*クラシック・ロイヤルシート
『ザルツブルク音楽祭2008』
放送局 :NHK-BS2
放送日 :2009年6月28日(日)深夜
放送時間 :午前1時~午前2時42分(放送終了)
~2009年2月21日にNHK-BShi(ハイビジョン)で放送された番組の再放送です。
既にNHK-hi『ハイビジョン・ウイークエンド・シアター 』で放送された、
ブーレーズ&ウィーン・フィルの演奏会。
ザルツブルグ音楽祭2008の初日のオーケストラ・コンサート。
ハイビジョンの放送では、
堀内修さんの番組案内があり不思議なコメントを披露。
「ブーレーズとバレンボイムがバルトークを演奏するとこうなるのか?」
「2人の巨人がぶつかる時に何が起きるのか?」
「ウィーン・フィルがストラヴィンスキーを演奏するとこうなのか?」
「ブーレーズが指示する明晰は、前衛(最先端)を伝統に変える。」
等など。
オープニング・コンサート2008で演奏された3曲は何れも民族色が強く、
ウィーン・フィルが苦手とされる?作曲家の音楽。
堀内さんの言葉に懸念しつつも番組の蓋を開けてみると、
ウィーン・フィルの演奏史に深く記憶されるべき内容だった。
最初の「優雅で感傷的なワルツ」:ラヴェル(フランス人)作曲は、
一聴すると不調に聴こえる。
まるで“音楽コンクール”を聴いているかのような響き。
フランス訛りとオーストリア訛りの違いが、
アンバランスで不思議な響きとして出現。
フランスの洒落っ気とウィーン・フィルの持つ伝統的で優雅な音色。
聴衆はこれまで耳にしたことがないラヴェルの響きを経験することになる。
2曲目の「ピアノ協奏曲第1番」:バルトーク(ハンガリー人)作曲は、
名演と誉れの高いポリーニの演奏スタイルをイメージして聴くとどこか頼りない。
高齢になっていくダニエル・バレンボイム(1942年生まれ)の、
タッチやアクセントがやや不明瞭で音の切れ(特に残響)は丸みをおび、
打楽器表現としてのピアノ演奏を65歳(当時)の年齢に望むのは酷なのだろう。
また最新のテクノロジー楽器を使用しないウィーン・フィルに、
金管の歯切れの良い爆音を望むのも無理があるだろう。
私達(クラシック・ファン)がバルトークに求める固定観念との違和感。
しかし、
ピアニスト:バレンボイムが全身全霊を賭けた大勝負であることは理解でき、
2楽章のオーケストラとの対話は飽くことなく聴く事ができた。
2度、3度と耳にするうちにバルトーク=バリバリ音楽の印象から、
解放されるのもいいかな?と感じた。
最後のバレエ音楽「火の鳥」:ストラヴィンスキー(ロシア人)作曲は、
前2曲と比較し素晴らしい演奏を聴かせた。
バレエ音楽「火の鳥」全曲は組曲と比較し、
前半部にやや抽象的な音の創りが多いことで組曲ほどの人気がない。
組曲の構成は約25分間飽きることなく弱音~強音のクライマックスまで、
しっかりとしたメロディ・ラインで一気に聴かせ感動の頂点に音楽が終わる。
しかし全曲(約45分)になると音と音の繫がりに効果音的な短い音節で彩られ、
メロディが曖昧になる箇所も多くバレエ(舞踏)のための音楽であることは明白。
演奏会ではやや退屈なプログラムとして認識している。
ウィーン・フィルのストラヴィンスキーもまた、
ストラヴィンスキー特有の野蛮なリズム表現を消化できるかに注目が集まる。
しかし、
演奏されたのは極上に美しい音色を全面に打ち出す音楽だった。
特に前半部の木管楽器と弦楽器との対話の美しさは絶品で、
ウィンナーホルンがソロを受け持ちウィンナー・オーボエにバトン・タッチする、
“イワン王子の登場~王女達のロンド”への美しさは過去に類例を見ない。
また映像の撮り方も特殊楽器(特に木管の)ひとつまでもしっかりととらえ、
音の見えるコンサート映像になっている。
(余談だが楽譜が大写しになるショットも新鮮。)
後半の盛り上がりも野蛮になることなく、
上品で力強いウィーン・フィルの魅力満載。
極上の『火の鳥』全曲だった。
映像を鑑賞しながら今後の演奏会鑑賞もオペラ同様に、
聴くから見る(CD~DVD)に変化していくのだろうか?
音楽評論に捉われない映像で見る音の楽しみ。
クラシックの呪縛(過去の歴然たる名演への固定観念)からの解放。
大衆の支持を得るための関係者の試み(映像制作の工夫)。
近年放送されるHV映像で見るクラシックにそんな事も感じたし、
旧態依然たる音楽評論にも若い波が必要な気がする。
褒めて育てる。
日本の演奏家(特に器楽演奏家)に肩入れした評価も必要なのでは?
音楽(芸術)の評論は角度(見方)の違いで正反対の評価になる。
(総べての方が同じ聴き方をしないし、同じ演奏スタイルを望んでいない。)
聴くから見るの変化がオペラ同様の若いスターを育てるだろう。
この演奏会の映像を鑑賞しながらそんな事も感じた。
(でも統率が必要な指揮者だけは年配の人の分があるのは否めないが。)
ウィーン・フィルが苦手とする民族性の高い音楽。
ウィーン・フィルが奏でるフランスの音楽。
ウィーン・フィルが奏でるハンガリーの音楽。
ウィーン・フィルが奏でるロシアの音楽。
~カラヤンの手によって研鑽されたロシアの調べ。
伝統を重んじるウィーン・フィルの他流試合。
興味深い内容と演奏に新たな発見が生まれた。
<番組の見どころ(2月19日:記帳)>
いつも通りになんとなくNHKのBS番組表を見ていたら、
「すごい情報!見つけちゃいました。」
って感じです。
この曲目リストと演奏の組み合わせを見て、
<血沸き肉躍らないクラシック・ファンはいない。>
と思います。
ブーレーズのストラヴィンスキー:バレエ3部作
(春の祭典、火の鳥、ぺトルーシカ)
と言えば演奏史に残る名演中の名演として名高く、
それぞれ2~3種類の録音が残されています。
今回放送されるブーレーズの「火の鳥」も、
・1992年のシカゴ交響楽団との録音。
・1975年のニューヨーク・フィルハーモニーの録音。
が残されており、いずれもこの楽曲代表盤として推薦される演奏です。
(BBC交響楽団との1911年版もあるようですが…。)
しかも、
驚くことに今回の演奏は、
世界最高との誉れの高いウィーン・フィル。
ウィーン・フィルのストラヴインスキー演奏は、
極めて少ないと記憶しています。
このブログ内で何度も登場した、
1975年:カール・ベームとの来日公演で、
組曲ながら「火の鳥」が演奏されたことがありました。
また、ストラヴィンスキーの全曲演奏となると、
マゼールが1974年に「春の祭典」を録音した以外、
私の記憶に中にはありません。
(2000年8月:ゲルギエフとのDVDが存在するようです。)
複雑なオーケストレーションと器楽アンサンブル。
超絶技巧を要する木管群と迫力ある金管楽器の強烈なアタック。
この難曲をウィーン・フィルを介して理論派ブーレーズが、
どのようなアプローチで料理するのか?
興味は尽きません。
さらに、
ブーレーズ芸術の清華とも言える『バルトークのコンチェルト』。
第45回、第46回と2年連続でレコード・アカデミー賞グランプリ
を受賞したブーレーズのバルトーク。
ピアノがなんとダニエル・バレンボイム。
バレンボイムとブーレーズのこの曲の組み合わせは、
1967年に録音されたものが残されています。
バルトークのピアノ・コンチェルトと言えば、
ポリーニwithアバトの決定的名盤がありますが、
ポリーニwithブーレーズもNHK-BS2で放送されています。
今回の演奏に、どのようなドラマが待ち受けているのか?
ラヴェルもまた、ブーレーズの十八番(おはこ)。
まったく違ったタイプの3曲が披露されます。
驚くべきプレゼントが天から降ってきた。
クラシック・ファンならこの言葉が大袈裟でないことが理解できるはず。
声を大にしてみんなに教えたい。
そんなニュースです。
~下記、NHKホームページより転載。
▽ザルツブルク音楽祭
~2008オープニングコンサート~
【曲目リスト】
Ⅰ「優雅で感傷的なワルツ」:ラヴェル作曲
Ⅱ「ピアノ協奏曲 第1番」:バルトーク作曲
(ピアノ)ダニエル・バレンボイム
Ⅲ「バレエ音楽“火の鳥”(1910年版)」:ストラヴィンスキー作曲
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ピエール・ブーレーズ
< 国際共同制作:ORF/ユニテル>
*2008年7月27日:ザルツブルク祝祭大劇場で録画。