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野球の本を読む月間。〈その2〉

2015年07月23日 | 映画(番外編:映画と読み物)
続いて、広尾晃の『プロ野球解説者を解説する』。
著者は“野球の記録で話したい”というブログを開設するライターだそうです。
“草創期のプロ野球解説者たち”、“「プロ野球ニュース」が変えた野球解説者”、
“大リーグ放送が始まり、野球解説の視野が広がり、深まった”、
“新時代のプロ野球解説者たち”、プロ野球解説者の「現場”」、
“「私は解説者に育てていただきました」”の6章で構成されています。
それぞれの時代の解説者の解説ぶりについて書かれ、それなりの楽しさ。

私が好きだったのは、鶴岡一人氏の話です。
解説者になるときに鶴岡氏が立てた方針は3つ。
「結果論は言わない」、「批評とは人を励ますことである」、「チームの財産である選手を傷つけない」。
そんな鶴岡氏ではありますが、愛弟子だった広瀬叔功選手が出場する試合を解説した折りに、
理解不能な守備位置を取っていた広瀬選手を見て、
「広瀬は何をしとるんでしょうね、あんなところを守って」と、つい言ってしまったのだそうな。

野茂英雄と古田敦也のダブル解説のさいの、あんたら茶の間で観とるんかい!と
思わずツッコミを入れたくなりそうな会話も可笑しいし、
もちろん福本豊の「タコ焼きみたいやな」の話も。
このタコ焼き解説をリアルタイムで聞いていた私としては、なかば飽き飽き。
だって、もっとおもろい福本の解説、いっぱいあるもん。

堂場瞬一のスポーツ小説コレクションをもう1冊。
『20[ニジュウ]』というその小説は、設定が凄い。
歴史あるプロ野球チーム“スターズ”に入団した有原。
かつては人気と実力を誇るチームだったが、低迷を極めて売却が決定。
来期にはオーナーが替わり、首脳陣も一新されてしまうのです。
今のメンバーでは最後になるだろう本拠地での試合で、先発を任されたのは有原。
高卒ルーキー、プロ初先発の彼は、なんと8回終了までノーヒットノーラン。
スターズが1点リードして迎えた9回、このわずか1回の20球について、
350頁をかけて描かれるのですから、なんと面白い。

20球を1球ずつ、20人から見た1球毎に描いています。
有原本人、それを受ける捕手、守る野手、有原に対する打者。
両チーム監督に高校時代の監督、現オーナー、新オーナー、
球場のビールの売り子、新聞記者と、さまざまな立場の者にとっての1球。
上記の『プロ野球解説者を解説する』を読んだあとだから、
これは誰タイプかななどと解説にも興味を惹かれます。

球は速いけれど、制球力皆無の有原は、四球か三振か。
投球のリズムが悪くて、守備についている野手は辟易。
あり得ないほど汚いスコアブックで、
もしも達成されれば史上最低のノーヒットノーラン劇になるだろう、そんな試合。

「野球は、人の心や生き様を変えることもあるんだぜ。
お前の今の一球で、人生が変わったと感じた人間は、俺以外にも何人もいるはずだ」。
この台詞に、伊坂幸太郎の『あるキング』を思い出しました。

もういっちょ続く。

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