保健福祉の現場から

感じるままに

対策型と任意型のがん検診

2016年02月26日 | Weblog
Medical Tribune「住民検診として「推奨」でも,国は「推奨しない」?? 第2回健康診査等専門委員会」(https://medical-tribune.co.jp/news/2016/0225050025/)。<以下引用>
<「自治体にあるPSA検診の推奨ポスターを見て,自分もそろそろ受けた方がいいと思っていた。今,"厚労省は推奨していない"と聞いて戸惑っている」―2月19日,厚生労働省で開かれた第2回健康診査等専門委員会(委員長=東北大学公衆衛生学分野教授・辻一郎氏)でのひとコマだ。大阪大学環境医学教授の祖父江友孝氏によるがん検診の有効性評価に関する解説を聞いた有識者委員が同氏らに詳しい説明を求めた。委員は「住民検診のポスターは厚労省がつくっていると思っていた」とも。いったい,どういうことだろうか?? 祖父江氏によると,がん検診の目的は一般に「がんの早期発見で,がん死亡を防ぐこと」。がん検診の政策導入に当たっては,国際的に標準化された手法に基づく過程が完成していると述べた。こうした手法に基づき,厚労省が現在,「検診によるがん死亡の減少が確実」として推進する対策型検診は①胃がん(胃部X線など)②子宮がん(細胞診など)③肺がん(胸部X線など)④乳がん(マンモグラフィなど)⑤大腸がん(便潜血検査)―の5つ。ただし,これは健康増進法に基づく市町村事業にのみ拘束力を持つもので,職域のがん検診や人間ドックなどは対象とならない。がん検診の評価で重要な項目としては,がん死亡の減少を含む「利益」の他,①偽陰性者の治療遅延②偽陽性者への不要な検査③検診に伴う合併症④寿命に比べ意味のないがんの診断治療(広義の過剰診断)がある―と同氏。特に④は,①~③に見られる「どこかで誤った判断が関与している」のと違い,「亡くなるまでには症状が発現しないがんを検診で発見することにより,早期発見と治療が行われ"良かった"となり,全く間違いはない。ただし,結果的にはどうかということ」と説明する。こうした過剰診断が起こる要因として「余命がある程度限定的」「がんの滞在時間が非常に長い」ことがあると指摘した。個々のがんが過剰診断かどうかを判断するのはほぼ不可能だが,集団においては罹患率が期待以上に増え,不要な精密検査や治療の負担が増える。実際に過剰診断が問題となった例として同氏は米国では1990年代に前立腺がん罹患率が,韓国では女性の甲状腺がんの罹患率だけが2006~12年ごろにかけて急激に上昇したことを紹介。「米国では同じ時期にPSA検診が広く普及したこと,韓国では乳がん検診と同じプローブを用いた甲状腺検診が普及したことがその要因と考えられている」と同氏。韓国の場合,専門家らが超音波検査による甲状腺がん検診を行わないよう推奨し,その後甲状腺がんの手術件数が減少したと述べた。厚労省「自治体事業の検診として推奨せず」,学会「住民検診を推奨」 祖父江氏は市町村事業として行われる対策型検診だけでなく,それ以外の任意型検診についても利益と不利益のバランスに基づく実施の判断が重要と指摘。日本のがん検診の課題について「不利益の部分の情報が非常に不足しており,サービスとしてのバランス決定の論理も未成熟」と指摘。さらに受診率が低いだけでなく,市町村や職域,医療機関での検診受診率を包括的に評価できるシステムがない,対象年齢の範囲が示されていない,検診間隔の検討が十分に行われていないといった問題もあると話した。同氏の説明を受け,ある委員からは「職域での検診の場合,侵襲を伴う検査よりも腫瘍マーカーを優先してしまい,後で余分な精密検査が必要になっているケースもある。不利益の情報がより明確になった方がそうした問題が生じにくくなるかもしれない」といった意見も出された。別の委員からは「自治体にはPSA検診のポスターが掲示されているが,厚労省は対策型検診として推奨していないと聞き,戸惑っている。どう捉えればよいのか」との質問も出された。同氏は「現在の同学会の立場を確認しているわけではない」と前置きした上で,米国での動きを参考情報として紹介。それによると,政府の諮問委員会(米国予防医療サービス対策委員会;USPSTF)が2012年,PSA検診を「不利益が利益を上回るので推奨しない」と表明。当時,50歳以上の男性の多くが同検診を受けている状態だったため,大きな議論が巻き起こった。しかし,その後,米国泌尿器科学会(AUA)などはUSPSTFの推奨に沿ったガイドラインを出すなど「かなり抑制的な対応が取られた」(同氏)。現在,米国では「50歳代,60歳代は医療従事者と相談して判断すること,50歳以下や70歳以上には推奨されていない」と話す。日本では,厚労省研究班がPSA検診を対策型検診として「推奨しない」との見解を示すのに対し,日本泌尿器科学会は2011年時点の見解で「住民検診として 50歳以上からの受診」を推奨。学会と厚労省で立場が異なっている。同氏は「日本ではかなりの割合の市町村が独自の事業でPSA検診を行っている」と指摘。「実施に当たっては十分な情報を得た上で判断して頂きたい」と述べた。厚労省事務局は「PSA検診は,今のところ推奨していない。昨年(2015年)12月に取りまとめた"がん対策加速化プラン"では,一部の自治体で厚労省の指針に基づかないがん検診が行われている実情を踏まえ,推奨する対策型検診だけでなく,"推奨しない"検診にも言及するなどの提言が盛り込まれている」と応じた。>

健康診査等専門委員会(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=311909)で「がん検診の考え方」(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000104585_3.pdf)が出ている。「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」(http://canscreen.ncc.go.jp/)もあるが、がん検診ハンドブック(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan_kenshin04.pdf)p5で解説される「任意型検診」のがん検診もあることは認識したい。がん検診のあり方に関する検討会(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou.html?tid=128563)の資料「平成27年度市区町村におけるがん検診の実施状況調査集計結果」(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000112904.pdf)p13「その他のがんの検診の実施状況」、p6~「検診項目」をみれば、胃がん検診(ペプシノゲン法、ヘリコバクター・ピロリ菌抗体検査)、肺がん検診(胸部CT検査)、大腸がん検診(内視鏡検査)、乳がん検診(超音波検査)、子宮頸がん検診(HPV検査)をみれば、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年2月)」(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000112895.pdf)にはない「がん検診」が普遍的に実施されていることがわかる。一口に「がん」といっても様々なものがあることを認識すべきであろう。例えば、甲状腺がんは特殊検査でかなり発見されやすいがん(http://www.pet-toyama.jp/seiseki.htm)である。前立腺がんにもラテントがん(生前、検査や診察などでがんが見つからず、死後の解剖により初めて確認されるがん)がある(http://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/)。報道にある米国や韓国の経験も参考になるかもしれない。一部自治体では、PETによるがん検診が行われているが、日本核医学会(http://www.jsnm.org/)からの一般向け「PET検査Q&A改訂第4版」(http://www.jsnm.org/system/files/petkensa%20q_and_a_2015.pdf)Q12「PET検査でわからないがん」(早期胃癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌)、Q14「PET検査の弱点」(乳癌・前立腺癌の骨転移、肝臓癌・腎臓癌等)、Q15「PET検査の被ばく」ではPET/CTの被ばく「PET検査3.5mSv+CT検査5~14mSv程度」とあることを認識したい。なお、「PET検査Q&A改訂第4版」(http://www.jsnm.org/system/files/petkensa%20q_and_a_2015.pdf)のQ6「PET検査の健康保険適用」、Q7「脳のPET検査」、Q8「心臓のPET検査」にあるように、PET検査は「がん」だけではないことは常識としたい。以前の日米投資イニシアティブ報告書(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/n_america/us/data/0606nitibei1.pdf)p10「米国政府は、日本では血液検査の外部委託により、かなりの効率化が図られたことを指摘した上で、リスクの低い医療行為、特にMRIやPET、CTスキャン等反復性のある医療行為については、株式会社に柔軟に外部委託できるよう要請した。」とあったが、血液検査の外部委託と違って、PET検査は実施施設に患者が検査を受けに行かなければならない。しかも、薬剤の筋肉への生理的な集積があるため検査前には身体をあまり動かせないという制限がある(http://tsukuba.adic.or.jp/scan/01-2_pet-attention.html)。また、現在、医療法人は医療法(http://www.ron.gr.jp/law/law/iryouhou.htm)第54条で剰余金の配当が禁じられていることは認識しておきたい。
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