シベリウス 交響詩集
1.エン・サガ(作品9) 2.森の精(作品45 No.1) 3.ダンス・インテルメッツォ(作品45 No.2) 4.ポヒョラの娘(作品49) 5.夜の騎行と日の出(作品55) 6.吟遊詩人(作品64) 7.波の乙女(作品73)
オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団
録音: 2000年[1-4, 6-7], 2001年[5] (BIS-CD-1225)
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シベリウスの交響詩と言えば、一般的に最も有名なのは『フィンランディア』(作品26)であろう。某放送局の名曲アルバムでも取り上げられているので、クラシック音楽に関心のない人にもポピュラリティが高く、あたかもシベリウスの代表作であるかのように思われている曲だ。
シベリウスが作曲活動を始めた19世紀末のフィンランドは、事実上ロシアの支配下にあり、独立を望む国民運動が高まりを見せていた。血気盛んな青年だったシベリウスは、自作の愛国劇の付随音楽から一部を独立させ、壮大な管弦楽曲を発表。それが交響詩『フィンランディア』だった。
重苦しい導入部から、苦難に立ち向かうような力強いテーマが登場し、第2の国歌にもなった有名な旋律を経て、勝利のマーチで幕を閉じる。まるでベートーヴェン第五のような、わかりやすい構成。愛国心を鼓舞させるツボにハマった名曲には違いないのだが、何度も聴いていると、耳にタコができる。実際の話、シベリウスの交響詩ならば、ほかに味わい深い名作がいくつもあるので、今回はそちらのほうを紹介してみたい。
ヴァンスカ/ラハティ交響楽団が2001年に発表したシベリウスの交響詩集には、7曲が収録されている。この中で比較的作品の規模が大きく、充実した音楽を楽しめるベスト3は『エン・サガ』、『ポヒョラの娘』、『夜の騎行と日の出』になるだろう。
『エン・サガ』が作曲されたのは1892年。シベリウスのデビュー曲『クレルヴォ交響曲』を聴いて感銘したフィンランドの指揮者ロベルト・カヤヌスの委嘱を受けて書かれたものだ。当時作曲者は27歳。後期のような円熟ぶりには及ばないものの、いかにも意欲のほとばしった若書きの力作である。
曲はいかにも昔話を語りかけているような旋律で始まり、時おり襲いかかってくる嵐のような響きが、壮大な叙事詩の存在を思い起こさせる。しかし最後まで物語の本編に突入することはない。あくまでプロローグの音楽に過ぎないのだ。
そして、名曲の誉れ高い『ポヒョラの娘』。シベリウスが40代を迎えたばかりの作品。背景にある物語は、フィンランド版「竹取物語」とも言える内容である。
主人公の吟遊詩人は、北の国ポヒョラを訪れた時、まばゆい虹に腰かけた美しい乙女と出会う。あまりの美しさに心奪われ、乙女に求愛した吟遊詩人に対して、乙女は3つの難題を示し、それが果たせたなら望みを叶えましょうと約束する。しかし結局、3つ目の難題「小さな糸巻き棒から船を造る」ことに失敗。傷心の吟遊詩人は、ひとり寂しく去っていくことになる。
音楽は北の国ポヒョラの描写、美しい娘の姿と吟遊詩人との語らい、最後の失意の様子などを、情感豊かに描いてゆく。その奥行きの深い音のつづれ織りは、何度聴いてもあきることがないほどだ。
『夜の騎行と日の出』も、不思議な魅力にあふれた音楽。特定の物語を描いているわけではないのだが、曲の前半に延々と続く寂しげなリズムは、いかにも夜の道を駆けて行く騎士の胸の内を表わすように聴こえるし、後半に現われる日の出の描写は、あの交響曲第5番の素晴らしい日の出の情景を予見するかのようだ。
これら3曲以外では、『吟遊詩人』と『波の乙女』も、それぞれに聴きどころのある佳作。特に後者に聴く海の描写には、生まれて初めての大西洋横断を目前にしたシベリウスの期待と不安が入り混じっており、クライマックスで襲いかかる暗いうねりは、巨大な豪華客船タイタニックを沈没させるほどの迫力がある。
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