時事解説「ディストピア」

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軽減税率を巡る朝日新聞の詐欺的な解説

2015-12-12 00:28:35 | マスコミ批判
今朝の朝日新聞の記事によると、食品全般を減税の対象にすることに決まったそうだ。

当初、自民党は生鮮食品(青果、畜産、水産)のみを対象にするつもりだったらしい。
正気かという話だが、これを素でやるのが自民党。

ここで気になるのが、この問題を巡る各メディアの報道姿勢である。

例えば、朝日は社説で「軽減税率導入 社会保障を忘れるな」と書いているが、
実は朝日新聞は少なくとも8年前から消費税増税を主張してきた新聞だった。

その時も次のような社説を書いていた。

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将来を見通せば、増税による負担増は避けられない。
そう覚悟を決め、あえて大胆に発想を転換しないことには、
社会保障の基盤を固めて希望社会への道筋を描いていくことはできないだろう。

     *

では、その負担増をどの税金でおこなうか。
それはやはり消費税を中心にせざるを得ない、と私たちは考える。


消費税は国民が広く負担する税金だ。
国民みんなが互いの生活を支え合う社会保障の財源に適している。



また、少子高齢化が進むにつれ、所得を稼ぐ現役世代は減っていくので、
現役にばかり負担を負わせるわけにはいかない。

一方で、所得の少ない高齢者のなかにも、現役時代の蓄積で豊かな層がある。
こうした人々にも、消費する金額に応じて
福祉の財源を負担してもらうことは理にかなっている。


所得税や法人税の税収が景気によって大きく変動するのにくらべ、
消費税収は安定しているため、福祉の財源に適しているともいわれている。


安心の財源は消費税を中心にと考えるのは、以上の理由からだ。

http://www.asahi.com/shimbun/teigen/teigen07.html
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この文章は、2007年に書かれたものだが、少し考えてみても、
高齢者は若年層と比較して医療費や介護費がかさむことは容易に想像できるし、
低所得者に重い負担を強いる消費税が社会保障の財源に適しているとも思えない。

2013年10月には次の社説を載せている。


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安倍首相が、消費税の増税を決めた。5%の税率は来年4月から8%に上がる。

97年4月に3%から5%になって以来、17年ぶりの消費増税だ。
これまでは所得税などの減税とセットだったが、今回はない。
金額にして8兆円余り。わが国の税制改革史上、例のない大型増税である。
家計への負担は大きい。それでも、消費増税はやむをえないと考える。

借金漬けの財政を少しでも改善し、
社会保障を持続可能なものにすることは、待ったなしの課題だからだ。

「社会保障と税の一体改革」という原点に立ち返ろう。

国債を中心とする国の借金の総額は国内総生産(GDP)の約2倍、1千兆円を突破した。
今年度の一般会計では、新たな国債発行が40兆円を超え、予算の半分近くに及ぶ。

最大の原因は、高齢化に伴う社会保障費の伸びだ。
医療や年金、介護の財源は、保険料や窓口負担だけでは足りない。
国や自治体が多額の予算を投じており、国の社会保障費は年に1兆円ほど膨らみ続ける。

将来の世代に借金のツケを回しながら、今の世代の社会保障をやりくりする――。
こんなことをいつまでも続けられるはずがない。
社会保障を安定させ、財政の危機を未然に防ぐには、
今を生きる私たちがもっと負担するしかない。

では数多い税金のうち、なぜ消費税なのか。

社会保障による給付は高齢者向けが中心だ。
お年寄りの割合は上がり続けており、
所得税など働く世代の負担だけに頼るわけにはいかない。


しかも、現役組は賃金が増えないなか、子育てや教育、住宅など多くの負担を抱える。
支援を強化しないと、人口減少に拍車がかかりかねない。

こうした点を考えれば、国民が幅広く負担し、
税収も安定している消費税が、社会保障の財源に最もふさわしい。

http://d.hatena.ne.jp/oguogu/20131002/1380716457
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これに対して、私は以前、次のように反論した。


「この理論には明らかな嘘が含まれている。

 まず、所得税は所得に応じた税であり、
 勤労世代のみならず、年金世代もその年金額に応じて負担を負っている。


 次に、消費税は企業が獲得した利益から政府に対して支払う付加価値税であり、
 直接には消費者が支払っているわけではない。そのため、売上が赤字である
 中小企業(日本の全企業の7割に相当する)にとって重税となるのだ。

 国民が負担を負うというのは部分的な説明であり、
 肝心の中小企業への更なる負担という面は無視されている。


 最後に、小泉政権以降、福祉費は削減の傾向をたどっており、
 増税しても、公共事業や軍需産業に使われるのが関の山だ。
 福祉のために消費税が使われる保証などどこにもないのである。

どうせ増やしても福祉費には当てられず、軍拡と箱モノに充てられる。
残念ながら、この予言は2ヵ月後に的中した。

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来年4月に消費税率を5%から8%に引き上げて国民から約8兆円もの所得を奪っておきながら、
その増えた分の財源をつぎ込む対象は、もっぱら軍事費と公共事業費ばかりです。

対照的に福祉・教育予算は国民に痛みを強いる内容がぎっしりです。

14年度予算案は過去最大の95兆8823億円、
先に閣議決定した13年度補正予算案とあわせると101兆円以上にも達します。

今回の税率引き上げによって初めて消費税収が所得税収を上回りました。
法人税収の1・5倍の規模です。所得の低い人ほど打撃となる逆進性の
強い消費税頼みの異常な税収構造が鮮明です。

重大なのは消費税増税で拡大した財源を、
安倍政権の「暴走政治」を加速させる政策分野に最優先で投じていることです。


典型は軍事費の2年連続増です。伸び率も昨年度を超える2・8%増です。
今月中旬に一挙に閣議決定した「国家安全保障戦略」
「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」がさっそく具体化されています。
上陸作戦機能を向上させる水陸両用部隊新設などに約35億円投じます。
新型輸送機オスプレイや無人偵察機の導入のための調査費約3億円も新規につけました。
「海外で戦争できる国」へ向けた装備や部隊の増強です。
北東アジアの緊張を高め、平和に逆行する暴挙は中止すべきです。

公共事業費の2年連続増加も、先の国会で成立した「国土強靭(きょうじん)化法」を受けたものです。
「国際競争力強化」を名目の3大都市圏環状道路建設など大企業向けが顕著です。
国民と国の財政に重いツケを残す愚挙でしかない不要不急の大型開発事業は根本から改めるべきです。


消費税増税で「充実」させるはずの社会保障分野は、削減と抑制を列挙しました。
命と健康を守る医療に必要な診療報酬は、実質マイナスに転換しました。
「医療崩壊」をもたらす危険につながるものです。

歴代政権が見送ってきた70~74歳の医療費窓口負担2割への引き上げも実行します。
13年度から始まった生活保護費3年連続削減、年金の3年連続2・5%カットなども続行します。


「自己責任」を迫る社会保障大改悪を容赦なく推進することは国民の願いに真っ向から反します。
復興特別法人税廃止をいち早く決めるなど大企業に大盤振る舞いをする一方、
消費税増税やアベノミクスによる物価高騰で苦しむ国民の暮らしを支える視点が
まったくない安倍政権の危険性は明らかです。暴走にストップをかけるたたかいがいよいよ重要です。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-12-25/2013122501_05_1.html
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当然、福祉のために増税せよと主張した朝日新聞は、
軍事費拡張、福祉費削減について徹底して非難すべきなのだが、なぜか行っていない。

代わりにこういう社説を載せている。

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2017年4月に予定される10%への消費増税をにらみ、
食料品などの税率を現行の8%にとどめる軽減税率の導入について、
政府・与党が本格的に検討を始めた。

消費税には所得が少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」があり、その対策という位置づけである。

欧州の多くの国が導入している軽減税率は、
わかりやすいうえ、対象品目を購入する際の負担感がやわらぐという長所がある。
しかし、裕福な人も恩恵を受けるうえ、対象の線引きが難しく、税収の目減り分が膨らみやすい。

その危うさと日本の財政難の深刻さを考えれば、
軽減税率は欧州各国のように基本税率が10%を上回るようになった時に検討することにし、
当面は支援が必要な人への給付で対応するべきだ。社説ではそう主張してきた。


首相官邸は軽減税率へかじを切った。
連立政権を組み、欧州型の軽減税率にこだわってきた公明党への政治的配慮からだ。
慎重姿勢を崩さない自民党税制調査会長を交代させるという荒療治を施し、
消費税の一部を後で消費者に還付するという財務省案も一蹴した。

消費税率が二本立てになれば、取引ごとに適用税率や税額を記したインボイス(明細書)が
不可欠とされる。中小事業者を中心に事務負担を嫌う経済界はインボイスに反対している。

そうした実務上の問題を含め、課題は山積している。

政府・与党に忘れないでもらいたいのは、なぜ消費増税を決めたのかということだ。

国の借金は1千兆円を超えた。
高齢化に揺らぐ社会保障を支え、出産・子育て支援にも取り組んでいく。
その財源には、将来世代へのつけ回しである国債発行ではなく、
全ての世代が広く薄く支払う消費税を充てる。これが「税と社会保障の一体改革」だったはずだ。

当面の焦点は、何に軽減税率を適用するかである。

飲食料品を中心に検討が進みそうだが、対象が精米だけなら
税収の目減りは400億円の一方、外食を含め酒を除くすべてだと1兆3千億円を超える。

消費税率10%時には年金の受給資格期間を短縮するなど、増税分の使途は決定済みだ。
軽減の対象を広げるなら財源の穴埋め策を考えなければならない。


どんな答えを出すのか。政府・与党は、来年の参院選をにらんだ目先の思惑にとらわれず、
一体改革の精神を踏まえて判断するべきである。
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要するに、軽減税率を導入するなと言っているのである。


先述したように、所得税は年金生活者を含む全国民から徴収するものであり、
それも、所得に応じて金額が決定される累進課税システムを採用している。

これは所得の再分配(低所得者の負担分を高所得者が補う)にかなったもので、
皆の助け合いを言うならば、高額所得者の所得税を上げろと言うべきだ。

だが、さらに言えば、過去の統計を見ると、消費税の増税は法人税の減税とリンクしている。
つまり、法人税の減税で減った分を消費税の増税で補っている。

しかもこれ(法人税減税)は経団連などの財界の要求に応じたものであり、
これだけを見ても、消費税増税が平等意識などというものから芽生えたものではなく、
一部の特権階級の要求を満たすための埋め合わせとして利用されているのは明白である。
これに朝日が言及しないのは凄まじい欺瞞であるように私は感じる。


ちなみに、法人税は赤字経営の企業に対しては免除されるが、
消費税の場合は赤字であろうと必ず支払わなければならない


これもまた、金のないところからさらに金をむしり取ろうとする
極めて不公平なもので、福祉もへったくれもないことがわかるだろう。

そもそも、政府は当初、「生活必需品」を軽減税率の対象とすると話していたはずだ。

当然、食費だけでなく、ガス・水道・衣服・医薬品・化粧品・洗剤、
石油等々のかなり広域にわたる他の商品も対象とすべきなのである。

朝日は「食品だけ対象外にして、譲歩したポーズを取るのは何事か」と本来なら怒るべきなのに、
逆に「軽減税率を採用したら財源をどうするのだ!」と逆の意味で怒っている。

ここでとても素敵なお話をしよう。
実は新聞は増税の対象外になっているのだ。

朝日、読売、日経が「新聞に軽減税率」決定を書かない理由…
消費増税主張しながら自分達は政権と取引する卑劣


前述したように、消費税は最終的には企業が国に向けて支払うものである。

つまり、我々の生活費にかかる負担が増えても、
朝日新聞社は今までと同じ分の税を国に払うことになっている。

(今後、法人税が減税されれば、朝日は今よりも楽になるかもしれない。
 もっとも、法人税は黒字経営の企業にのみ課せられるので朝日の業績次第によるが)

赤字企業の経営や低所得者の暮らしが苦しくなっても、
朝日新聞にかかる負担は今までと何ら変わらないことを書かない。

「軽減の対象を広げるなら財源の穴埋め策を考えなければならない」と書いておきながら
「未購読者も増える現代で新聞は生活必需品とは言いがたい。対象から外すべきだ」とは書かない。


これが日本のリーディング・ペーパー。日本の行く末を案じているらしい連中のありのままの姿。
右翼は、慰安婦問題がどうのこうのより、こういう点を攻撃したほうが良いと思う。


朝日の言い分は「福祉費に充てるために消費税の税率を上げよ」だったはずだが、
実際には、軍事費や公共事業費に多くが使われ、逆に福祉・教育の予算は減っている。

当然、朝日は消費税増税の必要性を力説した自らの責任を取り、
直ちに軍事費を削減し、その分を福祉に充てよと与党を非難すべきなのだ。


それなのに言葉ばかりの「初心を思い出せ!」である。
3%も上げておきながら負担だけ増えた現実を少しも非難せず、
あいも変わらず、「上げろ!上げろ!軽減税率?財源はどうする!」だ。ふざけているのか。
初心に帰るべきなのは朝日新聞ではないのか?

新聞を取らなくても平気な人間など五万といる。生活必需品ではない。
いい加減、新聞社が国民に必要とされているといった下らない妄想から醒めて、
朝日は自分たちも国民と共に増税の負担を背負うことを覚悟してもらいたい。
真に国の未来を案じているのであれば、新聞を軽減税率の対象から外せと叫ぶべきだ。

私は前々から朝日など左翼でもなんでもないと主張していた。
(逆を言えば、朝日=左翼と攻撃している連中が如何に新聞を読んでいないかということでもある)

申し訳程度の反対意見だけ唱えて逃げ道を用意するメディアは、
ある意味、産経や読売のようなストレートに政府に加担するそれよりも一層、性質が悪い。


・追記

共産党の志井委員長は次のようにコメントしている。

「軽減税率というと、あたかも税負担が軽減されるかのような錯覚を呼び起こすが、
 検討されているのは2%の増税でだいたい5兆4千億円。
 そのうち1兆円を軽減しても4・4兆円もの大増税だ
 
 軽減税率という名で大増税という毒薬を
 オブラートに包んで無理やり飲み込ませるようなものだ。


 また、現行の8%から10%となった場合、逆進性は強まるのだから
 逆進性の緩和にもならない。だから理念のない選挙目当ての党利党略の手法だといえる。」

全くもって、その通りとしか言いようがない。
大体、8%の消費税を5%に戻すというわけではなく、8%を10%に上げる話である。
今よりも国の収入が減るわけではないのに「減った分の金をどうすんだよ」と語るのはおかしい。


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