いろはにほへと

ちりぬるを

いろはにほへと

2019-06-16 06:21:11 | 日記

アナタニ ツタエナケレバナラナイ

ワタシタチノ コトバ

 

風景 10  時と手紙 3

 

二人の記憶を重ねることができないことを分かっていて、

源夢さんは敢えてあの手紙に二人のことを書いた。

 

そうでなければ、

この手紙のように千切れた言葉を書き連ねることにはならないだろう、

と思いながらそれらの紙を整えた。

 

その後、老婆の言葉を認めた自分の紙片が目印になるように束ね、

木椀と一緒にして歩き始めた。

手には今も、老婆から貰った杖があった。

 

陽射しの中で

木の葉が揺れている

 

青い表と

薄い白の裏を

靡かせて

 

散るでもなく

初夏の午後

 

 

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いろはにほへと

2019-06-15 06:20:44 | 日記

アナタニ ツタエナケレバナラナイ

ワタシタチノ コトバ

 

風景 9  時と手紙 2

 

ためらったまま源夢さんの姿を思い描こうとしても白いばかりで何も浮かんでこない。

ましてや手紙の中身など分かりはしない、恐る恐る次の紙を捲ると一枚目とは違って細かい字で一面に区切られた行が並んでいる。

源夢さんが仏師であることは承知している、がしかし文字までがこんなに細切れで削ったように不揃いに並んでいる手紙だとは思ってもみなかった。

 

鳥の鳴き声、湧水の音、木が騒ぐ音、花の色、雲の流れ、川のせせらぎ、団栗の実の転がる音、

数え上げても切りがないそれらの文字が紙一面に散らかっているだけで、それがどうしたとか、

だからこうだとか、何々をこうして欲しいとかは一切ない。

 

次の紙には少し日々のことなども書き綴ってあるだろう、と思って捲ってみたが、

前の紙の言葉よりひどい乱れ様で、文字そのものも几帳面な源夢さんが書く書体とは思えない姿形をしている。

ミサロはそんな紙をめくりながら、源夢さんのことが他人事ではなくなるような思いさえしてくるのだった。

 

源夢さんのことを思えば思うほど・・・、

その時、源夢さんが「源夢」に書き残してあった置手紙の言葉をまた思い出した。

「あなたの記憶と私の記憶をもう一度重ねることができるなら旅先で老婆に会うことがあるかも知れません。

触れ合うと言った方が正確かも知れません」

 

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いろはにほへと

2019-06-14 07:01:56 | 日記

アナタニ ツタエナケレバナラナイ

ワタシタチノ コトバ

 

風景 8  時と手紙 

 

朝早く、震える紙の音で目が覚め、手に取ると源夢さんが認めた置手紙だった。

失くしたほどの量ではないが可成りの枚数が重なっている。

先ず、最初の紙に目を落とした。

 

旅のミサロ へ

 

多分、あなたはあの時の雨で手紙の全てを失くしたのだと思います、

でなければ、こうして改めて手紙を残すこともありません、もうとっくに会えていたはずですから。

約束の場所には現れず今の風景を見ながら伝えなければならないことを書き残します。

 

多分、これがあなたへの最後の手紙になると思います、

というのも石高山から延命寺へは今までのことを思えば僅かな距離です。

そのことからすると旅も終わりへと近づいています。

 

時に前後はありませんが、旅にはそれがあります、でなければ書きません。

手紙の内容はもう大体お分かりだとおもいますが、・・・

 

そこまで目を通して次の紙を捲るのを一瞬、ためらった。

 

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いろはにほへと

2019-06-13 09:23:35 | 日記

アナタニ ツタエナケレバナラナイ

ワタシタチノ コトバ

 

風景 7  岩の狭間で

 

湧水を後にして既に陽は傾き始めていた。

 

歩き疲れて眼下を眺めると木々の間を流れ下る谷川が幽かに見える。

それは視界から消えたあの谷川の下流域のようだった。

 

その流れは霊峰を取り巻いて左へ下り、

いくつかの谷川と交わりながら、

やがて「源夢」の裏側へ辿り着く、そう思った。

しかし、歩きながら眺める風景が少ずつ左へずれていく時、

その思いも同じようにずれ始めていた。

 

石高山に踏み入って間もない今、確かなことは何もない。

落陽の中、やっと見つけた岩の狭間に身を置いて夜を明かした。

 

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いろはにほへと

2019-06-12 06:34:37 | 日記

 

アナタニ ツタエナケレバナラナイ

ワタシタチノ コトバ

 

風景 6  水音

 

鳥が鳴いている

 

キズイタ 

ケッキョ 

ピーピッピイ 

ホッケキョ

 

音に誘われ

木花村の

湧水と重なって

佇んでいる

 

正吾さん、源夢さん、源定さん、夢静さん

正念さん、

老婆

 

六人が

水音になって

湧いている

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