mimi-fuku通信

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特別展「対決-巨匠たちの日本美術」 ~東京国立博物館。

2008-07-18 22:06:06 | 美術・芸術・創造

特別展「対決-巨匠たちの日本美術」 

会  期 2008年7月8日(火)~8月17日(日)
会  場 東京国立博物館 平成館 (会期終了)
時間   9:30~17:00 
休館日 月曜日
(月曜が祝日の場合は翌日が休館)

 *観覧料金:一般  1500円:大学生1200円:高校生 900円

 <対決、巨匠たちの日本美術>

  1、運慶 vs 快慶 (彫刻) 人に象る仏の性
  2、雪舟 vs 雪村 (水墨) 画趣に秘める禅境
  3、永徳 vs 等伯 (絵画) 墨と彩の気韻生動
  4、長次郎 vs 光悦(工芸) 楽碗に競う わび数寄の美
  5、宗達 vs 光琳 (意匠) 画想無碍・画才無尽
  6、仁清 vs 乾山 (陶磁器)彩雅陶から書画陶へ
  7、円空 vs 木喰 (彫刻) 仏縁世に満ちみつ
  8、大雅 vs 蕪村 (南画) 詩は画の心・画は句の姿
  9、若冲 vs 蕭白 (絵画) 画人・画狂・画仙・画魔
 10、応挙 vs 芦雪 (絵画) 写生の静・奇想の動
 11、歌麿 vs 写楽 (版画) 憂き世を浮き世に化粧して
 12、鉄斎 vs 大観 (絵画) 温故創新の双巨峰

*対決:展示品リスト
http://www.tnm.jp/jp/exhibition/special/200807kokka_list.html

 7月9日に東京国立博物館で開催されている特別展「対決-巨匠たちの日本美術」を観覧してきました。
 美術品を対決させなくてもと感じていましたが、同時代の作家を並べて展示してみると意外な発見もありました。
 鑑賞してきた今回のお薦め作品の感想を書いてみようと思います。

*国宝:慧可断臂図 雪舟等楊筆/愛知・齊年寺蔵

 「禅宗の初祖である達磨太師が、少林寺において座禅中、長陽の神光と名のる僧(後の慧可)が、彼に参禅を願い出たが許されなかったので、自ら左腕を切り落とし、決意のほどを示したことでようやく入門を許された。」という場面を描いた作品。
 
 京都国立博物館の常設展で何度か鑑賞したことのある作品ですが、国宝に指定されていたのに驚きました。
 調べてみると2004年に指定されています。
 この絵の見所は、達磨の表情の強さと、眉毛の一本一本まで神経を集中して描かれた筆致の凄み。そして、神光の切断された手の切り口に薄っすらと描かれた赤い描線。
 ただし、単眼鏡等の道具がなければこの作品の凄さを知ることは難しいように思います。
 また、岩(洞窟?)の描写と人物の位置関係のバランスの良さは雪舟芸術の中でも異形な傑作として認められます。
 雪舟77歳の作品。

*国宝:松林図屏風 長谷川等伯筆 /東京国立博物館蔵 ~7/27

 言わずと知れた日本美術の傑作。
 以前にNHKスペシャルで紹介されたことで、大衆にも認知される作品。
 私が、この絵を見たのは6回目。
 ただし、今回の展示は、黄色がかった照明を使用しているために、作品の持つ冬の厳しさや、竹先を叩くように描かれたと言われる力強い筆致がぼやけて見えました。
 照明が絵に与えるイメージを考えさせる展示になっています。

 私が一番最初に見たのが、まだ平成館が完成するずっと以前の本館での常設展。
 その時は、蛍光灯だと思うのですが、光が強すぎて雪山の薄墨を確認するのがやっとでした。
 次に見たのが1997年の京都国立博物館:本館「桃山絵画展」。
 次が平成館での2000年の「国宝展」。 
 また、
東京国立博物館:国宝展示室で、2度鑑賞しています。
 1997年の京都国立博物館での展示では、新発見の「松林図屏風」と共に展示され、国宝に認定されている旧来の「松林図屏風」が持つ、等伯の描く本物の力強さに感動したことを思い出します。
 東京での展示は、機会があれば、本館:国宝展示室での鑑賞をお薦めします。
 
*松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風 狩野永徳筆/個人蔵  
*国宝:花鳥図襖(梅に水禽図) 狩野永徳筆/京都・聚光院蔵 ~7/27
*花鳥図襖(松鶴蘆雁図) 狩野永徳筆/京都・聚光院蔵 7/29~

 今回の展示会の目玉作品のひとつ。
 狩野永徳の新たな真筆と認められた幻の屏風が、「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」です。
 もとは、茶人としても有名な原三渓(実業家:横浜)の所蔵品で、狩野元信作として伝来したものです。 
 辻惟雄東大名誉教授は、描き方に国宝:「花鳥図襖」との共通点を認め永徳の若書きの作品としました。

*洛外名所遊楽図屏風 狩野永徳筆/個人蔵  

 もう1つの目玉が、昨年の京都国立博物館での<狩野永徳展>で初公開された「洛外名所遊楽図屏風」の東京初公開。
 狩野博幸同志社大教授が、京都の古美術商で見つけ、永徳作とされる国宝:「洛中洛外図屏風」と、筆遣いや絵の具の質等の共通点を認め、永徳作の作品としました。

<mimifukuの見方。>

 ただし、私の目には、2作品とも永徳としての強さが認められず疑問に思いました。
 「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」に描かれる眼力の強さが、聚光院蔵の作品とは、比較にならないくらい弱い感じがします。
 特に有名な片羽根を広げた小禽図(小鳥)の目は、キャッチ・アイの技法が用いられているのかと驚くほどの精妙に描かれたもの。
 しかし、逆向き同構図で描かれた叭叭鳥の姿に凄みを感じることはできませんでした。

 また、「洛外名所遊楽図屏風」は、作品の大きさと、絵画の持つ暗いイメージから、室町時代の作品と認識します。
 指摘される国宝「洛中洛外図屏風」も、永徳一人が描いた作品ではなく、狩野派の工房での作品と考えられ、そうなれば筆遣いの共通点も曖昧な主張になると感じます。
 しかし、すべてを熟知し、自他ともに認める日本の美術界の権威の、ご両人が認めたことに異論を唱えることは、素人の勘繰りとして捉えてください。

 落款や伝来が認められる狩野永徳作(真筆)。
 狩野永徳として伝わるが確証がない、<伝・狩野永徳>の表記のように、
 その作品に対する過去の確証が得られない以上、
 新発見は、<認・狩野永徳>としたほうが後世の研究には役立つように感じます。


*重文:赤楽茶碗 銘無一物 長次郎作/兵庫・頴川美術館蔵  
*重文:赤楽茶碗 銘加賀光悦 本阿弥光悦作/京都・相国寺蔵
*重文:鶴下絵三十六歌仙和歌巻 本阿弥光悦書・俵屋宗達画共作
  /京都国立博物館蔵  

<関連展示:本館1階13室>
 黒楽茶碗 銘 尼寺 長次郎 安土桃山時代・16世紀 2008/7/1~ 2008/9/28
  黒楽茶碗 道入作 江戸時代・17世紀 2008/7/1~ 2008/9/28
  黒楽四方茶碗 銘 祥雲 一入作 江戸時代・17世紀 2008/7/1~ 2008/9/28  

 名作:「加賀光悦」を久しぶりに見ました。
 大阪の萬野美術館が所蔵していたもので、心斎橋通りにあったビルの13階の展示室で見た時、なんて大振りの茶碗だろうと感じた作品です。
 歪であって豪快で。
 日本の茶碗の中で最も好きな茶碗の1つです。
 しかし、今回長次郎の赤楽茶碗「無一物」と並べて展示されることで、長次郎の品の良さを感じましたし、利休の追求した侘び茶の真髄が、こうした主張のない形状の中に見出すべきかと感じました。
 取り合わせの美の中で、光悦茶碗の強さの主張は野暮かも知れません。
 ただ、形状の粋では、光悦茶碗と肩を並べるのは織部しか見当たらないように思います。

 「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」は、日本デザインの傑作中の傑作。
 なぜ、国宝じゃないの???

*萬野美術館 
 萬野美術館は、実業家萬野裕昭氏が、戦後一代で築きあげたコレクションで、昭和63年に開館。
 国宝「玳玻(たいひ)天目茶碗」や、丸山応挙の絵画技術の頂点と言われる 「牡丹孔雀図」等、質の高い作品を数多く蒐集、展示されていました。
 しかし、平成16年2月末をもって閉館。 
 作品の多くは、京都・承天閣美術館に寄贈されています。

 
*国宝:風神雷神図屏風 俵屋宗達筆/京都・建仁寺蔵 8/11~
*重文:風神雷神図屏風 尾形光琳筆/東京国立博物館蔵 8/11~
*重文:蔦の細道図屏風 俵屋宗達筆/京都・相国寺蔵  

 「風神・雷神図屏風」は、8月11日から一週間の展示で、お盆と、会期の末期と言うこともあり大混乱しそうです。
 展示日の近くに改めて、この作品は記事にしようと考えています。

 「蔦の細道屏風」は、宗達の粋を感じるデザイン感覚に秀でた作品。
 この作品も萬野美術館から、承天閣美術館に寄贈されたものです。


*色絵鶴香合 野々村仁清作/東京・サントリー美術館蔵  

 仁清 VS 乾山は、色絵磁器のスーパースター対決。
 京都の持つ華やかさとお洒落な構成は、日本陶芸の花として君臨します。
 お薦めの作品は、通常、京焼ではあまり注目されないフォルムの美。
 鶴のフォルムは、どの角度から見ても破綻がなく欲しいなと感じました(笑)。


*国宝:楼閣山水図屏風 池大雅筆/東京国立博物館蔵 
*楊柳青々・一路寒山図屏風 与謝蕪村筆/個人蔵 ~7/27
 
 蕪村の絵画(南画、文人画全般)は、あまり好きな描法ではないのですが、
 「楊柳青々・一路寒山図屏風」の大胆さは驚きました。
 あまり知られていない作品だと思いますが、このような出会いがあるから美術館に足を運ぶのだと感じます。
 大雅の「楼閣山水図屏風 」は、常設展で何度も拝見していますが、南画としては堂々と描かれており、いつもながらキラキラした画面は見事です。
 

*重文:群仙図屏風 曽我蕭白筆/文化庁蔵  
*寒山拾得図屏風 曽我蕭白筆/個人蔵  
*重文:唐獅子図 曽我蕭白筆/三重・朝田寺蔵 
*旭日鳳凰図 伊藤若冲筆/宮内庁三の丸尚蔵館蔵 7/29~ 
 
 
蕭白の「群仙図屏風」は、蕭白の最高傑作。
 保存状態の良さと、信じられない色彩。
 更に極密に埋め尽くされた筆運びは、天才と呼ばれるに当然と感じます。
 しかし、その描かれた主題と絵の持つオドロオドロシイ表現は、狂人の名を欲しいままにします。
 京都国立博物館所蔵の重文「寒山拾得図」とは違った、「寒山拾得図屏風」は、蕭白の奇才ぶりを遺憾なく発揮しています。
 美術に関心のない若い方にもお薦め。
 時代の流れの中で異端とされた<蕭白ワールド>は、現代の日本美術界に不滅の輝きを放ちます。

 若冲作品の中でも最も細密精緻に描かれている傑作のひとつ、「旭日鳳凰図」は、7月29日からの展示です。

 両者の作品は、単眼鏡などの拡大鏡で覗くと、たっぷり1時間は、異次元空間に浸れます。
 

*重文:保津川図屏風 円山応挙筆/京都・株式会社 千總蔵 

 この作品は過去に一度だけ、東京か京都か、どちらかの国立博物館で見たと記憶していますが、実はあまり良い印象を感じる作品ではありませんでした。
 特に構図の不自然さに違和感を持っていました。
 しかし、今回の照明の中で、屏風の空間に配置された金砂子のきらめきが、構図の不自然さを補い、それと同時に細密に描かれた波濤が目に飛び込んできました。
 応挙の大画面屏風は、対峙する瞬間で好き嫌いが決まります。
 細密と思われていたものが乱雑で大胆に見えたり、写真で見ると不自然と思える構図が、当然の意味を成したり。
 応挙の不思議は、写実の実験と、西欧との繋がりがヒントのようです。
 応挙の本当の凄さを、私はまだ知らないのではないかと感じます。


*せっかく東京公立博物館へ足を運ぶなら下記作品もご覧ください。

 <本館展示>
 「大日如来坐像」(東京・真如苑蔵)公開
  2008年7月10日(木)~2008年9月21日(日) 本館:12室 

 今年の3月に、大日如来坐像(だいにちにょらいざぞう)が、海外のオークションに出品されたことをニュースでご覧になられた方も多いと思います。
 重要な美術品が、海外に流出することに危惧した、日本の宗教法人:真如苑が、この仏像を落札したことで、安堵感を覚えた美術愛好家の方もいらっしゃるでしょう。
 その話題になった大日如来坐像が、上記の日時に展示されていますので、お時間があれば本館の方にも足をお運びください。

 
 <本館:特別展示室> 
 国宝:「風信帖」空海筆/京都・教王護国寺蔵
  2階 2室(国宝室)
  公開日:2008/7/8~ 2008/8/3日 
 
 言わずと知れた弘法大師:空海の名作中の名作。
 空海といえば、多くの伝説を日本各地に残された偉大な宗教家ですが、「弘法にも筆の誤り」と言われる程の書の達人としても知られています。
 
 その空海の墨蹟の中でも最高傑作と言われるのが、この国宝:「風信帖」です。
 京都:教王護国寺は、五重塔で有名な東寺と言った方が理解しやすいのではないでしょうか。

 書に興味を持つ方には、推薦。
 一室に一作品の国宝展示室にも是非足をお運びください。


 <表慶館 :特別展>
 2008年7月1日(火)~8月3日(日)
 「フランスが夢見た日本」
 
  パリ・オルセー美術館と東京国立博物館の共同企画により実現した、ヨーロッパのジャポニスムに日本の浮世絵が、どのような影響を与えたかについて、テーブル・ウェアに焦点をあてて、紹介している特別展。

 北斎や広重などの浮世絵の題材に着想を得て作られた、
 1866年~1930年代まで人気を博したテーブルウェア、
 「セルヴィス・ルソー(ルソー・セット)」と
 「セルヴィス・ランベール(ランベール・セット)」
が、元絵に使われた浮世絵の版画や版本と対比して展示されています。

 特に、手描きによる作品である「セルヴィス・ランベール」は、現存する数も少なく、日本初公開になります。
 磁器とは思えない美しい発色や輝き。
 「ルソー」の持つ大量生産品の味気なさと対比してみると、人間の手が持つ限りない可能性を感じずにはおられません。

 特別展ですので、別途料金が必要です。
 工芸デザインに興味のある方にはお薦めの展覧会です。

 


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