にざかな酒店

正義の殺人第一話

というわけで、唐突に刻停間ワールドに統合される前の世界の鳥野と貴志美のお話です。
シリーズタイトルとしてなんとなく正義の殺人としてつけましたが、実際には殺人は起こっておらず、なんというか、「そんなもん?」という事件をつづっています。
あるかもね的な感じの緩いノリで、どうぞ。

鳥野浩太は塾の講師のバイトをしながら、このごろの事件のスクラップをしている。一応恋人らしき貴志美諒子とは同僚だ。恋人らしき、とかいいつつ恋らしき展開はいっさい無いので、そもそもそのことは周りには言っていない。
どうも一方通行だし、そもそもそういう感情が貴志美にはないのではないかと鳥野は疑っている。
今日も興味を示してきたのは、このごろの事件のスクラップ。これだ。
「これ、被害者見覚えのある子ばっかりだねー」
そう、「子」っていう表現に被害者の個性が秘められている。
最近の暴行事件の被害者は、皆子供だった。
「見覚えのある子って?」
「トリノ君、鳥頭だからね。ほら、この子、うちの塾にも通ってた子じゃないの」
「他の子は、なんで知ってるんだ?」
「みんなこの辺の学校の子たちだよ。もう、しっかりして」
「…あれ、そういえば、皆おんなじ制服だな。」
貴志美は今更、と言いたそうにでしょう?と念を押した。
「さらに言うなら、この子らの共通点。解る?つまんない事件だよ。」
「ん?共通点?年?」
「うん、年はそのまんまそうだけど、言い方を変えれば解る。未成年」
ああー、と鳥野は嘆息した。
「酒かタバコか」
「で、全員同じ制服って来たら、先生ががんばりすぎちゃったしかないよ」
「…でも、暴行ってきたら、穏やかじゃないな。たまたまで、他に原因があるとか」
「百歩譲って犯人が先生じゃないとしても、それはないね」
っていってもなあ。と鳥野は頭をかく。
「酒やタバコで、暴行するか?そりゃ、悪いのは悪いだろうけど、本人の問題って感じがしないか?」
貴志美は冷たく突っ込みをいれた。
「でもこれ、進学校」
「………あー………」
鳥野は、あまりに的確な突っ込みに、もはや言葉が紡げなくなった。
「先生かな、そりゃ…生活指導も大変ですねはい。で、これ…犯人探ししてなんとかなると思う?」
「まあ言う事はできるけど、無駄だと思うな。いいんじゃないの、被害者側もいい薬に…なるかな」
いや、ならんだろう。なんで暴行されたか絶対解ってないから。
悪い事をしたから、罰をうけるとはならってはいても、自分が、何故、とは必ず思うものだから。そして、それくらいのことで罰を受けるとは思っていない。
自分がやったこと、はあくまで自分がやったこと。
他の誰にも言われないものだと思っているから。
そして、誰かに罰を与える事は、今の社会では一般人には許されていない行為だ。
「っていうか、こういうのってリンチ扱いになるんだろうな…」
「でも、昔の映画じゃ、電車の車掌さんも結婚式で飲酒運転してたし、家庭でも普通に子供に梅酒のませて休ませたりしてたんだよね。何が悪いとかって、時代で決まってしまう事なんだよ。寂しいけどね」
「今は確かに酒もタバコもイメージ悪いからな。加えて、本当に先生が犯人だとしたら、生徒が言う事聞かずにずっと悪いタバコや酒を飲んでることに強迫観念を覚えるだろう。いわば、自分の仕事をずーーーっと妨害され続けてるわけだからな。
んで、これ暴行事件になってるから、罰を与えること、自体に快感を覚えだしたりしたら、もう暴行する事が目的になってしまって後はパーだ」
結局ルールなんだよ。個人の正義がどうとかじゃなくって。と、ため息。
「ま、俺たちが気づくくらいだから、上の方じゃもうとっくに気づいてるんだろう。諒子は、どうすると思う?」
貴志美はしばらく考えた後、意図的に冷たくした言葉で言った。
「被害者の親たちがさわいで、どぼん、かな」
「もめるだろうな。かといって、かくまったりするわけにもいかんしな」
「人間何が悪いって人間だから悪いんだよねー」
とっとっと、と貴志美は帰る体勢をとって出入り口に向かっていった。
「トリノ君も、わざわざそんなスクラップ取ってるんだから、何か病巣があるんじゃないのー?」
そういうことは、十分に距離取ってから言うな。
「っていうか、そのスクラップ。どこから入手したのかな?ただの暴行事件なのに、被害者の写真が全部そろってるなんて、変」
「これは塾長がだな…いいだろ、そんなこと」
「おかしい趣味だよ。」
「いいじゃないか、こうやって興味のある人間が二人つれてるんだから」
「一緒にしないでよー。私はつまんない事件って言ってるじゃないの」
「つまらなくてもこの事件からはいろいろ学べるじゃないか」
「小さい悪から摘んでくのも性格悪いってこと?」
身もふたもない言い方に、鳥野は「あー…まあ…」と言葉を濁した。
野放しもわるいんだけどなあ…。
「とりあえず、つまんない事件より今の仕事だよー。まだかえって教材作らないと」
そんなもんだよなー…。

で、結局。犯人探しというか、被害者にそれらしい話をしたところ、犯人は教師ではなく、そこらのパチンコに負けてむしゃくしゃしてたおっさんが、たまたま入った店で教師グループと意気投合して、んじゃそいつらなぐってやるわ、お前らのために!となったのが表にでなかっただけの事件だったという話だった。…うん、というか、表にだせんよなあ…。
人間社会は、奥が深い…。
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