375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(23) ハチャトゥリアン 交響曲第2番 『鐘』

2007年04月13日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編


ハチャトゥリアン 交響曲第2番『鐘』+『スターリングラードの戦い』組曲
交響曲第2番イ短調 『鐘』
1.Andante maestoso 2.Allegro risoluto 3.Andante sostenuto 
4.Andante mosso - allegro sostenuto. Maestoso
『スターリングラードの戦い』 -映画音楽からの組曲-
1.ヴォルガのほとりの町 2.侵略 3.炎上するスターリングラード 4.祖国防衛線 5.勝利へ
ロリス・チェクナヴォリアン指揮 アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団
録音: 1993年 (ASV CD DCA 859)
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ハチャトゥリアンは『ガイーヌ』などのバレエ音楽以外に、交響曲の分野でも傑作を残している。完成された交響曲は、全部で3曲。そのうち、1934年に作曲された交響曲第1番は、モスクワ音楽院の卒業作品として書かれた。アルメニア地方の民族的旋律が散りばめられた初期の佳作で、のちの『ガイーヌ』を予見するような箇所もある。今のところ、録音は少なく、チェクナヴォリアン指揮アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏くらいしか、目ぼしいものが見当たらない。

それに対して、第2次世界大戦中の1943年に完成された交響曲第2番は、作曲当初から比較的ポピュラーで、CDの種類も多い。ここでは、前回同様、チェクナヴォリアン盤を紹介しておこう。カップリング曲の『スターリングラードの戦い』と合わせて、戦争を題材とした2大傑作が1枚で聴けるという組み合わせが素晴らしい。

この交響曲の『』という標題は、ハチャトゥリアン自身が付けたものではなく、作品の中で、印象的な響きをもたらす鐘の効果音に由来するニックネームである。

第1楽章は、その「鐘の響き」を含んだ、巨大な轟音の中で開始される。いきなり戦場に放り出されたような戦慄に、全身が凍りつくようだ。序奏部に続く、チェロのモノローグは、戦いに向かおうとする兵士の心象風景を表わしたものだろうか。速いテンポの主部に入ると、差し迫った緊張感が一層高まっていく。

第2楽章は、砲弾の飛びかう中、銃をかかえて敵陣に突撃していくようなスケルツォ楽曲。ソロ・ピアノの突然の乱入など、予断を許さない展開が続く。

第3楽章は、荒れ果てた焼け野原の道を、無数の戦死体が運ばれていくような、不気味な葬送行進曲。呆然自失のまま、あてどもなく彷徨っているようでもある。そして突然、阿鼻叫喚の地獄絵図を眼前にするかのような、壮絶なクライマックスに突入する。

第4楽章。冒頭に鳴り響くのは勝利のファンファーレだろうか? 勇壮なテーマではあるのだが、決して勝ち誇るような調子ではない。むしろ、消しがたい深い傷を負っているような悲壮感がつきまとう。コーダでは、第1楽章冒頭の鐘の音が、戦争の犠牲者を弔うように鳴り響き、すさまじいクレッシェンドの果てに終幕を迎える。

それにしても、なんというシリアスな作品であろうか。ハチャトゥリアンは『ガイーヌ』などのバレエ音楽だけを聴いていると、ソ連体制に順応するエンターテイナーと思われがちだが、それはあくまで「仮面」であり、実際は、ショスタコーヴィッチがそうしてきたように、彼も、彼なりに闘っていたのではないだろうか。この交響曲第2番には、作曲者の本音である反戦へのメッセージが、垣間見えるように思えてならない。

一方、カップリング曲『スターリングラードの戦い』は、同じく戦争をテーマにした音楽ではあっても、映画音楽として作曲されただけに、もっと平明なわかりやすさがある。

祖国の兵士を激励するような、力強い行進曲「ヴォルガのほとりの町」。
ナチスドイツの軍隊が進軍するようなスケルツォ曲「侵略」。
砲火を浴びて激しく燃え上がる町を、悲劇的に描写する「炎上するスターリングラード」。
祖国を守るため、起死回生の反撃を開始する「祖国防衛線」。
そして、血沸き肉踊るような凱旋行進曲「勝利へ」。最後は、冒頭で奏されたヴォルガ河のテーマが高らかに再現され、圧倒的な盛り上がりのうちに幕を閉じる。