375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(18) リャードフ作品集 『8つのロシア民謡』ほか

2007年03月19日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

リャードフ 管弦楽作品集
1.ファンファーレ第1番 2.ファンファーレ第2番 3.ファンファーレ第3番 
4.ポロネーズ
(作品49) 5.交響詩『魔法にかけられた湖』(作品62) 6.交響詩『ババ・ヤガー』(作品56) 7.交響詩『キキモラ』(作品63) 8.バラード『古き時代より』(作品21b) 9.音楽玉手箱(作品32)
10.管弦楽曲集『8つのロシア民謡』(作品58) 
宗教的な歌 ②クリスマス・キャロル ③のびのびと歌う歌 ④おどけた歌 ⑤鳥たちの伝説 ⑥子守唄 ⑦踊りの歌 村人の踊り
11.ポロネーズ
(作品50)
エンリケ・バティス指揮 メキシコ州立交響楽団
録音: 1998年 (ASV CD DCA 657)
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今回登場の作曲家は、アントーリ・コンスタンティノヴィッチ・リャードフ(1855.5.11-1914.8.28)。ロシア国民学派第2世代の作曲家の1人であるが、他の作曲家のように、交響曲や歌劇などの大規模な作品は残さず、ロシアの民話やおとぎ話を題材にした、オーケストラ小品や、ピアノ曲のみによって知られている。

作品の数は、極めて少ない。全曲録音してもCD1枚に収まってしまうほどである。作品が少ない原因として、一説には、生来の怠け癖があったと言われる。ペテルスブルク音楽院では、リムスキー=コルサコフの作曲科に籍を置いていたが、欠席が多く、一度除籍されたらしい。ただ、父親や叔父もプロの音楽家ということもあり、その血筋から、人並みはずれた才能を持っていたことは間違いがなく、ムソルグスキーに高い評価を受けたのをきっかけとして、「ロシア5人組」と関係を持つようになった。

のちには、自らペテルスブルク音楽院で教えるようになり、その門下にはプロコフィエフ、ミャスコフスキーらがいる。また、リャードフは画才にも優れており、漫画や幻想的な絵を描いては、友人たちを驚嘆させたらしい。実際、彼の管弦楽作品を聴くと、恩師リムスキー=コルサコフを彷彿とさせる色彩的なオーケストレーションと共に、その絵画的なイメージの豊かさに驚かされるのである。

リャードフのCDは、以前スヴェトラーノフの演奏が出ていたはずだが、見かけなくなってしまった(それとも、あれはLPだったか。ちょっと記憶があやしい)。その代わり、別の指揮者で、手頃なCDが出ている。メキシコの熱血指揮者エンリケ・バティス率いる、メキシコ州立交響楽団による演奏である。

このリャードフの作品集は、演奏時間が1分にも満たない3つのファンファーレで幕を明ける。3つとも、何かの祝典の際に作曲されたらしい。その後に、リムスキー=コルサコフの作品によく似たポロネーズ(作品49)が続く。これは、1899年に行なわれた、詩人プーシキンの追悼演奏会で披露されたものだという。

ここからが、リャードフの代表作として名高い、3大交響詩の登場となる。『魔法にかけられた湖』は、印象派風に刻々と変化する、神秘的な情景描写が魅力。『ババ・ヤガー』は、ムソルグスキーの『展覧会の絵』にも出てくる、魔法使いの妖婆。森の中を気ぜわしく活動する様子が、色彩豊かなオーケストレーションで、ダイナミックに描かれる。『キキモラ』も、ロシアの民話に出てくる魔女で、一日中、口笛を吹きながら邪悪な考えにふけっているという。曲は不気味な雰囲気のアダージョに始まり、徐々に劇的で変化に富んだ展開を見せる。この『キキモラ』が、リャードフの最大規模の作品になるが、それでも、演奏時間は8分30秒程度である。

これらの交響詩に続く、『古き時代より』というタイトルのついたバラードと、『音楽玉手箱』(!)は、どちらも、ピアノ曲のオリジナルを、管弦楽曲に編曲したヴァージョン。特に、当ブログのタイトル名にもなった『音楽玉手箱』は、わずか1分30秒のオルゴール風小品であるが、フルートで奏される軽快なメロディを聴いているだけで幸せな気分になってくる。可愛い女の子へのプレゼントにしたくなるような、チャーミングな名作だ。

CDの後半は、管弦楽曲集『8つのロシア民謡』。リャードフは、ロシア各地の民謡を200曲以上収集していたが、その編曲の成果として生み出された集大成である。短いもので1分。長くても3分に満たない小品集で、親しみやすいメロディに聴きほれているうちに、あっという間に終わってしまう。クラシック音楽を敬遠している人で、演奏時間の「長さ」を問題にしている人がいるとしたら、そういう人には、このリャードフの作品集を聴かせてみたらいいかもしれない。きっと、考えが変わるだろう。

CDの最後は、1902年に、ピアニストだったアントン・ルビンシュタインの彫像の除幕式に演奏された、もうひとつのポロネーズ(作品50)で、幕を閉じる。

メキシコ州立交響楽団の演奏は、開放的で明るい響きが、リャードフの色彩感豊かなオーケストレーションと相性がよく、愉しさ満点だ。ドイツ・オーストリア系の「王道クラシック」とは対極の世界であるが、このような音のファンタジーに徹した世界も、クラシック音楽を聴く醍醐味の一つなのである。


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