みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編物語集     頑爺<肇&K>

森の力Go Go!(3)

2020-06-03 | 第22話(森の力Go Go)

 箕面の森の小さな物語

<森の力 Go Go !>(3)

  英和は渋滞で動けない高速道上から、次々と電話を入れていた。

やっと石田さんとケイタイがつながり、桜谷で昼前に二人に出会ったことを知った。 しかし その後の事は分からない?  見れば、北の箕面方面は真っ黒い雲に覆われ、時々稲光が見える・・  嵐だ!

 英和は数年前、瞳と相談して箕面北部の止々呂美(とどろみ)の山中に300坪程の土地を購入していた。 賢治の為にも、いずれ山の中で生活する事を望んでいた。 何といっても賢治が周囲に迷惑をかけることなく、本人自身が一番好きな森の中で、あのキンダーガーデンでのように、伸び伸びと遊び暮らせる事が何よりと考えたからだった。

  それにもう一つ、賢治には夢中になれるこだわりのものがあった。 それは5歳の時、障害児の美術指導をしてくれていた絵の先生に個人指導を仰ぎ、その後めきめきと個性を発揮してきた事だった。 そこで家の3帖ほどの物置部屋を改造し、特別の壁紙を貼り、その中で自由に絵を描かせた。賢治はそれが気に入ったのか、毎日遅くまでその部屋にこもり、あれこれと壁面いっぱいに黙々と絵を描いていた。

  そして8歳の時、絵の先生の薦めもあり、一枚をイタリアの障害者国際美術展に出品したことがあった。 それがユニークな絵として審査員特別賞を受賞したのだ。 箕面の森の中で体験した自分の心のうちを素直に絵に表現したものとして高く評価されたようだ。  それ以来、毎年出品するようになり、いつも何らかの賞を受け、昨年は初めて銅賞を受けた。  これから銀賞、金賞、グランプリと一歩一歩目指す目標があった。 それだけに森の中に家を建てたら、賢治の絵の部屋をちゃんと作ってやろうと夫婦で話し合っていた。

 それに瞳も、そんな賢治の横で一緒になって絵を描いてきたので、今では本格的に道具を揃え描き出していた。 だから新しい家をつくったら、賢治の部屋の横に瞳のアトリエも作ろうと話していた。 英和は退職したら、その新しい家で好きな陶芸をやりたいと思っていた。 その焼き釜を設ける為にも、山の中は適している・・ と 夢を描いていたのだが・・

  やっと前方の車が動き出し、英和はふっと我に返った。 阪神高速・池田線に入ると、アクセルを全開に踏み込んだ。  強い雨がフロントガラスを激しくたたきつける。 「瞳は 賢治は 大丈夫か・・?」 その頃、英和から電話を受けた友達の石田さんらは、支援学校の連絡網を使い、雨の中を箕面駅に集合していた。 「ケンちゃんらに何かあったに違いないわ・・」

 嵐のような激しい通り雨が一段落し、薄日がさしてきた頃・・ 滝道の「一の橋」前で、急に若い女性らが悲鳴をあげた。

 キャー  キャー 近くの店の人が頭を上げ、叫び声の方を振り向いた・・ 「あれ!? あれは あの子は それに・・ あああ・・」

  5分後、店の人の119番通報により、近くにある箕面市消防本部救急車が、サイレンを鳴らしながら急いで瀧道を上がってきた。 石田さんら5人の友人達は 「きっとケンちゃんらに何かあったんだわ・・」と、胸を締め付けられる思いで、救急車の後を追った。

 英和は箕面駅前ロータリーに着くと、ロックもせずに車から飛び出した・・ 救急車が目の前を上っていく・・ 「何があったんだ? 瞳は? 賢治は? 大丈夫か?」  胸騒ぎが現実に目の前で起こっていた。  それぞれの思いで「一の橋」前に停まっている救急車にたどり着いた時、皆は目を疑った。

  あのケンちゃんが、ぐったりしたお母さんを背負ったまま、今にも崩れ落ちそうになりながらも必死に立っている・・ 二人とも全身泥だらけの格好で、服からその泥水がしたたり落ちている。

  救急隊員が意識の無い母親を担架に乗せようと、賢治の背中から離そうとしているが、賢治はしっかりと母親をつかんだまま離そうとしない。  3人がかりで「早く 早く 手を離して・・ 早く」と急き立てるが、賢治は益々力強く母親を離そうとしないでいた。 その時・・

「ケン ケン ケンちゃん お父さんだよ ケン まさかお前が・・ ケン お母さんはお父さんが・・ 大丈夫だ ケン すごいぞ!

  賢治は走ってきたお父さんの姿をみるや初めて手を緩めた。 そして涙が次々とあふれるままお父さんにしがみついた・・ 「よし よし よく頑張ったな もう大丈夫だぞ ケン すごいぞ   それにしても すごい・・ ケン ケンちゃん お母さんを ありがとう!」  英和は賢治をしっかり抱いたまま泣き崩れた。  やがて救急車は3人を乗せ箕面市立病院の救命・救急センターへとサイレンを響かせた。

  長時間に及ぶ緊急手術の後、医師からは・・ 「後30分も遅かったら、命が無かったかもしれません・・ 大変危険な状態でした。 息子さんの大手柄ですよ・・」と言った。

  それにしても どうやって?  どうやってあの広い森の中で母親を探しだしたのか・・?  この奇跡はどうやって成就したのか・・?  それにあのドシャブリの嵐の中で母親を背負い、あの森の長い山道をどうやって下ってくる事ができたのか? どうやって どうやって・・・?

 関係者全員が、ただ首を傾げるばかりだった。しかし 何も喋らない賢治に、周りの皆はただうなづいた。

 森の持つ不思議な力だ! と。

  数日後、瞳の意識が回復し、面会を許された賢治は、父親と共に病院を訪ねた。  病室の北側の窓からは、箕面の森が一望できる。 「あのケンちゃんが、私の命を救ってくれたなんて・・」 瞳は、嬉しさと感謝以上に、息子の成長振りにポロポロと涙を流しながら賢治をしっかりと抱きしめた。

「ありがとうね ケンちゃん ありがとう・・」

 英和はこれを機に早期退職を決めていた。 そしてあの止々呂美の森の中に、新しい3人の家を建てる事をすでに瞳と話していた。 何度も何度も母親に抱きしめられるたびに、賢治は誇らしげな顔をして

ゴーゴー ゴー ゴーゴー と 母親との合言葉の声をあげ、周りのみんなを笑わせた。

 病室には、古代ギリシャの医学者 ピポクラテスの言葉があった。

「自然は全ての病を癒す」

 箕面の森が太陽に光り輝いていた。

(完)   


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