375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

気になる新譜(3) 宇多田ヒカル、新曲に込めた別離への想い。

2007年03月11日 | 気になる新譜情報
前回の記事で、「若い世代の歌手は、なかなか本気で聴いてみようという気持ちになれない」と書いたが、実は、何人かの例外が存在することも、付け加えておきたいと思う。その1人が、宇多田ヒカルである。

自分が初めて宇多田ヒカルの歌声を聴いたのは、1999年2月。たまたまNYCの紀伊国屋書店に立ち寄った時のこと、店内に流れていた音楽の数フレーズを聴いて、その独特の節回しに思わずハッとなった。「誰だ、これは?」 そう思って、“NOW PLAYING”の表示に飾られているジャケットを見ると、これが、宇多田ヒカルの第2作目のシングル『Movin' on without you』だった。その日から、彼女の音楽を追いかけるようになったのである。

その後、宇多田ヒカルが演歌歌手・藤圭子の娘であること、NYC生まれであることを知り、ますます親近感を持つようになった。『First Love』(1999年)、『Distance』(2001年)、『DEEP RIVER』(2002年)、と傑作が続くオリジナル・アルバムは、単なるJ-POPのカテゴリーを越えて、心理の綾を描く少女文学的要素を融合した、独特の歌世界を形作っており、何回聴いても飽きることがない。

その彼女が、今年2月28日に通算18作目のシングル『Flavor Of Life』(TOCT 40095)を発売した。はからずも、その歌詞は、このCDの発売直後に、4年半の結婚生活に終止符を打つことになる、彼女自身の心境を代弁しているように思えてならない。

  ありがとう、と君に言われると なんだかせつない
  さようならの後も解けぬ魔法 淡くほろ苦い


離婚の理由については、彼女自身がホームページで説明しているように、「思い描く未来図や夫婦像の方向性に、徐々にズレが生じたこと」と、「すれ違い生活の中でのコミュニケーション不足」にあることは確かだと思うが、その背景には、彼女が生まれ育った家庭環境も影響しているのではないだろうか。

宇多田ヒカルの両親、藤圭子と、音楽プロデューサー・宇多田照實氏は、実に6回も結婚・離婚を繰り返しており、つい先頃も恒例の(?)離婚をしたばかりである。そのような不安定な家庭状況の中で、彼女自身は、安定した幸せな家庭を夢見ていたことは容易に想像できるし、その憧れが強かったゆえに、19歳という若さで、結婚に踏み切ったのだろう。

しかしながら、理想の夫となるはずだった紀里谷和明氏は、あまりにも忙しすぎた。自分の夢を追っている最中だった。結婚一周年の時点で、すでに、日米で離れたままの生活になってしまい、「やっぱり寂しい」と、周囲に漏らしていたとも言われる。

しばらくの間、心に傷は残ると思うが、まだ24歳。人生にはよくある挫折の一つ、と捉えて、再出発してほしい。芸術的には、これからが成長期に入ってくるはずである。

宇多田ヒカルの多くの作品に見られる、せつなさや寂しさの感情は、おそらく彼女自身の心象風景が反映されているものだろう。優れた芸術家の資質として、「寂しさ」は不可欠な要素であるし、それを磨くために、神様は才能ある芸術家に対して、大きな試練を与えているようにも思えるのだが、やはり、1人の女性としては、幸せを犠牲にしてほしくない、と思ってしまう。

天才であるゆえの苦悩から、彼女も逃れられないのであろうか。


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