My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

不景気だからこその移民政策のススメ

2010-07-26 07:04:13 | 3. 起業家社会論

日本に関する、海外の新聞記事やアナリストレポートを読むと、「日本は3度目のLost Decade(失われた10年)」に突入するのか」というのをよく目にする。
1990年代初めから20年続いているが、またあと10年続くのか、それとも日はまた昇るのか。

日本の経済がデフレから脱却し、もう一度活性化するのに、日本政府に出来ることって何だろうか。
金融政策は、やれることはやりつくしている感あり。
かつての半導体のように、通産省(経産省)主導でイノベーションってのも、今の時代では難しい。
政府に出来るのはもっと大胆な政策、法人税制や移民政策だろう。

移民政策については、今世紀初めころから議論が高まり、移民政策を検討する政治団体も出来たり、
2008年10月には経団連から「日本型移民政策の促進」をうたうレポートも出た。
ところが、リーマンショック後の製造業を初めとした大量解雇で、移民政策の「い」の字もいえない状況に後戻りしてしまった。

しかし、内需が落ち、新しい産業も興らない今の日本を長期的に活性化させるのは、
社会に新しい風を吹き込み、既存勢力を無力化し、人口増加に役立つ、移民ではないか。
特に、社会不安を引き起こしやすい低賃金労働移民ではなく、技術や学問的素養を持つ高機能移民に集中して、いかに定着させるかが鍵。

高機能移民が起業家社会を促進する

以前「日本にシリコンバレーが必要な理由」に書いたとおり、私は日本の更なる経済成長には、
新しい産業を生んだり、大企業を脅かして変革していったりする、Googleのようなベンチャー企業が成功する素地が非常に重要だと考えている。
この素地を作るのに重要なひとつの要素が移民だ。

以前記事で紹介したポール・グレイアムの論文のトップにあったとおり、シリコンバレーが成功した一つの理由は、アメリカが積極的に優秀な移民を受け入れる国だから、とされている。
彼は「日本人にシリコンバレーを作らせたら、無意識的に日本人だけの集まりにするだろう。それではシリコンバレーは出来ない」とまで言い切っている。

実際、シリコンバレーのベンチャー起業家には移民が多い。
Google創業者の一人、セルゲイ・ブリンも、ロシアからの移民一世だったりするが、
なんとシリコンバレーでの半数以上(51%)の起業が移民一世による。(データソースはこの論文

起業家が生まれて、成功しやすい社会には、以前から言ってるような、起業家、資本を持つ人、経営のプロ、技術、その他優秀な人材などのネットワークがある、というのも重要なのだが、
「成功したいという野心がある優秀な人たちがワラワラいる」「伝統的な秩序がある程度失われて、下克上しやすい」というのも非常に大切。
それを作り出すのは移民、しかも大学や大学院まで行って技術や専門知識があるが、発展途上国からやってきたなどで「後がない」高機能移民が重要な役割を果たす。

移民の人は、「成功しなければお国に帰る」しか選択肢がない、いわば背水の陣だ。
だから、成功しようという意欲が非常に強いし、失うものが少ないからリスクも取れる。
技術や学問的資質を持った上、このように野心も強い高機能人材が沢山日本に入ってくれば、
日本人の既得権益者も競争に追いやられるわけで、自然と活性化が進むのではないか、ということだ。

高齢少子化の問題解決は移民で

そして、先進国では高齢少子化はどこでも問題だが、米国やフランスの高い出生率は高い移民率が支えているということも忘れてはならない。
女性が子供を持ちながら働きやすい社会を作るのは当然だが、それだけで出生率を上げるのはなかなか難しい。
それは、働くママへの支援がもっとも多いとされる北欧諸国の出生率が未だに2以下であることを見ても分かるだろう。

現在の、労働人口が増えることを前提にしたネズミ講的社会保障は、いずれにせよ改革しないとならないが、
人口減少のスピードが速すぎるのは問題だ。

若い優秀な移民にどんどん来てもらうことで、日本の高齢化を支えてもらうのが一番現実的だと思う。

内需減少の悪循環を食い止めるのも移民で

そして、労働人口減少で、内需が大幅に減少しているのも、日本市場の魅力を削いでいる一因だ。
そうすると日本への投資を積極的にしようという企業も少なくなり、日本に優秀な人材も集まらなくなる。
そして更に人口が減り、内需が減少し・・・という悪循環だ。
これを食い止めるのも、女性支援だけで出生率2を越えるのが難しい以上、結局移民しかない。

移民による軋轢を最小化する「高機能移民政策」

ところが、移民政策の議論を始めると、やれ犯罪が増える、失業率が高くなる、とアレルギー的反論を受けることが多い。
これを解決するのは、犯罪増加に結びつきがちな単純労働の移民ではなく、技能や学位を持った高機能移民に絞って、増加させる政策だ。

技能や学歴で「差別して」移民を認める、ということに抵抗がある人は多いようだが、先進国ではどこでもやっていることだ。
単純労働者の移民を増やしても、犯罪増加や、失業率の増大などの社会不安に繋がるだけで経済的効果が薄いとされてるからだ。
移民大国の米国ですら、技能がある人は技能がない人よりも圧倒的にVISAを獲得しやすく、
また学士はそれ以外よりも、修士は学士よりも、そして博士は修士よりも圧倒的に労働VISAや起業家VISAが獲得しやすい。

高機能移民政策はどこから始めればよいのか

実は日本の法律でも、医療や教育などの専門的技能を持った人は移民しやすいことになってるんだが、
その範囲が限定されすぎて狭いこと、実質在留資格が取りにくいことなどが問題。
在留資格のある専門技能を、医療や教育だけではなく、海外の学士・修士・博士や弁護士、会計士などの資格に至るまで拡大したり、優秀な留学生が日本に定着しやすい在留資格の緩和なども打ち手になる。
優秀な留学生の登用なんて、日本の製造業では大企業でも中小でもとっくに始まっている。
そういう人たちが、たとえ転職したり、起業しようとしても、日本にとどまれるような在留資格の緩和ってのは重要なポイントの一つ。

または、国を挙げてやっているフィリピンなどからのケアワーカーの資格が、日本語の試験が難しすぎてほとんど取れない、なんてのは実質的に移民を阻止している例である。
こういう看護士やケアワーカーをはじめとする技能が重要な日本の資格が、話していて困らない日本語能力と技能があれば取れるような現実的なものに変える、というのも高機能人材を増やす方法の一つ。

その他にも、高度機能人材の移入を進めるためにするべきことはたくさんあるが、これって日本人の優秀な人を日本にとどまらせる仕組みと似ている。
「給料も安くて、仕事と言えば実際の付加価値に繋がらないインパクトの低い仕事ばかり」だったら、優秀な人材なんて定着しないだろう。

前に書いた社内英語問題もあるが、それ以上に安い給与体系は海外からの優秀な人材を確保する障害になっている。
かつては、日本人は給料が安くても真面目に丁寧に働くことが、製造業のコスト競争力に繋がっていたかもしれないが、
グローバル化が競争力の源泉となりつつある今、日本の製造業の給与体系では競争を勝ち抜くに必要な人材が確保できなくなりつつある。
本当に海外からの優秀な人材がたくさん定着するには、このあたりの改革も必要になってくるだろう。

このように、高機能人材の移民促進、といっても一筋縄では進まないが、すぐに出来ることも沢山ある。
そういうのを変えて、優秀な移民をどんどん受け入れられるようにならないと、日本の長期的な復活って難しいと思っている。
不景気で移民政策にアレルギーを生じるのではなく、長期的な不景気から脱出するための移民政策を論じるのが大切と思う。

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Comments (76)
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