375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(3) ボロディン 『イーゴリ公』序曲、だったん人の踊り

2007年01月13日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編


ボロディン 歌劇『イーゴリ公』(ハイライト版)
アンジェリナ・シュヴァチカ(コンチャーコヴナ)、ドミトロ・ポポフ(ヴラディミール・イーゴリエヴィッチ)、ミコラ・コヴァル(イーゴリ公)、タラス・シュトンダ(ガリツキイ)
テオドール・クチャル指揮 ウクライナ国立放送交響楽団&キエフ室内合唱団
録音:2003年 (Naxos 8.557456)
1. 序曲
2. 第1幕 ガリツキイのアリア
3. 第2幕 だったん人の娘たちの踊り
4. 第2幕 コンチャーコヴナのアリア
5. 第2幕 ヴラディミールのアリア
6. 第2幕 イーゴリ公のアリア
7. 第2幕 だったん人の踊りと合唱
8. 第3幕 だったん人の行進
9. 中央アジアの草原にて
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12世紀のロシアで、実際に起きた史実をもとに書かれた散文作品「イーゴリ遠征物語」。ルーシ(現在のウクライナ)の一都市、ノブドロゴ・セーヴェルスキイの領主イーゴリ公は、ルーシへの侵入と略奪を繰り返していたトルコ系遊牧民族ポロヴェッツ人に対し、祖国ルーシを守る為に遠征を企てる・・・。この愛国譚をオペラ化したものが、歌劇『イーゴリ公』である。

作曲者は、アレクサンドル・ポルフィーリエヴィッチ・ボロディン。1833年11月12日、ペテルスブルグで生まれる。自称「日曜日の作曲家」。いつの時代でも、作曲だけで食べていくのは大変なことだが、彼の場合は、本業が医者であった為、多忙を極めていた。実際に、週1度程度しか、作曲の筆を取れなかったのであろう。

ボロディンは、ペテルスブルグ医科大学に入学した頃から、作曲にも手を染めていたが、23歳でムソルグスキー、29歳でバラキレフキュイリムスキー=コルサコフと出会うことによって、ロシア国民学派の中心勢力「力強い仲間(いわゆるロシア5人組)」を結成することになった。これ以降は、シューマンなどのドイツ音楽の影響を受け、交響曲なども作曲するようになるが、やはり彼のライフワークと言えば、36歳頃から着手した、歌劇『イーゴリ公』であろう。

『イーゴリ公』の劇中音楽で、最も有名なのが、第2幕で繰り広げられる「だったん人の踊り」。敵将コンチャック汗が、捕らわれの身となっているイーゴリ公の気晴らしにと、宴会を設けてくれる。(実に親切な敵将だ。) そこで、ポロヴェッツ人の若者と娘たち、奴隷として略奪されてきた娘たちが、望郷の思いを込めて歌と踊りを繰り広げる。ダイナミックで、異国情緒にあふれ、体が熱くなるようなダンス・シーンだ。

「だったん人の踊り」ほど有名ではないが、「序曲」も忘れられない名曲。重厚な導入部から、躍動感あふれるテーマが展開し、それが一段落すると、「疲れ果てた心には眠りも安らぎもなく(イーゴリ公のアリア)」の息の長い旋律が登場する。このあたりは、まさに万感の思いがこみ上げてくるところだ。異国の地にあって、望郷の思いに浸るイーゴリ公の心情が、ほぼ同じ境遇をたどりつつある自分自身の人生に投影されるせいであろうか。

『イーゴリ公』のCDで、最近よく聴いているのは、クチャル指揮ウクライナ国立放送交響楽団のハイライト盤。ここでは「序曲」「だったん人の踊り」の他、「イーゴリ公のアリア」も聴くことができるし、オマケ(?)として、「中央アジアの草原にて」も収録されている。演奏も、荒削りなローカルの味があり、クライマックスでの怒涛のような白熱ぶりがすごい。

尚、ボロディンは、この歌劇を最後まで完成することなく、1887年2月27日、53歳で世を去った。現在上演されているヴァージョンは、後年リムスキー=コルサコフグラズノフによって補筆完成されたものである。

今年(2007年)はボロディン没後120周年に当たる。記念行事があるかどうかはわからないが、この国民的歌劇の傑作が、少しでも多く上演されるよう、期待したいと思う。

韃靼人の踊り~歌劇『イーゴリ公』の世界
ボロディンのライフワーク、歌劇『イーゴリ公』の魅力を伝えるホームページ。「だったん人の踊り」などのロシア語原詩と日本語との対訳もあります。