瀧澤美奈子の言の葉・パレット

政を為すに徳を以てす。たとえば北辰の其所に居りて、衆星の之に共(むか)うがごときなり。

書評記事の掲載について

2015年11月22日 | お知らせ
本日、今月の私の書評記事が信濃毎日新聞に掲載されました。
『医者と患者のコミュニケーション論』里美清一著(新潮新書)について書きました。

 著者は癌の化学療法の臨床医で、研修医に向けた「患者とのコミュニケーション論」という設定で書かれています。軽い語り口ですぐに読めますが、著者がマキャベリの『君主論』を意識して書いたというもので、解釈は難しかったです。
 たとえば、
 「大学病院で電子カルテが最初に導入された時、医者がずっと患者の反対側にあるモニターばかり眺めているものだから、患者が「こっちを向け」と後ろから殴りかかった、という話がある」というエピソードに対して、「向こうは素人である。反論するより、そう思わせないようにするのが肝腎なのだ」
など、方便としてのコミュニケーション「術」、つまり患者から苦情が来ないようなノウハウを伝授する目的で書いているのかと思わせる箇所が随所に見られます。

 私事ですが、数年前に義父を癌で亡くしました。転移が見つかったとたんに医師が冷たい態度(と感じて)家族で憤り、担当医を交代してもらった経験がありますので、このようなノウハウでしか、コミュニケーションの円滑化が計れないのかと思うと暗澹とした気持ちになりました。
 病気になって気弱になりがちな患者にとって医師は全面的に頼りたい存在なのに、お医者「様」ではなく、同じ人間だという、いわば「病院リテラシー」を身につけさせようという意図なのか、あるいは当たり前のことを教訓めいて書くのが嫌だったから、敢えて露悪的に書いているのか。読後、時間がたつにつれ、なぜか後者なのだろうなという思いが強くなってきました。日々重篤な患者が押し寄せる医療現場ゆえの医師の苦悩を垣間見ることのできる貴重な一冊・・・・かもしれません。

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