読売新聞「「食べられる口」を作るため、訪問歯科医師との連携を(2)」(https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161122-OYTET50025/)。<以下引用>
<私は以前、長期療養型の病院で働いていたことがありましたが、その間に歯科医師と連携して患者さんの栄養管理をしたことは一度もありませんでした。たとえ患者さんに口腔内のトラブルがあっても、病院の食事を食べやすく調整して提供できていたからです。しかし、「あの患者さん、もう少し咀嚼がしっかりできれば、普通のおかず(常食)が食べられるのになぁ」と感じながら、ご本人の意に沿わなくても、やむを得ずおかずをミキサーにかけて提供することがありました。そんなときは患者さんの希望通りにはいかず、もやもやが残ったことを今でも覚えています。また、入院中は病気の治療が最優先で、「口の中をしっかりケアする」という意識が不足していたと、今では思います。高齢者施設では、2015年度の介護保険制度の改正によって「経口維持加算」という制度が始まりました。これは「口腔機能や咀嚼機能を重視し、その機能を改善・把握したうえで栄養管理を行うこと、またその歯科と栄養をはじめとした多職種協働のプロセスを評価する」というものです。「食べられる口」を作る歯科医師と、「食べものの形と栄養量」を考える管理栄養士が連携する、画期的な制度が始まったのです。いつも私がお世話になっている訪問歯科医師のY先生は、冬場は白衣の上にバイク用のライダージャケットを羽織って登場する、一風変わった方です。先生が初めて訪問診療をしたのは、近所に住む高齢の男性だったそうです。治療をそばで見ていたお孫さんは、今は歯科衛生士さんになって活躍しています。きっと、困っている人の自宅に出向いて、トラブルを解決してあげるY先生がヒーローに見えたのでしょうね。そんなY先生が老人保健施設へ歯科往診に行く際に、私も同行させていただきました。診療に必要な機材などの大きな荷物を車に積み、いざ出発。施設では、車いすの女性患者さんと一緒に、施設の看護師と管理栄養士が待機していました。患者さんは、下の前歯が欠けていて、そこに舌が当たると痛そうでした。食べ物が歯の欠けたくぼみに引っかかると気になってしまうようで、食事にも時間がかかります。私は、Y先生から「治療箇所にライトを当てるように」という指示に従って、ペンライトを手に患者さんに向き合うことになりました。急に歯科助手になったような気持ちです。私たちが歯科医院で治療を受けるときは、リクライニングのいすに座ると目の前に眩しいライトが下りてきますね。訪問治療ではそうはいきません。患者さんの状況や姿勢に合わせて、治療をする側が体勢を変えるなどの対応が必要です。Y先生は小さなプラスチックの板のようなものを欠けた前歯にあて、白い液体をくぼみに流していきます。ひとつひとつの動きが早く、あっというまに下の歯が元通りに。この治療は「レジン充填」と呼び、歯の欠けた部分に歯科用のプラスチックを詰めるという、一般的な歯科治療のひとつです。私は、まるで職場体験の中学生になったような気分で、まじまじとその様子を見て感心してしまいました。ペンライトを持つ手にも力が入ります。治療が終わると女性は手鏡で元通りになった前歯を見ると、にっこりと笑顔を見せてくれました。前歯には、食べ物をかじりとるという、大切な役割があります。食べ物をすりつぶす奥歯も大切ですが、前歯がしっかり機能していないと食べ物を一口大の大きさに切って提供するなどの調理や盛り付けの工夫が必要です。介護保険の「経口維持加算」では「月1回以上、医師、歯科医師、管理栄養士、看護職員、言語聴覚士、介護支援専門員とその他の職種が共同して、入所者の栄養管理をするための食事の観察及び会議を行う」との決まりがあります。これを「ミールラウンド」と呼び、複数の専門家が患者さんの食事の様子を観察することで、それぞれの専門的な視点から問題意識を共有することができます。この取り組みは、ようやく高齢者施設で走り出したばかりで、在宅医療の現場ではまだ一般的ではありません。患者さんに咀嚼力の低下や嚥下(飲み込み)障害があって、退院時のサマリー(情報提供書)などに「嚥下障害あり」との記載があっても、実際にそれぞれの専門職が一緒に食の支援をできることは稀です。しかし、「いつまでも口から美味しく食べたい」と願う人には、いつでも多職種による「在宅食支援チーム」が入れるよう、地道に地域のネットワークを広げていきたいと思います。>
3年ごとに全国の市町村が実施している「日常生活圏域ニーズ調査」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-1.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-2.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138618.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138620.pdf)をみれば、介護保険を利用していない一般の高齢者でも口腔機能低下ニーズが非常に高いことがわかる。「摂食嚥下関連医療資源マップ」(http://www.swallowing.link/)には介護食対応レストラン(http://azumao.maps.arcgis.com/home/webmap/viewer.html?webmap=3bdb7f1ca2254aacafed706d8aaf8a6c)も出ているが、まずは、それぞれの地域において、咀嚼力低下や嚥下力低下に関する専門相談窓口の設置が不可欠であろう。以前の厚労省資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000039686.pdf)p169国庫補助事業「口腔保健推進事業;ア)口腔保健支援センター設置推進事業、イ)歯科保健医療サービス提供困難者への歯科保健医療推進事業、ウ)障害者等歯科医療技術者養成事業、エ)医科・歯科連携等調査実証事業」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/shikakoukuuhoken/dl/20130404_01.pdf)があり、特に「医科・歯科連携等調査実証事業」は「医科・歯科の関係者等により構成される連携協議会を設置し、地域の実情を踏まえた普及及び連携の実践に取り組む」とあったが、どうなっているであろうか。なお、医療施設調査(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1.html)の歯科診療所票(http://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/dl/iryoushisetu/H26_seitai_shika.pdf)では在宅医療サービスの実績が詳細に把握されていることは常識としたい。歯科医師過剰問題(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%AF%E7%A7%91%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E9%81%8E%E5%89%B0%E5%95%8F%E9%A1%8C)が指摘されるが、ニーズにきちんと対応できていないように感じる。行政施策を進めるためには、例えば、①国庫補助事業「口腔保健推進事業;ア)口腔保健支援センター設置推進事業、イ)歯科保健医療サービス提供困難者への歯科保健医療推進事業、ウ)障害者等歯科医療技術者養成事業、エ)医科・歯科連携等調査実証事業」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/shikakoukuuhoken/dl/20130404_01.pdf)の取り組み自治体マップのネット公開、②地域包括ケア「見える化」システム(http://mieruka.mhlw.go.jp/)による「日常生活圏域ニーズ調査」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-1.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-2.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138618.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138620.pdf)の口腔機能低下割合の公表、③厚労省の介護事業所・生活関連情報検索(http://www.kaigokensaku.jp/)における「経口維持加算」「経口移行加算」「口腔衛生管理体制加算」「口腔衛生管理加算」「口腔機能向上加算」(https://www.jdha.or.jp/pdf/h27kaigohousyu_kaitei.pdf)の算定施設の公表などが期待される。
<私は以前、長期療養型の病院で働いていたことがありましたが、その間に歯科医師と連携して患者さんの栄養管理をしたことは一度もありませんでした。たとえ患者さんに口腔内のトラブルがあっても、病院の食事を食べやすく調整して提供できていたからです。しかし、「あの患者さん、もう少し咀嚼がしっかりできれば、普通のおかず(常食)が食べられるのになぁ」と感じながら、ご本人の意に沿わなくても、やむを得ずおかずをミキサーにかけて提供することがありました。そんなときは患者さんの希望通りにはいかず、もやもやが残ったことを今でも覚えています。また、入院中は病気の治療が最優先で、「口の中をしっかりケアする」という意識が不足していたと、今では思います。高齢者施設では、2015年度の介護保険制度の改正によって「経口維持加算」という制度が始まりました。これは「口腔機能や咀嚼機能を重視し、その機能を改善・把握したうえで栄養管理を行うこと、またその歯科と栄養をはじめとした多職種協働のプロセスを評価する」というものです。「食べられる口」を作る歯科医師と、「食べものの形と栄養量」を考える管理栄養士が連携する、画期的な制度が始まったのです。いつも私がお世話になっている訪問歯科医師のY先生は、冬場は白衣の上にバイク用のライダージャケットを羽織って登場する、一風変わった方です。先生が初めて訪問診療をしたのは、近所に住む高齢の男性だったそうです。治療をそばで見ていたお孫さんは、今は歯科衛生士さんになって活躍しています。きっと、困っている人の自宅に出向いて、トラブルを解決してあげるY先生がヒーローに見えたのでしょうね。そんなY先生が老人保健施設へ歯科往診に行く際に、私も同行させていただきました。診療に必要な機材などの大きな荷物を車に積み、いざ出発。施設では、車いすの女性患者さんと一緒に、施設の看護師と管理栄養士が待機していました。患者さんは、下の前歯が欠けていて、そこに舌が当たると痛そうでした。食べ物が歯の欠けたくぼみに引っかかると気になってしまうようで、食事にも時間がかかります。私は、Y先生から「治療箇所にライトを当てるように」という指示に従って、ペンライトを手に患者さんに向き合うことになりました。急に歯科助手になったような気持ちです。私たちが歯科医院で治療を受けるときは、リクライニングのいすに座ると目の前に眩しいライトが下りてきますね。訪問治療ではそうはいきません。患者さんの状況や姿勢に合わせて、治療をする側が体勢を変えるなどの対応が必要です。Y先生は小さなプラスチックの板のようなものを欠けた前歯にあて、白い液体をくぼみに流していきます。ひとつひとつの動きが早く、あっというまに下の歯が元通りに。この治療は「レジン充填」と呼び、歯の欠けた部分に歯科用のプラスチックを詰めるという、一般的な歯科治療のひとつです。私は、まるで職場体験の中学生になったような気分で、まじまじとその様子を見て感心してしまいました。ペンライトを持つ手にも力が入ります。治療が終わると女性は手鏡で元通りになった前歯を見ると、にっこりと笑顔を見せてくれました。前歯には、食べ物をかじりとるという、大切な役割があります。食べ物をすりつぶす奥歯も大切ですが、前歯がしっかり機能していないと食べ物を一口大の大きさに切って提供するなどの調理や盛り付けの工夫が必要です。介護保険の「経口維持加算」では「月1回以上、医師、歯科医師、管理栄養士、看護職員、言語聴覚士、介護支援専門員とその他の職種が共同して、入所者の栄養管理をするための食事の観察及び会議を行う」との決まりがあります。これを「ミールラウンド」と呼び、複数の専門家が患者さんの食事の様子を観察することで、それぞれの専門的な視点から問題意識を共有することができます。この取り組みは、ようやく高齢者施設で走り出したばかりで、在宅医療の現場ではまだ一般的ではありません。患者さんに咀嚼力の低下や嚥下(飲み込み)障害があって、退院時のサマリー(情報提供書)などに「嚥下障害あり」との記載があっても、実際にそれぞれの専門職が一緒に食の支援をできることは稀です。しかし、「いつまでも口から美味しく食べたい」と願う人には、いつでも多職種による「在宅食支援チーム」が入れるよう、地道に地域のネットワークを広げていきたいと思います。>
3年ごとに全国の市町村が実施している「日常生活圏域ニーズ調査」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-1.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-2.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138618.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138620.pdf)をみれば、介護保険を利用していない一般の高齢者でも口腔機能低下ニーズが非常に高いことがわかる。「摂食嚥下関連医療資源マップ」(http://www.swallowing.link/)には介護食対応レストラン(http://azumao.maps.arcgis.com/home/webmap/viewer.html?webmap=3bdb7f1ca2254aacafed706d8aaf8a6c)も出ているが、まずは、それぞれの地域において、咀嚼力低下や嚥下力低下に関する専門相談窓口の設置が不可欠であろう。以前の厚労省資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000039686.pdf)p169国庫補助事業「口腔保健推進事業;ア)口腔保健支援センター設置推進事業、イ)歯科保健医療サービス提供困難者への歯科保健医療推進事業、ウ)障害者等歯科医療技術者養成事業、エ)医科・歯科連携等調査実証事業」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/shikakoukuuhoken/dl/20130404_01.pdf)があり、特に「医科・歯科連携等調査実証事業」は「医科・歯科の関係者等により構成される連携協議会を設置し、地域の実情を踏まえた普及及び連携の実践に取り組む」とあったが、どうなっているであろうか。なお、医療施設調査(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1.html)の歯科診療所票(http://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/dl/iryoushisetu/H26_seitai_shika.pdf)では在宅医療サービスの実績が詳細に把握されていることは常識としたい。歯科医師過剰問題(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%AF%E7%A7%91%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E9%81%8E%E5%89%B0%E5%95%8F%E9%A1%8C)が指摘されるが、ニーズにきちんと対応できていないように感じる。行政施策を進めるためには、例えば、①国庫補助事業「口腔保健推進事業;ア)口腔保健支援センター設置推進事業、イ)歯科保健医療サービス提供困難者への歯科保健医療推進事業、ウ)障害者等歯科医療技術者養成事業、エ)医科・歯科連携等調査実証事業」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/shikakoukuuhoken/dl/20130404_01.pdf)の取り組み自治体マップのネット公開、②地域包括ケア「見える化」システム(http://mieruka.mhlw.go.jp/)による「日常生活圏域ニーズ調査」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-1.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/osirase/hokenjigyou/06/dl/s1-2.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138618.pdf)(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000138620.pdf)の口腔機能低下割合の公表、③厚労省の介護事業所・生活関連情報検索(http://www.kaigokensaku.jp/)における「経口維持加算」「経口移行加算」「口腔衛生管理体制加算」「口腔衛生管理加算」「口腔機能向上加算」(https://www.jdha.or.jp/pdf/h27kaigohousyu_kaitei.pdf)の算定施設の公表などが期待される。