375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●歌姫たちの名盤(14) 日吉ミミ 『THE昭和歌謡 日吉ミミ スペシャル』

2013年05月05日 | 歌姫③ ENKA・裏街道系


日吉ミミ 『THE昭和歌謡 日吉ミミ スペシャル
(2008年11月19日発売) VICL-63163

収録曲 01.男と女のお話 02.男と女の数え唄 03.むらさきのブルース 04.あなたと私の虹のまち 05.男と女の条件 06.結婚通知 07.途中下車 08.りんご 09. 十時の女 10.捜索願 11.想い出ばなし 12.流れ星挽歌 13.猫 14.男の耳はロバの耳 15.タ・ン・ゴ 16.雪 17.未練だね [ボーナストラック]18.おじさまとデート(昭和44年 日吉ミミデビュー曲) 19.涙の艶歌船(昭和42年 池和子名義でのデビュー曲)


万国博覧会が開催された1970年。その年の5月に大ヒットし、強烈な印象を残したのが日吉ミミの「男と女のお話」だった。
「恋人にふられたの よくある話じゃないか 世の中かわっているんだよ 人の心もかわるのさ」

わずか1行でワン・コーラスが終わる。「シンプル・イズ・ザ・ベスト」のお手本のような歌詞。あまりにもわかりやすい真実なので、当時中学1年だった筆者も1回聴いただけで憶えてしまった。これなら大ヒットするのは当然であろう。

同じ年の10月には男と女シリーズの第2弾「男と女の数え唄」 も連続ヒット。勢いに乗って年末の紅白歌合戦にも初出場を果たす。
当初は補欠だったのだが、常連の大御所・江利チエミが「自分はヒット曲がないから」と潔く辞退するという幸運にも恵まれ、千歳一隅のチャンスをものにした。これ以後、紅白出場は実現していないわけだから、江利チエミには一生感謝していたに違いない。

舞台姿が、また印象的だった。1970年の紅白歌合戦に出場した時の映像が最近までYouTubeで見られるようになっていたが、当時23歳だった日吉ミミはセンスのいい衣装も含めてルックスも十分可愛い。クールな微笑をあまり変化させずに歌う姿は人形のような魅力があるし、独特の鼻にかかるハイトーン・ヴォイスは今聴いても新鮮味がある。細部まで絶妙にコントロールされた歌唱力もあり、その実力をあらためて再評価したい気持ちにさせられる。

実際、1967年5月に池和子名義で最初のデビューを果たしてから、2011年8月に膵臓癌で亡くなるまでの44年間、大手レコード会社のビクターは一度も日吉ミミを手放さなかった。人生に表街道と裏街道があるとすれば、間違いなく「裏」に属する人たちの喜怒哀楽を歌った個性派歌手だけに、根強い固定ファンの多い貴重な「隠れドル箱歌手」としての価値を認めていたということだろう。

日吉ミミの魅力を音源だけで味わうとしたら、うってつけのCDが出ている。2008年、デビュー40周年を記念して発売された企画もののベスト・アルバムで、タイトルは『THE昭和歌謡 日吉ミミ スペシャル』。THE昭和歌謡とは大きく出たものだが、この1枚に昭和歌謡曲の最良のエッセンスが詰め込まれているという意味では決して大げさなタイトルとも言い切れない。いわゆるヒット・アルバムではなく、隠れ名曲を中心に選曲したファン向けのベスト・アルバムであるところが味噌なのである。

最初の2曲はお馴染みの代表曲「男と女のお話」と「男と女の数え唄」。まずは一般的に知られている日吉ミミを聴いてもらおう、というわけでイントロダクションとしては最も適切な選曲。続く3曲目からが本番のプログラムとなる。

収録曲のうちシングルB面の曲が「むらさきのブルース」(1971年)、「あなたと私の虹のまち」(1972年)、「途中下車」(1973年)、「りんご」(1973年)、「捜索願」(1973年)、「男の耳はロバの耳」(1983年)、「雪」(1986年)、「未練だね」(1988年)の8曲。いずれも隠れ名曲と呼ぶに値するものだが、特に「りんご」は1度聴いただけで忘れられない感銘を残す傑作だ。

ある日、幼い女主人公はあまりにお腹がすいていたので、1個のりんごを盗んでしまう。そのために悪い娘だと折檻され、お寺に追いやられる。すでに実の母は亡くなっており、継母にも疎ましくされていたのだろう。その後「不良少女」のレッテルが貼られ、あちこちの親類にたらい回しされる日々が続く。淋しさからタバコも覚え、男性遍歴も繰り返していく。しかし男運も悪く、財産はすべて持っていかれ一文無しの身に。「赤いりんご1個で、私の人生は終わった・・・」

まさに不幸を絵に描いたような女の一生。普通の歌手が歌えば暗すぎて聴いていられなくなるところだが、日吉ミミのハイトーン・ヴォイスで聴くと、不幸な中にもどこか救いがあり、それでいてなんともいえない哀愁が漂ってくる。まさしく「人生の裏街道」を歌うために生まれてきたような唯一無二の個性がここにある。

「捜索願」も面白い。1年間同棲し、結婚話まで進んでいたという恋人のヒロシが、ある時タバコを買いにいったまま行方不明になってしまう。いったいどこへ行ったのか? 心配したスナック「かもめ」のヨーコは捜索願を出す・・・ 
要するに捨てられたことに気づいていない女の哀れを歌った失恋歌なのだが、これがまた独特の詩情を醸し出す一作になっている。

シングルA面曲の中では、心変わりした愛人に捨てられゆく女の心境を歌った「流れ星挽歌」(1978年)が堂々たる力作。ただしリアルタイムでは聴いた憶えがないので、それほどヒットしなかったのだろう。やはり1970年代も後半になるとレコードの購買層がやや若年化してくるので、渋い大人向けの楽曲はやや不利になってくるのは否めない。

もちろんプロデューサー側もそのような時代の流れは察知しているので、日吉ミミの場合もこの時期を境にしてニューミュージック系アーティストへの楽曲依頼が増えるようになる。このアルバムには収録されていないが、TV番組の劇中歌に抜擢された中島みゆき作曲の「世迷い言」(1978年)はこの系列の代表作であろう。

それ以外の収録曲では、ボーナストラックの1曲目「おじさまとデート」(1969年)が凄い。これは「男と女のお話」でブレークする直前、日吉ミミ名義での第1作ということになるが、よくもここまで・・・と思えるほどの徹底的なオヤジキラーぶりを発揮したアダルト・ソングである。しかも、このシングルのB面曲のタイトルはなんと「恋のギャング・ベイビー」。いったいどんな曲なのか想像もつかない。

もう1曲のボーナストラック、池和子名義のデビュー曲「涙の艶歌船」 (1967年)は純然たる演歌なので、日吉ミミの個性はまだ出し切れていないが、ハイトーン・ヴォイスを生かした歌唱力は素晴らしく、後のブレークを予感させるものがある。

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