゴスな日本企業だったりするので、ガラパゴスな技術をオープンにする橋渡しになると思っています。
中小企業による技術や商品の海外展開がいいきっかけになると思ってるんですけどね。P&Gのスポンジとかね。
ビバ、中小企業

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