5月15日:謡曲に思うこと
最近「頼政」をお弟子さんに稽古していましています。老境に至って権力に反旗を翻した武士の物語として、興味深い作品です。
最後は戦に敗れて自害しますが、悲壮感ばかりが伝わってくるわけではありません。
物語を語り始める頃は、初夏の緑鮮やかな景色が背景にあります。
そのうち月が出、山も川も朧として幻想的な景色が広がります。
在りし日の姿で戦物語をする段では、負け戦ながら敵方の見事な渡河の有様を語りつつ、川に流される武士たちの鎧の様々な色合いで川が錦のように見える様などを語ります。
能では装束の上で、年を重ねると色無しという、鮮やかな色を避ける方法をとりますが、物語の中ではあえて色鮮やかに描こうとする意図もあるように思えます。 永島 充