シベリウス ヴァイオリン協奏曲 -Original version & Final version-
ヴァイオリン協奏曲ニ短調(作品47)~初稿版(1903/04)《世界初録音》
1.Allegro moderato 2. Adagio di molto 3. Allegro (ma non tanto)
ヴァイオリン協奏曲ニ短調(作品47)~最終版(1905)
1.Allegro moderato 2.Adagio di molto 3.Allegro, ma non tanto
レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)
オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団
録音: 1990年[Final version]、1991年[Original version] (BIS-CD-500)
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ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、チャイコフスキーなどとともに、ロマン派ヴァイオリン協奏曲の傑作として名高いシベリウスのヴァイオリン協奏曲。
初めて聴いたのはチョン・キョンファの独奏、プレヴィン指揮/ロンドン交響楽団のCDだったが、それ以来、自分はこの曲の虜になった。文字通り、毎日のように聴いていた時期もある。特に第1楽章を聴くたびに、他の作曲家のヴァイオリン協奏曲に比べて、霊的な深みが一段階違うような気がした。もちろん、チョン・キョンファの演奏がそれだけ素晴らしかったというのもあるだろう。でも、ほかのヴァイオリニストで聴いても、この曲が一歩飛び抜けた傑作であるという結論が変わることはない。少なくとも、ベートーヴェンのそれよりは、遥かに密度が濃い傑作のように思える。
むしろ密度の濃さでシベリウスのヴァイオリン協奏曲に太刀打ちできるとすれば、ブラームスだろう。事実、シベリウスは自身の作品の初稿版を1904年に初演した翌年、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を初めて聴くことになるのだが、そのあまりの完成度に衝撃を受けたのである。
シベリウスは早速、よりシンフォニックな響きを求め、一度演奏したヴァイオリン協奏曲の大改訂に着手した。その結果、現在われわれが耳にする、まさに一部の隙もないような傑作に生まれ変わったのである。
最終版の完成後、シベリウスは初稿版の演奏を禁止し、そのまま封印された形になった。しかし、初演から87年後の1991年、遺族の許可のもと、レオニダス・カヴァコスの独奏、オスモ・ヴァンスカ指揮/ラハティ交響楽団の演奏で、世界初の初稿版による演奏が行われたのである。
ここに紹介したCDは、初稿版と最終版を組み合わせた録音という点で、とりわけ資料的価値の高いものだ。この2つの版を聴き比べると、シベリウスの徹底した推敲ぶりを垣間見ることができて興味深い。もちろん一度封印した「未熟品」が公になるのは作曲者の本意ではないので、あくまで参考資料として聴いたほうがいいと思うが、やはり「ブラームスに負けない作品」を目指しただけあって、オーケストレーションの充実度がまるで違う。
特に第1楽章Allegro moderatoはとりわけ大きな改訂が施されており、演奏時間も3分近く(19分28秒→16分47秒)短縮されている。初稿版はソロの名技に重点を置く構成だったため、やや冗長なところがあったが、最終版では、ソロとオーケストラが見事に渾然一体となり、比類のない凝縮した深みを与えることに成功した。
第2楽章Adagio di moltoに関しては演奏時間も大差なく(9分58秒→10分02秒)、根本的な改訂箇所は少ない。
第3楽章Allegro ma non tantoは2分ほど短縮され(9分34秒→7分40秒)、初稿版に比べるとモチーフの展開がストレートになり、一段と凝縮度が高まった。
シベリウスの残した協奏曲は、生涯にこの一曲のみ。その唯一の協奏曲が、音楽史上まれにみる傑作に仕上がった。若い頃、彼はヴァイオリニストを目指しており、ウィーンフィルのオーディションまで受けたものの、極度のあがり症のため断念したのは有名な話。だがこの曲を聴いてみると、そんなシャイな人間だからこそ、魂の内向性をここまで徹底的に表現することができたのでは、と思えてくる。
芸術家は、時には自閉症の一歩手前に陥ることも、必要なのかもしれない。
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