夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ファントム・スレッド』

2018年06月11日 | 映画(は行)
『ファントム・スレッド』(原題:Phantom Thread)
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス,レスリー・マンヴィル,ヴィッキー・クリープス,
   カミーラ・ラザフォード,ジーナ・マッキー,ブライアン・グリーソン他

ダンナ出張中の羽伸ばし期間もあと1日という日になり、
3月の出張中にも一緒に豪遊した姉さんにまたまたおつきあいいただき、
午後に映画を観てから食事する約束をしました。
姉さんと会うまでに2本観るぐらいの時間があったのですが、なにぶんこの週は遊びすぎ。
かなり疲れが溜まっているから、無理はしないことに。
っちゅうても、1本も観ないのは嫌だから、1本厳選して本作を。

梅田となんばで上映中、姉さんとの待ち合わせは梅田だから、
どう考えても梅田で観るほうがよかったんですけれど、上映開始時間が梅田は早くて。
梅田の上映時間に間に合うように家を出るのはキツイうえに、
そうすると2本観る時間ができて、1本だけはもったいないと思ってしまいそう。
家を早く出るのと、若干遠いなんばパークスシネマまで行くのと、
どちらを選択するか迷って、後者にしました。

映画を多少観る人なら皆ご存じのことかと思いますが、
監督にはポール・アンダーソンという人がふたりいて、
一般的に「エエほうのポール・アンダーソンアカンほうのポール・アンダーソン」と呼び分けられています。
これは「エエほう」のポール・トーマス・アンダーソン監督の作品。

ポール・トーマス・アンダーソン監督がブレイクしたのは『ブギーナイツ』(1997)。
そのときはポルノ男優『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)では石油王、
『ザ・マスター』(2012)では新興宗教の教祖を描きました。
作品ごとに異なる時代を取り上げるのが特徴ながら、
いずれの作品においてもその完璧主義ぶりが話題に。
今回はそんな監督自身の実体験がモチーフになっているそうです。う~ん、変人だぁ。

1950年代、ロンドンの上流階級に多くの顧客を持つ、
オートクチュールのデザイナー、レイノルズ・ウッドコック。
彼が信用しているのは姉のシリルのみ。
店の切り盛りをシリルに任せ、彼自身は服作りに集中。

完璧主義者でかつ独身主義者でもあるが、ハンサムな彼は女性にモテモテ。
彼のデザインにインスピレーションを与える女性を住まわせ、
飽きればシリルが手切れ金代わりのドレスを与えて邸から追い出す。
そんなことの繰り返し。

ある日、田舎の別荘に向かう途中に立ち寄った食堂で、
レイノルズは若いウェイトレスのアルマに目を奪われる。
彼にとって「完璧な体型」のアルマを新しいミューズとし、邸に連れ帰る。

体型に自信がなかったアルマは、レイノルズに見初められたことに興奮。
彼の創作意欲をかき立てる自分を最初は素直に喜ぶが、
単なるミューズとしての自分の存在に次第に疑問を持ちはじめ……。

すべて本作のために作られたという衣装。素晴らしい。
それと音楽。優雅なことこのうえなく、これまた素晴らしいんです。
登場人物たちも一見優雅ではあるのですが、み~んな変。

朝起きたら、鼻毛と耳毛もきちんとカット、みだしなみに寸分の乱れもないレイノルズ。
マザコンかシスコンか、その両方か。
母親の写真を服の芯地に縫い付けて肌身離さず持っていて、それを誇らしげに語る。
別荘に連れていかれていきなり服を脱ぐように命じられたと思ったら、
そこに姉が現れて採寸開始。ちょっと笑ってしまう光景です。

そんな変人と共に暮らすんだから、アルマが気の毒に見えるのが普通だけれど、
このアルマがまた簡単に引くような人間ではない。実にしたたか。
誰にも感情移入がしづらいなか、アルマよりはレイノルズの気持ちのほうがわかったりして。
たぶん、こういう生活を異常だとわかりながら続けているシリルがいちばんまとも。

“Phantom Thread”とは「幽霊の縫い糸」。面白いタイトルです。
“Woodcock”という名前にしても、ヤマシギ(=鳥)の意味はあるものの、
たぶん「木製のアソコ」のほうを想像させるべく付けた名前ですよね。
『Mr.ウッドコック 史上最悪の体育教師』(2007)なんて映画もありましたが、
ブラックユーモアに満ちた作品でしたし、この名前も監督の冗談でしょう。

仕事のことしか頭にない男性にモノのように扱われる女性がどう出るか。
彼を振り向かせるには、彼に病気になってもらうしかない。
彼もそれを受け入れるなんて、到底理解しがたく狂っています。こりゃもうホラー。
めちゃくちゃ面白かった。けど、人にはよう薦めません。(^^;

レイノルズ役のダニエル・デイ=ルイスは本作をもって俳優業を引退するとのこと。
快演を見せつづけてきた彼の、これは最後の作品にふさわしい。

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