にざかな酒店

皆月家昔話2

というわけで、同じ日のアップでお話は続いていますが、順番はあげた順に読んでくださいお願いします…!
一応話としては別々に読めるのですが、ちょっと肝心な部分があれですので、はい。

ちょっと気になった部分に追加をいれました。空斗と李々の会話がおまけについてます。

皆月家の昔話2

休日の朝、ちょっと前の当主のことが気になったのは、空斗の興味本位だった。
どうも琉留より李々の方が詳しそうなので、李々に聞く。
「前の当主の人ってさ、なんか毎日くるみ餅食べてる人だったんだって?君毎日くるみ餅買いに行ってたとか」
李々はいきなり水にうたれたような顔でいった。
「…その情報、琉留ちゃんですか?…琉留ちゃんの記憶って、事件でだいぶ矯正されてるからずいぶん平和的になってるって聞いてはいたけど、そこまでひどいなんて…」
「………え?」
「…もう、あんまり気になられてもしょうがないから、正直に話しますが…まず、初期設定に誤りがあります。確実に。和麻様は、もともとの能力者ではない能力でずっと仕事をしてたので、能力の痛みがまず魅厘様の数倍はひどかったんです。」
李々が言うには、魅厘は皆月家の歴代当主で一番、能力を使って他のものの能力を取り込んだ時の痛みが少ない、出来のいい能力の当主ということだ。
「で、その、痛みによる破壊衝動を、全部食欲、甘いものにかえる能力をわざわざ使って、周りに極力迷惑をかけないようにしていたんです。確かに、周りの人間には穏やかに接していましたが、一旦甘いものが切れたときの苦しみは尋常じゃありませんでした。だいたい、だいたいですよ?和麻様の生命力じゃ85歳くらいまで生きると言われていたのに、和麻様は40手前でなくなっています」
「……うん」
思ったよりもずっとずっと重い話だが、空斗は一応相づちをうった。
「甘いものはとりあえず前からお好きではありましたが、とても和めるものではありません。…で、ですね。まず、皆月家はその当時は十人くらい私たちのお手伝いさんがおりました。そこで、魅厘様が出来のいい当主なのが絡んでくるんですが、その出来が良いのが能力的に脅威だという事で、まず魅厘様には恋愛の話も、それに関わってくる刺激の強いお話もぜーんぶお話しするのは全員厳しく禁止されておりました。なのに魅厘様を美しくみせる専用のお手伝いさんとかいて、ここ納得できないとこなんですが…まあそこはおいておきましょう」
確かにすごい矛盾どころである。恋愛の話禁止なのにみかけだけは美しくするなんて。美しさは力だという、昔的な考え方か。
「その頃の皆月家といったら、一番それらしいお話を聞いたのは…まあ最近ここ三年くらいでちょっと老け込みましたが、当時の健さんが男らしい二枚目の方でまあ両方ともちょっとお年はめしてたんですが、小柄で繊細なお顔の和麻様と並ばれると、もう死ぬほど幸せ、といっていた年上のお手伝いの方がいたくらいでした。」
………明らかに、いらん情報がまじってきてるんだけど、と空斗は突っ込みを入れるのを我慢した。
「…まあ、それ、ちょっと変態の視線は入ってるけど、下ねたじゃないよね…」
「ええ、まあ下ねたではございません。」
きっぱりと李々は答えた。
そして朝の光を恨めしがるように、視線を木々の間に落とす。
「ですが、その頃はそれほど厳しい規制が設けられていたのです。それどころか。下ねたどころか、人の悪口も絶対に禁止されてました。」
それは確かに厳しい。言われるなというと、なお難しい。
「おかげで、この屋敷に住む人は皆無口で勤勉で清らかな人々だと私たちは信じておりました。」
「………うーん………」
「そこで、和麻様は実は洋酒の入ったケーキが実は一番の好物だったのですが、彼は酒癖が悪く、酔うと老若男女関係ないキス魔なお方でしたので、洋酒の入ったケーキはかたくかたく禁じられておりました。」
「み、魅厘さんのために?」
「そう、魅厘様のために。」
魅厘さんってそこまで純粋培養のお姫様だったのか…と軽く空斗はショックをうける。その老若男女関係ない、という解説もちょっと空斗には信じられないのだが…。
「それでも、和麻様は与えられた仕事をこなしていました。毎日毎日、痛い思いをして、お体のためになんとかくるみ餅で我慢してください、という私の言葉をきいてくださって、なんとかくるみ餅で。」
「………あの、なんでくるみ餅なの?」
そう、そこが一番の最初の気になりポイントだった。買うのにだいぶ並んでまで。
「枝豆餡ですから、甘みも自然でヘルシーかと思って…」
少しだけ、李々の言葉が細くなった。ちょっとだけ彼女は後悔を覚えているのだ。
それでくるみ餅買うのに並ぶの専門のお手伝いさんか…。
「ですが、もともと衝動を全部食欲に変えている訳ですので、食べたいものが食べたい訳ですよ。その欲望がどうにもおさえられなくなってきたところに、急にそれまでのさばっていた悪人超能力者が大量に捕まりまして、和麻様の能力ではどうにも精神的にも、限界がひしひしとせまっておりました。…彼は、ちょっと仮眠をとってくると言っては、うわごとで洋酒のケーキ、洋酒のケーキ、とくりかえして…」
痛々しい。周りで見ていた李々達は耐えられないだろう。
「ある日、能力の発作を起こしてぜいぜいと息をつきながら、「李々、愛しているから洋酒のケーキを買ってきて…」と切れ切れに言われまして…」
「そこで、洋酒のケーキを…」
そこで、李々の憎らしいさわやかさが発動した笑顔。
「私が渡したら、私もしかして食べられちゃうかも、と思ったので、そこで健さんに頼みました。」
ぐ、ぐーーーーーぐーーー、と空斗は謎のアクションをとりながら、李々の胸ぐらをつかもうと思ったのだが女子なので我慢して、肩をつかんだ。
「なんでそこで犠牲になってあげないの…?君は極悪人か」
「ちょ、ちょっと、私の身の危険も考えてくださいよ!当時の私十四歳ですよ!?琉留ちゃんと同じ顔ですよ」
ね、ね、にこーと無理矢理微笑んでごまかす李々に信じられない思いを抱きつつ、空斗は肩の手を外した。
「で、健さん無事だったの?」
「無事というか、まあ。ぶちゅーとはされたんですが…それがですねー、健さん魅厘様に皆の前でかわいそうだから、このケーキ食べても大丈夫って言ってやれ?ってお願いしたんですよ。で、皆を集めて説得して。感極まった和麻様がもう「健、愛してるぅぅぅ!!」とかいいながら…」
「うわあ…」
大変なんだろうけど想像したくないー。
「もう、男性同士と言っても見目麗しいもの同士なんだからもうちょっとなんとかなる外観だと思ったんですけどねえ…どうも、その…あの時の和麻様、けだものでしたね…」
「君、良かったと思っただろ?」
思わず突っ込んでしまった。
「あの勢いでぶちゅーってされたら、うなされて夢に見ます…」
李々は思い出すのも恐ろしい、と胸に手をあてた。
朝なのに、まだ蒸し暑いのになんだか寒いくらいだ。
「で。健さんは…」
「もう、それが、まあ驚かれはしたんでしょうけど、いつもの様子で、にこにこしながら良いから食べろ、と…」
男前だなあ、健さん…。
俺もほれそうだよ、と内心で空斗はおもった。
「もうその時、和麻様泣いてらしたんですが、それがもう涙じゃなくて内蔵が出てるような男泣きで…私の良心はあの時最大限にいたんでましたよ…」
「君はもうちょっと反省しなさい…」
ちょっとさわやかな風に、木々のざわめきがその声をかき消したのでちょっと良かったと思った。
「そこからが本当のひどいところなんですが、まだ聞く余裕ありますか?」
と、李々がちょっと気遣ってくれたので、空斗はうーん…まあ、ここまで聞いたし、と一応生返事的に答えた。
「魅厘様が何の予備知識も無いのにそんなシーン見たじゃないですか、もうそこで「健が和麻様に食われるーーー!!」ってパニックを起こしましてね。それを見た長老がいきなりこの育て方やっぱ駄目だ、って急に方向転換しやがりまして。
皆月家は、いきなり「下ねたも悪口もかいきーーーん☆」になりました。」
「………」
もはや突っ込む言葉もでてこない。
「今まで抑圧されておとなしい言動でいた方達が、それはもういきなりとんでもない言動の嵐でしたよ。ぴーとかぴーとかぴーとか」
いやいや、それ具体的な単語を出して自動的に音声消されたピー、じゃなくて最初からピーって発音してるんじゃん。まあ、李々にいきなりそんな具体的な単語をだされてもものすごく困ってしまう訳だが。
とりあえず、ここまでのまとめで李々の話術がものすごく技術高いのは解った。全部伏線拾ってつながってるし…。
「それがあんまりひどかったんで、お手伝いさんはお目付役の琉留ちゃんと私だけになりまして。そういうことなんで、あんまりこのおうちの過去は気にしちゃ駄目ですよ。こんだけしゃべったんだから、十分でしょう?」
といって、李々は笑って言った。
「ちょっとしゃべりすぎました。自販機のジュースでもいいので、何かおごってください」
「解った、今度君にくるみ餅買ってくるよ…話じゃ君は食べてないんだろ?」
「まあ、よくお分かりで。ありがとうございます。」
話賃としては、まあ安いものだろう。昔の話を、昔の傷をうかつに掘り出してしまったのだ。それにしても、この残暑。まさに何かの残滓を思わせる嫌な暑さ。
「もう秋ですのにねえ…」

「あれ、この話…時間がいつか言ってないのに、いきなりあの時十四歳とか言ってておかしくない?」
「おかしくないですよ。私、誰が何した記憶は確かですが、具体的にいつかってきおくがちょっと怪しいんです…えっと、計算すると七年前ですが…」
「なんで十四歳って明言できるの?」
「事件の前後にそういう記憶があったんでしょう、と思いますが…」
「ちょ、ちょっと待て。君たち今二十一歳じゃないかそれじゃ。俺その頃ランドセルだよぎりぎりだけど」
今彼は十八で大学入って9ヶ月目。そろそろ家をでようかと検討しているところ。
「そうですねー納得いかないけどそうですねー」
「な、納得いかないなあ…魅厘さんは?」
「その頃十七歳?だったような…なので…二十四歳ですねー」
「女性の年はしつれいだったかな…?」
「聞いてから逃げないでくださいよ」
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