楽しむことが最優先

庭で花や野菜を育てて楽しむ北海道民です。
趣味関連を中心に日々のあれこれを、
マイペースに綴って行くつもりです。

目に眩しいほど色鮮やか

2023-11-10 12:16:00 | 日記
うちの会社にしては、
かなり大きな仕事が舞い込みました。

設計図の用意はさることながら、
予算と必要経費の兼ね合い、
材料発注元の価格調査──……

色々とやることはあるけれど、
そこで終わりではありません。

むしろ、ここからが本番。
自分は更にそれを作らなければなりません。


作業部屋に篭もること数日間──……

物作り職人としての孤独な戦いの末、
ようやく完成した依頼品を社長たちに託し。

『ミルくんお疲れ様
 あとは任せてゆっくり休んでね』

……と言う皆の、お言葉に甘えて。

自分は溜まりまくった疲れを癒すべく、
三日間の休暇を貰いました。



「さて、どうしようかな……」


もうすぐ初雪が降るそうです。

今日は過ぎゆく秋を惜しみつつ、
少し遠出をして秋空の下を歩くことに。

朝は雨模様だったけれど、
すぐに晴れてくれて助かりました。


絶好の散歩日和です。

新品のTシャツに、お気に入りのキャップ。
愛用のスニーカーで準備もバッチリ。

よし、今日は紅葉を楽しみながら歩くぞ…‼︎


色づくモミジ。



実を赤く熟させたナナカマド。



コキアの鮮やかなピンクも良い感じです。




もうすぐ全てが雪に埋もれてしまいます。
来月になれば周囲は一面の銀世界。

その前に思う存分、
この色鮮やかな光景を楽しみたいものです。

まぁ、冬も嫌いではないけれどね。


外の空気は澄んでいて、
季節外れの暖かな日差しも心地良い。

目に映る景色も素敵──……なのだけれど。

まずい。
まだ歩き始めて30分足らずなのに、
早々にトラブルが発生。

胸が擦れて痛くなってきた


新品のTシャツが悪かったのかな……
布地もちょっと、かためだし。

まだまだ足は元気だけれど、
このまま歩き続けるのは難しい。


さて、どうするか──……


あ、そうだ。
胸に絆創膏を貼ってみよう。

これで摩擦から守れるはず。

我ながら名案です。
絆創膏は確か常備薬のポーチに──……

入って……は、いたのだけれども。


「おおぅ……」


この絆創膏、
キティちゃん柄だ

そういえば、前に貰ったんだよな……

まぁ、貼るのは胸にだし。
外から見える部分じゃないからね。


ぺたっ

左右の胸にキティちゃん。
原色バリバリの絆創膏の存在感が凄い。

胸元にだけ漂う、
ピューロランド感

なんだろう、
謎の圧を感じる

とりあえず
うっかり銭湯に行かないよう気をつけねば

こんな状態の胸、
見られたら泣く


気を取り直して、お散歩再開です。

胸の摩擦も薄まり、
安定して歩けるようになりました。

健康って素晴らしいね。


それにしても、
ここ最近の気温は凄く高めです。

とても11月だとは思えません。
歩いているだけで汗ばんできました。

どこかで水分補給しないと……


しばらく歩いていると、
大きめの公園が見えてきました。

せっかくだし、
ここで一休みしよう。

自動販売機もありそうだし、
散歩の折り返し地点としてピッタリです。


平日だけれど、意外と人が多い。

木陰でトランペットを吹く男性、
スケッチブックを手に景色を描き写す若者、
ベンチに座って話に花を咲かせる老人たち。

みんな、思い思いに秋を満喫しています。

芝生の上に舞い落ちる、
落ち葉の鮮やかさも良いなぁ……

目に映るもの全てが絵になる光景です。




平和だなぁ……

なんて思っていると、
それがフラグになったのでしょうか。

突如、背後から響く女性の悲鳴。


慌てて振り返ると、
そこには芝生の上を元気に走り回る犬と、
それを追いかける老人と老婆の姿──……

あー……
うっかりリードを離しちゃったのか……

この広さの公園だと、
車道に飛び出す心配はないけれど。

とにかく一刻も早く捕まえないと、
何らかの事故が──……って……


おい

まて

何故こっちに来る!?

ストップ‼︎
そこのゴールデンレトリバー……‼︎


口に手を当てたまま硬直する老婆
駆けつけようとして力尽きた老人

そして

何故か自分の目の前で、
四足歩行をやめた犬


「うをっ!?」

知らなかった

犬って立ち上がると、
意外と背が高いんだね……

飛びかかって来た犬を
咄嗟に抱き止めてしまったせいで、
このままダンスでも始められそうな状態に。


「す、すみません……っ……‼︎
 うちの犬が失礼を……け、怪我は……?」

「大丈夫ですよ
 人懐っこい子ですね」


尻尾が凄い勢いで左右に振られています。

犬の方に敵意は無く、
単に戯れて遊んでいるだけらしい。

両手で背中を撫でてみると、
嬉しそうに鼻先を擦り付けてきて。


「可愛いですね……‼︎」

猫が大好きだけれど、
犬も勝るとも劣らぬレベルで大好きです。

大型犬のボリューム、
これはこれで素晴らしい……



「孫の犬を預かっているのですがね、
 ちょっと元気が良すぎまして……
 振り回されっぱなしで困りますわ」

「あはは」

確かゴールデンレトリバーは
あまりに人懐っこいがゆえに、
番犬に向かないと聞いたことがあります。

なるほど……

確かにフレンドリーです。
初対面で全力ハグしちゃうくらいだものね。


人の会話を理解しているのか、
していないのか──……

ちょこんと座って、
時々首を傾げる仕草が可愛らしい。



「私が手を離したせいで……
 ごめんなさいね、大丈夫でした?」

少し遅れて老婆、到着。

お詫びにどうぞ、と
渡されたのはティッシュに包まれたキノコ。




「この公園には落葉の木があってね
 今日みたいな日には、
 キノコが良く生えているのよ」

「うちの婆さんはね、
 キノコや山菜採りの名人なんです」

「へぇ……」

せっかくだし、いただきましょう。
なかなか落葉キノコって売っていないし。


そうだ
売るといえば──……


「この辺りに自動販売機はありませんか?
 ちょっとノドが渇いていて──……」

「ああ、それなら良い場所があるわ
 お爺さんは、ワンちゃんをお願いね」


犬を預けたお婆さんに連れられて。
歩き続けているうちに──……

公園から出ちゃったよ?


「あ、あの……?」

「大丈夫、目的地は公園の近くだから
 ほら着いた──……ここよ」

連れてこられた建物。
そこの看板には診療所の文字。


「私たち、いつもここで休憩するの」


お、お婆さん……?

ここは診療所であって、
喫茶店ではありませんよ!?

慌てる自分をよそに、
慣れた手つきでドアを開けるお婆さん。


「あら、いらっしゃい」

「こんにちは
 この人に飲み物をもらえるかしら?」

中から顔を出したお医者さんに、
さも当然とばかりにドリンクをオーダー。

どういうことなの!?


「ここ最近、夏が異様に暑いでしょ?
 熱中症を未然に防ぐために、
 ドリンクサーバーを開放してるの
 だから遠慮しないで飲んでいってね」

焦る自分に気がついたのか、
笑顔で説明してくれるお医者さん。

なるほど

だからこの診療所では、
玄関入ってすぐのところに
ドリンクサーバーがあるんだ……


確かに『ご自由にお飲みください』と、
書かれているのだけれども──……

診察を受けずに、
水だけ飲んで帰るのも勇気がいる気が……


「季節問わず水分補給は怠っちゃダメよ?」

「はい」

「ちょっと顔が赤いわね
 運動でもしていたの?」

「数時間ほど歩いていました」

そんな会話をしながら、
せっかくなので飲み物をいただくことに。

あー……ノドが潤うなぁ……



「それじゃあ念のため、
 心臓の音を聴かせてね

「えっ……悪いですよ」

「今日は他に患者さんもいないし、
 そこの待合室の椅子で構わないから


聴診器を構えるお医者さん。
マスク越しでもわかる穏やかな微笑み。

ドリンクサーバーの件といい、
優しくて面倒見の良い人なのでしょう。

そこまで言うなら──……


…………。

………………。


いや
ちょっと待て

椅子に座った瞬間、思い出した

今、自分──……
胸にキティちゃんが‼︎


「あ、あの」

「どうしたの?」

「えっと、その」


…………。

言えねぇ……


いや、でも待てよ?

心音を聞くのに、
必ず胸を露出させるとは限らない。

シャツの上から聴診器を当ててくれる、
そんな可能性だってあるじゃないか‼︎

よし、ワンチャンある──……


「それじゃあ、
 シャツまくってね」

無かった……ッ‼︎


「えっと……」

「もしかしてタトゥーが入ってるとか?
 大丈夫よ、私は気にしないから」

自分の胸にいる存在はある意味、
タトゥーよりヤバい奴です


「大丈夫よ
 恥ずかしくないわ」

絶対恥ずかしいわ‼︎

このシャツをまくったら、
大変な事になるよ?

ドクターの想像を絶する光景が、
ハローしちゃうと思うよ……!?


何も知らないで、
無責任なことを言わないでくれ

こっちは今、
両乳首にキティ貼ってんだ

これを晒す覚悟なんか持ち合わせてねぇよ


キティちゃんは仕事を選ばす、
色々なグッズや場面で見かけるキャラです

でも

今じゃない
キティがハローするのは今じゃない……‼︎



「あっ、じゃあ、私はお先に失礼しますね」

異様な緊張感を感じ取ったのか、
そそくさと場を後にするお婆さん

自分も逃げたい


「ほら、あなたも早く」

あー……これ、もう、
診察終わるまで帰れないやつだ

くっ……
覚悟を決めるしかないのか……


この診療所は自宅からかなり離れているし、
今日のことが近所に広がることは無いはず

そうじゃないと、
自分の噂が大変なことになる


『ミルって人はガーターベルトつけて、
 妙な霊能関係で信者から貢がれていて、
 両乳首にキティの絆創膏貼ってるらしい』

……なんて噂が流れた日には、もう、
引っ越し不可避……‼︎


大丈夫
大丈夫だ、ミルよ

ここの診療所は生活圏内から遠く離れている

さっさと終わらせて帰ろう
そして全てを忘れるんだ……


見せてやろうじゃないか
我が両胸に封印されし禁断の白き獣を……‼︎


「…………。」


ドクター、今あなた、
無言で2度見しましたね?

と言うか、
肩が震えてますけど!?


ふっ……

かく言う自分も、
涙目でプルプル震えているがな……‼︎


「…………。」

「………………。」


無言

誰か助けて
沈黙が重い

何を言ってもダメな状況だけれども、
何も言わないままなのも辛すぎる……‼︎

医者でも救えぬ、この空気


気まず過ぎる沈黙の末、
なんとか病院を後にした自分。

何と言って出て来たのか、
もはや記憶が曖昧です。

とりあえず
もう2度と此処には来れねぇ

連日、作業部屋に篭っていた時よりも、
ある意味疲労困憊になっている気が……


「さあ……帰ろうかな……」


見上げた空は、
どこまでも青く澄んでいて。

街路樹の桜が良く映えていました。




とりあえず

キノコを塩水に漬けて
胸の絆創膏を剥がして

ふて寝



目が覚めたら、
全てを綺麗に忘れていますように……