にざかな酒店

疲れ探偵 ある不注意の死

あー、今回の疲れ探偵、微妙に笑うとこありませんので…。
いつもなぜか不謹慎なところで笑うとこを用意しているのですが、今回は割と真面目に中途半端な感じです。
はい、続きでどうぞ。
疲れ探偵ある不注意の死

あー、それにしても…と、スーパーで今日の野菜を見ながら、通称疲れ探偵、本名塚田公平は回想していた。
本当に、最近の高校生ってひどいなあ、さっきの相談、なんだあれ。
その相談とは、ある女子高生がビル建設現場の下を歩いていて、崩れた足場の下敷きになった、というものだったのだが、どうやらその後ろを歩いていた男子高校生も一緒に下敷きになって両方なくなっていたという話だった。
それ自体なら、ただの事故だろう、ということで話を聞いていたのだが、その話を持って来た女子高生の話がなんだかおかしい。
「もしかして、彼女は彼に現場に連れ込まれたんじゃ…」というのだ。
しかし、ルートから考えて、普通に彼女の家の近所だし、連れ込まれるような感じの場所ではない。
連れ込むのだったらあんな外っ側じゃなくて、奥の方だろうと思う。
そんな話をしたら女子高生はそんなことない、そんなことない、と繰り返すのであった。
おかしいのは、もしかしたらこっちの方なんじゃないか、そう思った疲れ探偵は「もしかして君がそういう手引きをした、とか?」と聞いた。
「ち違うわ!!私は、あんまり彼が彼女を好きっていうから、私のこと振っといて、だからそれなら襲えばいいじゃないって言っただけよ」
………おい。
なにがそれなら襲えばいい、だ。
それ、なんの教唆犯でなに死者の名誉冒涜しまくっとんの。
もはやツッコミをする気力も無くなるほど、げんなりとした疲れ探偵は、思わず女子高生を追い返したのであった。いいでしょ、事件性っていうか、どう見ても事故だし。

はああ、と、いつものスーパーのパンコーナーでため息をついていると、クロワッサンのご婦人こと久呂佐和子(くろさわこ)がいつものようにクロワッサンをカゴに入れているのが見えた。
「ああ、久呂さん」
「あら、探偵さん」
いつあっても会話をする仲でもないのだが、なんとなく顔なじみになっているので、見るとホッとするのであった。特に、こんな感じのしょうもない相談を受けた直後なんかは。
「最近の高校生ってひどくないですか?」と、疲れた探偵はいう。
「まあ、ひどいにも色々と意味がありますが…最近の子は確かに進んでいますね」
あまり言い当てられたくはなかった、思っていたことをそのまま言われ、疲れ探偵は、こほん、と咳払いを一つ。
「そういう行為の面だけではね。ですが、全然その、世間のことは学んでいないわけでして。そういう情報が多いからとかそういう問題ではないと思うのですが」
「もしかしたら、理性的な意味でストッパーになるようなものが薄いのかもしれませんね」
「そうなると、育ち方とか、脳の分野になりそうですね。暴走が止められないわけだ」
「今度はまた何か、困った事件ですか?」
「事件というか、事故のようなんですが。高校生が二人、建設現場の下敷きになったとかいう」
よく考えたら被害者の名前なんかも聞いてなかったなあ、と探偵は端的に話した。
「ああ、それは…どう考えても事故ですよね、まさか現場の人が事故起こそうとしたわけじゃないのですから」
「ですよ、ねえ…なにを思い余って相談に来たのやら」
「何かやましい気持ちでもあったのでしょうか。」
「ああ、それは…」
この人にそれは説明したくないなあ、と探偵はモニョモニョと口ごもった。
「なんて言っても、死人は口なしですから、今更どうしようもないですが…」
「死人の名誉、なんてどうしていうかっていうと、それですよね」
と、久呂は薄く微笑んだ。
「反論できませんからね。生きているならば、反論もできるでしょうが」
「また事故なんて…相談に来た子も気持ちの整理もついてないのだと思いますよ」
「どうやら、三角関係だったようです」
一言だけ、探偵は解説した。
「まあ…」
「他の二人がそれをどう捉えていたのかはわからないのですが」
「事故が起きてしまったので、それ以上展開しようがなかったわけですね」
そう、そしてこの件は、残された一人以外には、これで終わりなわけで。
探偵と久呂の会話も、それ以上は展開のしようがないのであった。
男子生徒がその時なにを考えていたか、その部分が一番肝心の部分なのだが、肝心の部分が一番確かめるすべがない。
残された女子がそんな相談をしなければ、「ただの事故」だっただろう。事件なんてものは全てが中途半端で、全てが明かされるわけはない。それこそ、テレビドラマのようにはーーー。
中途半端な事故に、中途半端な感情、動機。
これが現実の事件だろう。
なのにどうして嫌なものを見たがってしまうのか。誰かそれを止めないのか。
悩み、そして、疲れ。こんなことをいつまで繰り返すのだろう。
現代にはほつれた糸がそこらに引っ張って欲しいように、先を出しているのだった。
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