ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

京都造芸大でのセミナー、午後の部のレポートをお届けします

2014-04-16 21:10:31 | 対話型鑑賞
京都造芸大でのセミナー、午後の部のレポートをお届けします


みる・考える・話す・聴く 観賞によるコミュニケーション教育」 刊行記念セミナー参加報告 その2 正田 裕子

事例報告「学校現場での実践と評価について」 担当 春日美由紀  房野伸枝(島根県公立中学校 教諭)

○自己紹介から
 「Art Communication in Shimane  みるみるの会 」の名称の由来と所属メンバーの紹介および目的を紹介させていただきました。3年前の京都造形大学で行われた「連続セミナー VTS Visual Thinkingu Strategy(講師 MoMA教育部部長フィリップ・ヤノウィン氏・福のり子教授他)」に参加し、その後県内の公立小中学校教員をはじめとして、センター指導主事・県立美術館学芸員を含むメンバー9名で現場および美術館等で実践・検証を行い対話型観賞のスキルアップを図るグループであることを伝えました。

○現場の評価について
 まず、私たちの観賞評価の規準について明らかにしました。図工・美術の鑑賞の規準は、授業の「関心・意欲・態度」4項目と「鑑賞の能力」1項目で評価をしていること、そして「意・関・態」と「鑑賞の能力」については、教師側の授業観察および観賞実践後のワークシートの記述を評価し、鑑賞者それぞれの自己評価も加味していることを伝えました。

「関・意・態」・しっかり作品を見ていたか 
       ・みたことについて考えていたか
       ・みて気づいたことを発言したか
       ・友達の発言をしっかり聞いていたか
「観賞の能力」・発言およびワークシートの記述の内容
 
 評価の内容を確認したら、早速参加者の皆さんと共に資料集P21の「ヴァン・ゴッホの椅子」について評価基準を考えてみることにしました。
 まず最初に、この鑑賞をするにあたって、授業者(ナビゲーター)自身がこの作品の読みとりをする必要があることを説明しました。授業者が一鑑賞者として作品と対話をすることで、鑑賞者の発言が予想でき、また授業の組み立てや予想できなかった発言に対しても対処できる心構えができるからです。もちろん、授業者が予想した授業の組み立てはあくまでも例であることを心にとめておき、その作品のどのような部分からでも様々な見方・発言が出てきても良いように心構えを作っておくことが大切といえます。
5分間の時間を取り、参加者の皆さんに読みとりをしてもらいましたが、さすがこの鑑賞に関心を持たれる皆さんなので5分では時間が足りず延長しました。おのおの記述欄に多くの読みが書かれていました。読みとりの一例を提示しましたが、初めてこのスタイルで鑑賞した児童・生徒は参加者の皆さんの考えるところまで深く読みとり、文章記述することは難しいかもしれないことを確認したうえで、記述の内容に特化して評価をどのようにしていくのか皆さんと一緒に考えていくことにしました。
次に、私達の評価の実際の基準を提示しました。(ネタを文字として書く方が良いのか)
 そのうえで、P21の作品の生徒記述(一文ごとの抜粋)についてはこのように考えるという例をあげさせていただきました。

評価 評価のもととなるもの
C ① ファクト(事実)だけ、トゥルース(解釈)だけの記述
B ② トゥルース(解釈)にもとづいた、トゥルース(解釈)だけの記述
     ③ ファクト(事実) にもとづいたトゥルース(解釈)の記述
       特徴的な記述の例:「~だから」「~ので」
A ④ 複数のファクト(事実)にもとづいた、トゥルース(解釈)の記述

 その後、P19にある「解放(作者ベン・シャーン)」の実際の生徒の記述例を挙げ、それをどう評価するのか個人で考えていただいき、こちらの評価基準をもとに評価した例を提示しました。その後、その評価例と自分たちの意見を比較してグループ協議していただき、それを全体で共有しました。
 グループ分けは参加者の所属等を考慮せず、近くに座っている8名程度で「よかった・難しかった」などの感想、そして「どうやったら評価できるようになるのか」などの疑問や「もっとこうすれば良いのでは」などの提案などを中心にディスカッションしていただきました。
 
 全体共有の場から
・分け方は乱暴なのではないか。ですが、これを書いた子どもを知っているのは教員だし、この文章だけでなく、この子の顔を見て寄り添っていくという のが大事ではないか。
・記述の量が少なすぎてA評価はあげられない。単純に量的に少なすぎてどこまで深くつっこんで考えているのか分からない。根拠をもとに戦争の話に  なっているのだけれど、最後の解釈については飛躍しすぎていて本当に彼のものになっているのか疑問が残る。でも、対話の中での意見もあって、その 結果Aだというのはあるかもしれない。
・使用した生徒の記述で「ファクト」と評価されているものの中にも実はトゥルースっぽいのが見える。もしかしたら、トゥルースではないか?「ファク ト」と「トゥルース」が混ざっているとの意見があり、「焦げたように」「笑っていない」というのがそうではないか。分け方が、大雑把すぎるのでは ないかという意見もありましたが、根拠をもって思考するというやり方ではこういう評価の仕方になるかもしれない。やり方の一つであると考えられ  る。
・記述の量とかの話になってくると他の軸(ものさし)が必要となってくる。
 ・この書かれた記述を自分が実際評価するとなると難しい。5クラス3学年の500人からいるので、実際に事実と解釈で(評価を)やっていくのは難 しいのではないか。言語活動という観点からすると、中学1年生、中学2年生ならこれくらいまで根拠をあげた方がいいという目安があった方がいいの ではないか。
・「発言のしかた」とか「発言の内容の方向性」ということになると評価ではなくて、ナビのスキルの問題とも絡んでくるので、評価とは切り離して考え るべき問題ではないか。
・子どもの発達段階や地域性も考慮して、その上で「ファクト」と「トゥルース」に分けるのは、分かりやすい。
・「3人の子どもは最初遊んでいるんだというふうに思っていた」のが友達の会話を聞いて変わったという気づきがあったのが素晴らしい。この評価表に はのっていませんねと言う話もあがりました。 他の班でもあがっていたけれど、「ファクト」と「トゥルース」の線引きが難しい。途中で、この記  述を書いた生徒がどれだけの経験や時間をかけてこの文章を書いたのかが聞けて納得した。
・この鑑賞をしていく中で、自分に以外のもう一つの可能性を考えられているのか、人の意見を聞いて自分が変わるのを恐れていないか、という視点をも つことはすごく大事。・ この鑑賞を通して、思考の仕方を学び、それも評価していくことが大切。
・たくさんの人の意見を聞いていて、この鑑賞で客観性を持たせて評価をしていくことがどれだけ難しいか分かってきた。それを、授業者は自覚して評価 しく必要性がある。無自覚にやると恣意的な評価になる危険性がある。評価者は客観性をもちながら、評価をしていくことが大事である。
・評価について、複数で検証していくことはとても有効な手立てではないか。

○最後に…
 皆さんの意見を聞き、教育者として評価をしていくことがどれだけ難しいかを痛切に感じました。初めての鑑賞を終えた中学1年生の女子を紹介し、これだけこの鑑賞の可能性を感じてくれている生徒がいるので、評価は難しいのだけれど、やはりこの鑑賞をやっていこうと考えてもらえると嬉しいです。たくさんの先生方が、評価について一生懸命議論をしてくださるのは、それだけ目の前にいる生徒たちを客観的に正当に評価しようと腐心されている結果だと思いますので、今回提示した評価内容が参観者の評価の仕方を考えるきっかけになり、皆さん独自の評価方法につながっていけば嬉しいです。たくさんご協議くださりありがとうございました。

 その後、参加者一人一人が自分のコミュニケーションのあり方を振り返り、言語化してそれを全員で見て回りました。自分の聴き方・話し方を振り返るとともに、多くの方の学びから学ぶことができました。

○刊行セミナ-を終えて
 たくさんの方の意見を聞きながら、今の発言は何を考えながらの意見なのか、また前後のつながりも考えながら、この場では何が起こっているのか考えながら、一日のプログラムを終える頃には、頭の中は飽和状態に近いのですが、充実した一日になりました。
 最後に私たちのメンバーが言いましたが、一人一人の生徒を思うからこそ、多角的な意見が出たのだと思いました。このセミナーで参加者が求める内容が、多少異なりはしたものの、この対話型鑑賞に可能性を感じる者同士が意見を交換し合えた意味は、とても大きいと感じました。
 副読本の出版に併せてこのようなセミナーが開催され、年度末の慌ただしい時期にも関わらず、北は宮城から南は沖縄まで、日本各地から鑑賞教育に興味・関心を持ち、意欲的に参加してくださった皆さんとともに、今後も「対話」を中心にした鑑賞活動が教育界、美術界でますます盛んになることを願い、新年度もまた心新たに教育活動にまい進したいと思います。最後に、この副読本が再版される運びとなったという吉報をお伝えし、今回のセミナーの報告を終えたいと思います。ありがとうございました。
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