ジョハリの窓のMiruba

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カクテル物語XYZ「〆のカクテルの意味するもの」

2016-06-22 | Weblog



「〆のカクテルの意味するもの」


趣味の教室に通うのは2週間に一回だが、駐車場を探すのが面倒な場所にあった。
幸いなことにバス停のすぐ近くに教室があったので、片道一時間のバス通いをしていた。
車なら40分で済むが仕方がない。
ただ自宅が田舎でもありバスの最終時間はお子様タイムの午後8時半なのだ。
毎回教室が終わるとバスに飛び乗るようにして帰宅していた。

ある日そのバスに乗り遅れてしまった。
タクシーなど使ったら万単位だ。
仕方がない。私は駅前の格安ビジネスホテルを予約して、朝一番のバスで帰宅することにした。
次の朝家に帰って支度しても出社時間には十分間に合う。

さてバスに乗り遅れたとはいえまだお子様タイムの午後9時。
夕飯を兼ねて街中をブラブラと散策する余裕が出来た。
このところずっと忙しかったのでたまにはのんびりするのもいいかもしれない。

バス停の前に居酒屋の多く入る雑居ビルがあった。
何度かサークルの友人たちと食事会をしたことがあるので、その中の一つの店で食事をしようと思った。
エレベーターで居酒屋のある2階に行く。
開いたエレベーターの扉の前に、店から出てきたのかこれから入るのか若い人たちがどっさりと立って居た。
エレベータの中の私を一斉に見る視線にたじろいでしまい、
一人で賑やかな居酒屋に入るのもためらわれ、つい上の階のボタンを押してしまった。

3階は保険会社のようで、本日の営業終わりました、という看板がエレベーターの前に置いてあった。
4階に行ってみる。
数件の店の名前が表示してあったからだ。
2階の喧騒とは打って変わって静寂ともいえる薄暗いフロアーに別な意味でたじろいたが、物は試しとエレベーターを降りてみる。
美味しそうな料理の画像が張られた看板の数店舗を見たが日曜日のその日は閉まっていた。
どうやら近所のサラリーマンやサラリーウーマン相手の店らしい。
その中で一軒だけBARが開いていた。





早すぎるのか、カップルが2組テーブル席にいるだけだった。
このフロアー全体が会社員対象なのだとしたら日曜日は普段からガラガラかもしれない。

カウンター向こうから「いらっしゃいませ」とバリトンの渋い声が聞こえた。
静かにジャズの曲が流れている。
テーブル席の向こうに大きなガラス窓があって、
大通りのカーブを行き来するヘッドライトとテールライトがビルの谷間に見える。
カップルたちは夜景を眺めるよう設置されたラブチェアーに並んで座っていて、
顔を寄せんばかりに小声で話している。

「静かで素敵なお店ですね」とカウンターの20席ほどあるゆったりしたソファーに腰かけながら言った。

「ありがとうございます、土地の人もあまり知らない店なんですよ」
ハリウッディアン髭の粋なマスターが謙遜気味に答える。

空いていたお腹は充実したチーズプレートとオリーブのつまみで満たし、2杯目のギムレットを味わいながら飲んでいた。

そこに常連らしい男性が入ってきた。
見慣れない私が居たので一瞬興味を持ったようだったが、知らないそぶりをする。
それでも20席はあるカウンター席の4、5席置いた意外に近い場所を陣取った。
もっともそこが定席なのかもしれないが。

暫くすると椅子にそっくり返って自慢話が始まった。
マスターはもう何度も聞かされたであろうその話に当たり障りなく相槌を打ちながらいつものお酒を造っている。
常連さんらしい彼はマスターに話しかけながら明らかに私にも聞かせている様子。

笑い話を混ぜながらなかなかの話し上手ではあったので、私もつい_ふっ_と笑ったのが余計に誘い水となった。
調子に乗った彼は益々そっくり返ったり、またカウンターへ身を乗り出しそうにしたりと、
自分がどんなに良い仕事をしているか、有名人との付き合いがあるかをマスターに、そして間接的に私に語る。
「ま、すごいね。エライエライ、あんたは偉い!」と合いの手を入れて差し上げたいが、
それほど親しくはないので、黙って目の前の美味しいカクテルを飲み干す。



しかし私は先ほどから常連の彼の饒舌よりも社会の窓のほうが気になっていた。

そっくりかえったり前のめりになったりするたびにパカパカと閉じたり開いているから余計に気になる。
マスターも何気なく気が付いているよう。
ただ、男性の話が終わらないので声をかけられないでいるのかもしれない。


そろそろ退散時期だと思い「すみませんお会計をお願いします」というと、
常連の彼がマスターにおっしゃった「あちらのご婦人に何か差し上げてくれないか」

私は断ったが「いいや是非に」と何度もおっしゃる。
マスターも困った様子を見せたが、
「お客様、あちらが引き下がりそうにないです、よかったら一杯召し上がってあげてください」と
目がそう言っている・・・気がする。

若くもない女の頑なさは粋ではない、
「では、一杯だけ、ごちそうになります」と、またソファーに掛けなおす。

「ええ、是非ご馳走させてください。よかった」と常連の彼は満足げだ。

マスターもホッとした顔をして「何になさいますか?」と私に聞いた。


「そうですね」私はちょっと考えて言った。

「・・ではXYZをお願いします」

マスターは「はい、かしこまりました」と
笑いをこらえているのを悟られないよう渋い顔をしてギュッと口を結んだ。





「エクスワイジーですか?どのようなカクテルなのかな?」とご馳走してくださる彼が問うので、
「<これが最後のカクテル>とか<究極のカクテル>という意味のようですよ」と答えた。


実は、<あなたの社会の窓調べてね>という意味もある、とは言わないでおいた。
ちょっとかわいそうだけれど、私から指摘されるよりいいだろう。


視線を落とさないようにしながら少しお話をして私は席を立った。
時にはこの町の夜も楽しいな、と思いながら。














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XYZエクス・ワイ・ジー

【ラム・ベース】27度・中口

さっぱりとしたレモン風味。
食欲がそそられる食前酒としてベストのカクテルといえるでしょう。

ネーミングの由来は、アルファベットの最後の3つXYZ、
「これ以上のものは無い」と言う意味または
「今日はこれで終わり」と寝酒に飲むカクテル、など諸説あるようです。

また「eXamine Your Zipper」のXYZという言い方は社会の窓が・・という別の意味ですので悪しからず。

カクテルのXYZはやや甘めのラムに、爽やかなレモンジュースの酸味と
甘く苦いコアントローが溶け合う飲み口の良さで人気があります。



ライト・ラム・・・・40ml
コンアントロー・・・10ml
レモン・ジュース・・10ml

シェークしてカクテルグラスに注ぐ。

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