河野美砂子の「モーツァルト練習日記」+短歌+京都の日々の暮らし

9/28(土)13時30分 NHK文化センター京都「マズルカ⑪」Op.63、バラード第1番他 

再現部の味―アマデウスへの手紙2-1

2007-05-20 00:47:48 | アマデウスへの手紙
モーツァルトさん、こんにちは。

昨年11月のソロ演奏会「モーツァルトに会いたい」の練習過程で書いた
20通あまりの手紙。
今、思い出してみても、
書いていてなかなか楽しかったです。

しばらくご無沙汰していましたが、
また書き始めることにしました。

07年、今回の「モーツァルトに会いたい・2」は、
室内楽を特集します。

まず6月10日は「ピアノトリオ」。

モーツァルトさんが書いたピアノトリオは
現在7曲残されています。

1776年作曲の、「K.254 変ロ長調」以外、
残りの曲はすべて晩年の作品なのですね。

3曲は、1786年、あとの3曲は、1788年。 
さすが、味わい深いです。

その中で、今日は「K.542ホ長調」について。

この曲、
私は前世紀(20世紀のことです)に本番で弾いたことがあります。

あまりの上等さに、当時、本当に驚き感激しましたが、
21世紀に入って久しぶりに弾いてみて、
以前には意識されなかった、玄妙な味に気がつき始めています。

特に、再現部にヤラレてます。

再現部というのは、
つまり 「A」「B」「A'」の、「A'」 です。

すなわち、冒頭の「提示部A」のテーマが
「展開部B」を経て「再現A'」される。

でも、「A」 と 「A'」 は、
そっくりではないの(あたりまえ)。

この曲では、
冒頭から、ホ長調という♯4つのやや特殊な調性。
その潤いを帯びた調性の中で、
優雅なダンスの3拍子のテーマ。

それが「再現部」に戻ってきて
第2テーマに入るまでの
約34小節間の、
なんというデリケートな移ろい方!

光と影が入れ替わって
水の反射が葉に揺れているような、
日の光の虹色がときおり見えるような。

ホ長調→ホ短調→ハ長調(一瞬)→ホ短調(一瞬)→ト長調→ホ短調→ニ短調(一瞬)→ハ長調(一瞬)→イ短調(一瞬)→ホ短調→ホ長調

(「一瞬」と書いたのは、約1小節間=3拍=1秒あまり)

たった34小節(1分足らず)の間に、
これだけの調にわたってひらひらと移ろうのです。

あれよあれよと弾いているうちに
色のグラデーションの中をあちらこちらに旅するみたい。

それを、誰も気づかないような自然さで
モーツァルトさんはそっと差し出す。

さりげなく運ばれる音たち。

モーツァルトさんは、
書き終えたこの曲を、
お姉さんのナンネルさんに送ったとき、
「ミヒャエル・ハイドンに聞かせてください。」と
手紙をわざわざ書いたそうですが、
相当の「自負」があったのですよね。

その、モーツァルトさんの密かな自信、
ものすごくものすごくよくわかります。

ほんとにこの曲を弾くのって「喜び」です。
指と、脳と、それから魂がきれいに上等になります。

近いうちにご自慢の楽譜をアップするつもりですので
待っててくださいね。♪


コメント
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