にざかな酒店

疲れ探偵 応援ソング

というわけで、疲れ探偵にしようかノンシリーズのホラーにしようか、と悩んだネタですが。
最初は出てきた女子高生の一人語りで、とも考えてましたがさっくりと疲れ探偵側からかなりあっさりな形に落とし込みました。では続きでどうぞ。
疲れ探偵応援ソング

また、変な相談を受けてしまった。
「私、人を殺したかもしれないんです…」
って、そんなこといつものスーパーの前で言われても困る。っていうか、君、登校時間だろ、今の時間。ちゃんと学校に。…人殺したら、普通に登校してる場合じゃないな。と妙に冷静になって私は居直った。
「そういうことは、もうちょっと人のいないところで。ちゃんとかいつまんで話してください。なんで君は殺意を抱いたのか」
「応援ソングなんです」
「は?」
「世に溢れる、人を応援する。私も好きな歌手を彼女も好きだったんです。」
またわからんこと言ってる。思春期の女の子って、アホだろ…。
「私のこといじめといて、応援ソングっていじめの応援ソングかい!って思ったら彼女の頭がスイカ割りのスイカのように」
「待て待て待て待て。夢オチとかないの、それ」
「その子のお名前はなんていうんですか?」と、私が焦っていると、横から通りがかりの、何度か見ているクロワッサンのご婦人と勝手に呼んでいる彼女が口を出した。
「ああ、またクロワッサンですか。」
なぜかちょっと笑顔になった自分を少し恥ずかしく思った。
「ええ、朝食にちょうどいいので。あ、でもたまに和食もありですよ」
「ああ、美味しいですよね、味噌汁も」
「一人だとインスタントになっちゃいますけどね、今はいいのいっぱい出てますから」
「あ、ちょ、ちょっと待って普通の会話しないで」
と、女子高生。いじめられてると自称しているだけあって、結構美人なことに今気付いた。
「っていうかね、君、応援ソングくらいで人殺してたら、一体人生で何人殺すんですか。夢だから気にしない」
「ゆ、夢じゃない!!本当に彼女死んでるもん」
「彼女の名前は?」
「木嶋百合子」
クロワッサンのご婦人はしばらく考えて、「ニュースで見ましたが、その人は確か夜遊びしていて変質者に襲われて死んだと言ってましたが?」
「変質者?知らない間に、そんな事件が?」
「女の子が犯人ではないような事件です。」とクロワッサンのご婦人は声を潜めて言った。
「あ、ああ。じゃあ、それ、罪悪感に襲われて、そう思ったんだね。でも、それは偶然の一致で君のせいじゃないから気にしない。だって、変質者だろ。」
今時珍しくない、といえばだいぶ問題だが。
「本気に、取り合ってくれないんですね」
女子高生はつぶやいた。っていうか、本気のように思えないんだもん…疲れた探偵にはこれが限界ですよ。
「さつーいはーなんーどーでもー」
あ、なんか小さく歌ってるけどその歌やばい。いろんな意味で。
「君、ダメダメダメ。そんな歌ダメだからね。ちゃんと応援して、君の人生」
「あなたの人生が傷ついたわけではないんですから、しっかりしてください」
「そうだよ」
なんだか女子高生はぐずぐずしているけど、僕らはとりあえず買い物するところだから、と、スーパーに入った。

「っていうか、やばいですね、今の」
「…そうですね、思春期は色々と袋小路ですから死ぬの死なないの色々考えますよ」
クロワッサンさんがそのようにしみじみというので思わず聞き返した。
「そんな時期、ありました?」
「…自分が死んだら、とかは考えましたが…今のように犯罪はそれほど横行してなかったように思うので彼女のようには思いませんでしたけど…」
ですよねえ。
「まあ、立ち直って欲しいですよね。きっと夢にすり替えがされてると思うんです。彼女の望みがそうだったように思ってしまっては、彼女の人生自身も…」
「そうですね…」

世に溢れる応援ソング、か。
一体誰を何を応援するのだろう。そのこと自体が、疲れた現代を象徴しているようで、疲れてしまう。
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