前回は、アプリレベルで私の欲しい電子書籍について書いた。
(参照記事: My Life in MIT Sloan-わたしの欲しい夢の電子書籍アプリ)
これは、今の電子書籍のボトルネックがアプリとフォーマットにあることを踏まえ、
日本企業が巻き返し図るのに、どんなアプリを作ればいいかを提案する意味合いで書いた。
さて、この記事では、デバイス各社がアプリやフォーマットに頼らず、
デバイスのイノベーションだけでの電子書籍マーケットでの巻き返しが可能か、を考えてみる。
デバイスで圧倒的な機能のものが出せれば、iPadがKindleを追いやっているように、巻き返しは可能かもしれないからだ。
一度原点に立ち戻って、「紙の本」の価値を考えてみる。
結局物理的に紙の本を越えるユーザビリティのものが無いってのも大きい。
最初は検索とか、ソーシャルネットワークとか、「紙」では出来ないユーザビリティだけでも良いが、
そのうち「紙」のユーザビリティを実現させないと、真の破壊的イノベーションにはならない。
紙の本って便利なんですよね。
すぐ書き込めるし。
本の厚さがあるってのも重要で、後で読み返すとき大体どの辺だったかとか、大体感覚的に分かる。
付箋を沢山貼っておいても、どの付箋がどれだったかって分かってるんだよね。
ぱらぱらめくって次のページにいけるのも、とっても便利。
薄い冊子だと、思い通りに曲げられるってのも便利なんだよね。
どんなに電子デバイスに慣れた世界から来た人でも、「本の読み方が分かりません」なんて、
このYoutubeの映像みたいなことは絶対に起こらないだろう。
これはノルウェー語のコメディで、未来から来て「本」を一度も読んだことが無い人が、本の開き方とか、ページのめくり方とか、保存の仕方(笑)が分からず教えてもらうって話。
そういう便利な紙の特質を考え、どこがアプリでどこがデバイスで実現できる機能かをつらつら考えると、
アプリとデバイスのソフトウェアの機能で実現できることがまだまだ沢山ある。
例えば本の厚さがあって、位置がすぐ分かるとか、付箋見て分かるって機能。
これは、iPadレベルのデバイスがあれば、実はアプリとフォーマットの機能として埋め込める、と思った。
画面の両端を、本の厚さをあらわす機能として取っておいて、そこをめくると別のページにワープできるようにしておけばいいんだよね。
良くめくるページがすぐ分かるようにしたければ「電子手垢」機能をOnにすればいいわけで。
そりゃ紙の本とは違うけど、アプリレベルでも究極まで近づけることは可能だ。
そうすると、どうしてもデバイスじゃないと実現できないことは、薄さ、軽さ、折り曲げられる、とかに集約してしまう。
「圧倒的な性能のデバイス」を出して勝っていくためには、やはり圧倒的に薄くて軽くないとダメだよね。
かつてソニーのトランジスタラジオがRCAのラジオを敗退に追いやったように。
じゃあ、圧倒的に薄くて軽いってナンだろう、と思うと、例えばこんなのがある。
この映像は、2年前のCESに出展された、SonyのOLED(有機EL)
厚さわずか0.3ミリで自由に折り曲げ可能。
(CES:毎年1月にラスベガスでやる世界最大の家電の展示会。日本のCEATECに近い)
これ、2年前の話だけどその後Sonyでどのような開発が進められてるのか知らないけど、
同様の研究は、恐らくデバイス各社で進んでいて、ネックは耐久性とか大画面化とか量産とかにうつってきてるだろう。
またディスプレイがいくら薄型化しても、バッテリーとかメモリとかを薄型化できない限り、全体として薄くならない。
そう考えると、デバイス全体を「紙」のようにするのはボトルネックが沢山ありすぎて、この5年の間で実現させるのは難しいように思える。
もちろん両面化とか、軽く薄くとか、出来ることは沢山あるが、他の追従を許さない圧倒的なデバイスを発売するのって中々難しそう。
こうやってつらつら考えていくと、アプリケーションやデバイスに載ってるソフトの機能(めくるとか)で、紙の本のユーザビリティに近づけられるところがまだまだたくさんあるんだよね。
全体の性能を上げるための「ボトルネック」はアプリとかソフトウェアなのだ。
デバイスはこういうものと垂直統合することで、デバイス全体としての価値を上げないと、やはり電子書籍市場でも勝てないのだ。
こういうことを言うと、「デバイスとソフトの垂直統合なんて10年前から言われてるでしょ?」という声が聞こえてきそうだ。
でも、日本企業から出てる電子ブックリーダー、全然出来てないじゃないの。
薄いとか軽いとか、デバイスの機能だけを売りにして売ってるのは何故なの?
まだデバイスの機能だけで勝てるとか思ってるからじゃないの?
こんな電子書籍一つとって、ユーザの視点で分析してみたって、
欲しい機能の大部分はアプリとソフトウェアレイヤーで解決できる話なのは明らかなのだ。
デバイスとソフトの垂直統合を進めないとならないのは、デバイスの機能だけでは絶対に巻き返せないから。
デバイスの機能で巻き返したいなら、本当に紙みたいに薄くて軽い圧倒的なデバイスを出すしかないが、それはまだ出来ないでしょ。
今後、日本の電機メーカーが電子書籍マーケットに居続ける・参入するとしたら、
上記や前記事で議論してきたようなiPadのiBookなど越える圧倒的なユーザビリティをもつアプリを開発し、
それをサポートしてかつ著作権機能を持つフォーマットを日本だけでなく世界の出版社と合意して普及にこぎつける必要があるだろう。
デバイスとしては、第三者アプリは無いけど、WiFiあるし、メール、ネット、Youtubeを見られるとかいうiPhone的機能は基本として身につける。
ちなみにフォーマットは最終的にはデバイスやアプリとのモジュール化が可能なように設計しておき、
仮にデバイスで大負けした場合でも、
Adobeみたいにフォーマット化のソフト+CDみたいに本販売時のライセンス料、で食べていけるようにしておかないとダメ。
iPadと対抗するには、AppleがiPhoneで育てた数々のThird partyアプリが無いのが痛いが、
こういうのはそのうち他の電機メーカーとかマイクロソフトみたいなとこと協調しつつ、
Appleに対抗するThird partyアプリプラットフォームを作っていくしかないように思う。
出来ればそんなことを考えないで済むように、iPadがまだ電子ブックリーダ+携帯みたいな価値しかない今のうち、侵食を食い止められるように動くしかない。
ということを昨日つらつら考えてるうちに、自分がMITにいて技術者にリーチ出来る間に、そういうアプリとフォーマットを作る会社を立ち上げようかと何度も思うんだけど、
やはり何度も書くけど、アプリだけでは事業の規模に限界があるし、大きなことは出来ないんだよね。
やっぱりデバイスか、コンテンツを持つ大企業と一緒にこういうことやりたいな、と思うのであった。
電子書籍についての過去記事
My Life in MIT Sloan-わたしの欲しい夢の電子書籍アプリ 2010-05-25
My Life in MIT Sloan-電子書籍はアプリとフォーマットを制したものが勝つ 2010-05-24 ←オススメ
My Life in MIT Sloan -アップルが電子書籍で最初に教科書を狙う理由 2010-01-27
My Life in MIT Sloan -日本の出版社が直面するイノベーションのジレンマ 2010-01-26









「厚さ80μm,精細度121ppiの4.1型有機TFT駆動フルカラー有機ELディスプレイ」
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201005/10-070/
デモビデオもあります。
情報有難うございます。
なるほど。2年前のCESのときより更に薄くなってますね。
でもこれ上にも書きましたが、バッテリーやメモリなども搭載した実際の商品になるのはまだ先ですよね。
そっちも薄型化しないといけないかと。
ヘッドフォーンに違和感無いのであれは、電源のコードも苦にならないのでは。
本と同じ様に寝転んでみれるし。
電子書籍の言葉に取り込まれて、紙の様な、本の様な物体にこだわり過ぎている様な気がします。
全くの思いつきでした。
なぜ、紙のユーザビリティを実現させないといけないんでしょう?
背景に、本が電子書籍に進化/イノベートされていく、という視点があるのでは?紙とは全く異なったデバイスとして見た方が、たくさんのイノベーションが生まれると思いますよ。
映画が映画館でしか見れなかった時代と、携帯DVDで見れる時代。これを"電子映画"と呼ぶのは自由ですが、どうですか?おかしいでしょう?
今、パソコンで大量に活字情報を処理しています。もしもWebが紙だったらうんざりして読まないですよ。リンクやタブ、ブックマーク、検索等、紙にはできませんから。
つまり、電子の方がユーザビリティが低いのではなくて、紙をスキャンしただけの”電子書籍”はユーザビリティが低いのです。
これからは、デバイスにあった新しい書き方をすれば良いのですよ。過去の本を電子化することばかり考えないでね。ビジネスモデルも同じですよ。過去の本や出版・流通と切り離して検討した方が、本当の破壊的・非連続的イノベーションとそのマーケットが見えてくるのでは無いでしょうか?
閲覧するのに電気が不要。保管スペースはとるがコストは最初に購入したときのみ。
あと紙媒体だと古本はあるが電子媒体だと古本はない。つまり紙の本はいづれ消えてしまうが、電子媒体は半永久的に残ってしまう。。。
Mavelのコミックアプリのようにコミックの新しい形もありますし、その辺もパブリッシャーの独自性を見出すチャンスだと考えています。
http://www.youtube.com/watch?v=vk6jSdwC8j4
「できるシリーズ」、「図解~」、人気参考書シリーズなど個別にユーザーエクスペリエンスを含む総合的コンテンツ制作をができる「出版社」のニーズは高いと思います。
90年代のCDベースのマルチメディアブームが目指していたものが、タブレット等モバイルデバイスで実現されようとしている部分もありますね。
一番のネックになりそうですね。
メガネはいいですね。まさにヘッドフォンの発想。
ページめくりはべつにクリックとかでもいいです。
ただドミナントデザインにはならない気がする・・。
@AutumnCrestさん
>なぜ、紙のユーザビリティを実現させないといけないんでしょう?
背景に、本が電子書籍に進化/イノベートされていく、という視点があるのでは?
というか、人間の触覚とか視覚に蓄積される情報ってあなどれないモノがあるので、それを活用しようって発想だと思います。
必ずしも紙の機能を全て実現する必要はなくって、その中の人間の五感を使える機能を実現した方が、その情報を使えるよね、って発想だと思います。
わたしは紙のほうがユーザビリティが低いとは思ってませんよ。
電子と紙ではユーザビリティの軸が違うんです。
ここで「破壊的イノベーション」という言葉を引いたのはそういう意味合いです。
一般的に破壊的イノベーションは、Traditional performance(旧来的な機能)では劣っているが、Ancillaly performance(新しい機能)では勝っているのが普通です。
最初のユーザは新しい機能(電子ならではの機能)だけに引かれて購入します。
しかし技術が進むうちに、旧来の機能(この場合は紙の機能)もユーザが満足するレベルに上がってきて、初めて市場が逆転し、旧来の市場を奪うまでになるんです。
これは過去の様々な破壊的技術について検証されており、電子書籍が例外になるってことはそんなにないでしょう。
仮に「電子書籍は別のものなんだから、それだけでいいんだよ」という発想だと、その程度の規模の市場で終わるんだろうな、と思います。
@ツバメさん
なるほど他にも紙が良い?点はあると。
どっちが半永久的か、というと?な点もありますよね。
電子書籍こそ、そのフォーマットをサポートするソフト・ハードがなくなったら読めなくなりそう・・。
人類が滅びた後、それを後から掘り起こした生物は、「この生物は21世紀半ばで成長が止まっている」とか思うかも(笑)
@rosso8
フォーマットのアプリ化。全く同感ですね。そういう意味も込めて、フォーマットとアプリの境目をちょっとBlurにしておきました。
>最初のユーザは新しい機能(電子ならではの機能)だけに引かれて購入します。
理論面だけでお話すれば、一般的に、低機能に加えて、「低価格」という面も必要でしょう。
現状では、デバイス価格+データ価格は、普通の読書量の人にとっては、高額なものです。将来的には下がるとおもいますが、現時点ではdisruptiveなイノベーションとなるだけの価格力が無いでしょう。
さらに、現在の書籍が連続的イノベーションによって、高コストになっているのか、という問いはどうでしょう。これはYESですね。特に日本では、書籍流通業界のしくみによって、不当に高価格で販売されています。
ですので、データ流通の仕組みが変わることで、低価格・適正価格でデータが提供され、再生デバイスの価格が市場競争によって下がってくれば、破壊的イノベーションが起こると、考えますが、いかがですか?
現時点では、まだ破壊的イノベーションが起こっていないと考えていますので、機能の拡充について話をしても逆に失敗する連続的イノベーションと同様に、Too Muchな機能となってしまうのでは、と感じています。ユーザの使い方やコンテンツ提供者の新しい発想からくる、チープで破壊的なイノベーションを期待したいです。
そういう自由度の高さがイノベーションを生むのなら、iPad超えようと思ったらAppStoreじゃないアプリ販売プラットフォーム作っちゃう、っていうLilacさんの意見いいですね。販路の自由化ですから。
そしてApple程縛りをキツくしない為にもコンテンツホルダーやメーカと協業するにしても自由度は持っておいて欲しいです。
各種出版社なり個人なりAmazonなりAppleなり電子書籍出してるところと繋がってて集約してくれるサービスやアプリケーションがあればいいなぁと思っています。もちろんある程度他言語には対応したもので。
そうなれば自ずとユーザはそのサービス(やアプリ)に集まってくるわけだし、そうなればお金を第一の目的に動くあまり閉鎖的な企業も門扉を開くのではないかと思います。
結局、あの会社がユーザ囲い込んで儲けてるから俺も囲い込むぜ!
じゃあよくしてその会社を超えられるかどうか辺りで終わっちゃって、結局はユーザが求めるものをピンポイントで提供する後進にガツンとやられちゃったりしますよね。