時事解説「ディストピア」

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歴史教育の限界(書評『向かいあう日本と韓国・朝鮮の歴史 近現代編』)

2015-06-16 21:10:36 | 北朝鮮
戦後70周年を記念して発刊されたであろう本。

結論から述べると、あまり良い出来ではなかった。
悪い点を列挙すると、次のようになる



①編者に北朝鮮の教育者がいない。

題名こそ日本・韓国・朝鮮の歴史だが、朝鮮の視点は除外されている。
そのため、戦後史(特に解放直後)の記述が不十分になっている。



それを端的に示すのが、済州島4・3事件の記述。
この事件は李承晩の軍による同島の住民弾圧事件だが、
長らく、軍事政権下では沈黙を強いられ、島民は国賊の汚名を着せられてきた。



事件発生の背景として、戦後も併合時の対日協力者が
支配者層として君臨したこと、治安維持法を焼きなおした国家保安法、
旧日本軍の軍人を幹部にすえ、再編した朝鮮軍など、
日本の植民地支配が戦後もシステムとして維持され続けたことが挙げられる。



つまり、この事件は韓国版南京大虐殺のようなもので、
決して、無視してはいけないものなのだが、同書では一言語られるだけである。


なぜ、これほど軽く扱われるかと言うと、
これは韓国という国自体が米軍と親日派によって、
無理やり作られた経緯があるという負の歴史を直視したくないためだと思われる。


戦後の韓国は、併合時と全く変わらなかった。
済州島では、飢饉や疫病があったにも関わらず、食糧を無理やり供出させられた。

逆らう人間は逮捕・拷問された。これら弾圧の最高責任者は米軍だった。
米軍に保護され、弾圧に興じた官吏や警察は併合時の対日協力者だった。


彼らが主導する単独選挙によって誕生されたのが現在の韓国である。
済州島4・3事件の直接的な原因は、単独選挙への反対が挙げられる。



つまり、この事件は韓国にとって非常に都合の悪い史実なのだ。
そのため、ノ・ムヒョン政権まで国による謝罪の声は存在しなかった。


その点、北朝鮮は同事件に対しては遠慮なく言及しており、
バランスを支えるためにも、やはり北朝鮮の視点は必要だったと思われる。


北朝鮮の教育者を招くのが困難ならば、日本の朝鮮学校の講師を呼べばいい。
なぜ二者だけで編纂してしまったのか?残念でならない。


②米ソ二項対立史観から離れていない


アメリカも悪いがソ連も悪い、韓国も悪いが
北朝鮮も悪いという非常に単純な戦後日本・韓国史になっている。


冷静な話、ディテールを見れば、どちらかが悪いに決まっているのだが、
他方の小悪に言及することで、もう他方の巨悪が打ち消されている。


これを如実に示すのが、先述の4・3事件だ。
弾圧した政権の責任を「左翼の武装蜂起」という言葉で隠蔽している。



③アメリカを代表とする欧米列強の責任が言及されていない

国際政治で言えば、韓国併合はアメリカの支援と黙認によって
成り立ったものだった。戦後の民衆弾圧もまたしかり。


この点の言及が本書には無い。

つまるところ、本書は植民地支配の歴史として近現代を描くのではなく、
太平洋戦争の間にのみ起こった戦争犯罪に焦点を絞ったものとなっていて、
併合前、併合時、併合後と一貫して維持されている植民地主義への批判がない。


これは非常に問題があると思われる。


なお、私は、このような本が右翼ではなく良心的左翼によって
編纂されてしまったというのが非常にショックというか残念に思えてならない。


その背景としては、やはり先述したように北朝鮮側の視点を排除したためだろう。
北朝鮮は未だにアメリカからの植民地主義的干渉を受ける国だ。

本来ならば、北朝鮮と韓国は一致団結してアメリカと向かい合うべきなのだが、
逆に韓国はアメリカと仲良しこよしになってしまっている。日本とよく似ている。


一度、他国からの統治を許してしまうと、その支配構造が独立後も
維持されてしまう。このような植民地主義のおぞましい側面をより強く押し出すべきだ。



残念ながら、本書は以前に発売された類書と同レベルのものでしかなく、
斬新な視点や、無理に日韓共編にする意味もないように思える。

重ね重ね、惜しい作品だったと思う。


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