375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(22) ハチャトゥリアン 『ガイーヌ』、『スパルタカス』

2007年04月09日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

ハチャトゥリアン 『ガイーヌ』第1組曲+『仮面舞踏会』+『スパルタカス』
『ガイーヌ』第1組曲
1.剣の舞 2.バラの乙女たちの踊り 3.山岳人の踊り 4.子守歌 5.レズギンカ
『仮面舞踏会』組曲
1.ワルツ 2.夜想曲 3.マズルカ 4.ロマンス 5.ギャロップ
『スパルタカス』組曲
1.エリナのバリエーションとバッカス祭り 2.情景とクロタルを持った踊り 3.スパルタカスとフリーギアのアダージョ 4.ガディスの娘の踊りとスパルタカスの勝利
イッポリトフ・イヴァノフ 『コーカサスの風景』
1.峡谷にて 2.村にて 3.たそがれ 4.酋長の行列
ロリス・チェクナヴォリアン指揮 アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団
録音: 1991年 (ASV CD DCA 773)
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アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン(1903.5.24-1978.5.1)は、グルジア出身、アルメニアの作曲家。旧ソ連圏の作曲家としては、カバレフスキー(1904年生まれ)、ショスタコーヴィッチ(1906年生まれ)と同世代になるが、作風はむしろ、28歳年長のグリエールの国民学派的傾向を相続し、社会主義リアリズムの路線に従いながらも、出身地のカフカス地方(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)の民俗音楽を取り入れた、独自の個性を確立している。

ハチャトゥリアンの音楽を聴くと、「血沸き肉踊る」という感じで、限りなくhighになる。クラシックというよりは、サイケデリック・ロックに近い感覚だろうか。実際、「剣の舞」あたりは、ジャズ・ミュージシャンやロック・アーティストもカバーしており、今や音楽のジャンルを越えた傑作として、知られるようになっている。

自分にとって、ハチャトゥリアン体験の最初の1枚が、1991年に発売された、アルメニアの熱血指揮者ロリス・チェクナヴォリアン指揮する、『ガイーヌ』、『仮面舞踏会』、『スパルタカス』の組曲集である。このCDで初めて聴いたアルメニア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、破天荒で強烈。まったく洗練されていない原色のサウンドで、一気呵成に突き進む迫力は、このオケ独特のものだ。

ハチャトゥリアンの音楽は、個性が強いだけに、好みは分かれるかもしれない。しかし、一度ハマってしまうと、なかなか抜け出せなくなるのが、この音楽史上稀に見る、究極のイケイケ音楽の魔力なのである。

ガイーヌ第1組曲
ハチャトゥリアンは、1939年にバレエ第1作『幸福』を作曲したが、1942年に改訂。これが、代表作として誉れ高い『ガイーヌ』となった。コルホーズ(死語?)で働く綿つみの若い女性ガイーヌを主人公に、革命後のアルメニア地方の農民生活を描いたバレエであるが、現在ではバレエそのものはほとんど上演されず、通常は初演直後にまとめられた組曲版が演奏される。

このCDに収められた第1組曲は、怒涛のごとく突き進む、有名な「剣の舞」に始まり、民族色豊かなアンダンテ楽曲「バラの乙女たちの踊り」、野性的なリズムで駆け抜けるスケルツォ楽曲「山岳人の踊り」、郷愁あふれるアダージョ楽曲「子守唄」と続き、最後はアルメニア民族大爆発の終曲「レズギンカ」で幕を閉じる。

仮面舞踏会組曲
レールモントフの戯曲のために作曲した劇音楽を、1943年に5曲を選んで組曲の形にまとめたもの。帝政ロシアの貴族社会を、その社交生活を通して批判的に描いたものであるが、音楽もその内容を反映して、どちらかといえば19世紀西欧風のスタイルを取り入れようとしている。その分、一般的には親しみやすいかもしれない。

ただ、西欧風とは言っても、決して洗練されないところがハチャトゥリアンの個性で、「ワルツ」なども、チャイコフスキーのそれより、土俗的な重量感がある。

スパルタカス組曲
古代ローマの奴隷反乱の主役となった剣闘士スパルタカスを、社会主義革命の英雄に見立て、1954年に作曲されたバレエ巨編。異様なほどにエネルギッシュな音楽が全編に燃え上がるこの作品は、バレエそのものもよく上演され、組曲版の人気も高い。これこそ、ハチャトゥリアンの集大成的な傑作と言えるだろう。

この組曲に収められた4曲はどれも素晴らしいが、中でも白眉と言えるのが、やはり「スパルタカスとフリーギアのアダージョ」。その切々と心に訴えかける感動的なメロディは、数あるロシアン・アダージョの中でも5本の指に入るのではなかろうか。

このCDには、オマケ(?)として、ロシア国民学派の流れをくむ作曲家イッポリトフ=イヴァノフ(1859.11.19-1935.1.28)の代表作『コーカサスの風景』がカップリングされている。正直言うと、このCDは、ハチャトゥリアンの3つの組曲だけで満腹になってしまい、最後に収められたこの作品までは、たどり着かないことが多い。だが、よく聴いてみると、詩情あふれる、なかなかの名作。特に、「酋長の行列」のメロディは、誰もがどこかで聴いたことがあるだろう。