楽しむことが最優先

庭で花や野菜を育てて楽しむ北海道民です。
趣味関連を中心に日々のあれこれを、
マイペースに綴って行くつもりです。

生きている人間の方が怖いと言うけれど

2023-11-04 23:04:00 | 日記
『ミルくん、野菜が届いたよ』


そんな社長からの電話があって。

ついでに届けてくれるというので、
朝イチで玄関先の掃除をしていました。

今の季節は掃いても掃いても、
落ち葉が溜まってキリがないね……

でも庭先に咲いた花の存在に気づいたりと、
なかなか悪くない気分です。




「やあミルさん、おはよう」

「おはようございます」

「今日も良い天気だねぇ
 もうすぐ初雪だなんて信じられないよ」


通りすがりのご近所さんと、
挨拶がてらの雑談タイム。

こういう穏やかな時間も嫌いじゃない。

今年は雪虫が多いね──……なんて、
話しているうちに社長の運転する車が到着。

到着……したのは良いのだけれど。



「し、社長……」

「やあミルくん、おはよう
 まぁ、話は後だ──……わかるね?
 この荷物たちをどこに運べば良いかな?」

届いた野菜たち。
その量が自分の想像を少々……

いや、かなり超えていました。


「こっちのダンボールにはカボチャが4つ
 そっちのはブドウが詰まってる
 その茶色い袋の中は、お米だよ
 あそこにある赤いネットの中は、
 地元の人たちが拾ったクルミだってさ」

届きすぎです

ほら、ご近所さんが引いてるよ
ここから逃げ出すタイミングを見計ってるよ

でも
逃さねぇよ?


落ち葉を入れる予定だった袋の中に、
とりあえず入るだけブドウを詰めて。

ついでにカボチャを1つ添えて、お裾分け。


「せっかくだし、どうぞ」

「あ、ど、どうも……
 あの……ミルさん?
 すごい量だけど、どうしたの?」

うん
そうだよね

さすがに気になるよね


「ミルくんが龍の祟りを鎮めて、
 とある地域を救ってくれたんだよ
 これは地元民たちからの感謝だね」

社長は少し黙ろうか

ご近所さんに何を話してんだ……

ほら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。
謎の上に更に超展開を被せるのはやめよう?

これ以上、妙な噂を立てないで


ただでさえ、
ちょっと派手な下着
愛用しているという噂が立ってるんだ……

単なる噂ではあるのだけれど、
噂の出所に心当たりがあり過ぎる。

ちくしょう……



「社長、色々と言いたいことはありますが
 とりあえず話を盛るのは止めてください」

まず、あれは龍じゃねぇ


木の移植作業を手伝いに行ったんです
 この野菜はその時のお礼ですよ」

「でもあのお爺ちゃん
 あちこちで言いふらしてるよ?
 それはもう……どこまでも盛りまくって」

マジで勘弁してください


「地域の伝承とか、おとぎ話って、
 案外、こうやって生まれるのかもね」

「嫌なリアルを感じさせないでください」

「でも作物たちに罪はないからさ
 その土地の恵みだよ、ありがたくお食べ」


まぁ、お米は正直言って助かるし。

カボチャも保存がきくし、
クルミも色々と使えそうです。

果物も好きだから、
オヤツにチマチマと食べよう……


「こっちのダンボールは栗が入ってるよ」

「栗か……拾ったなぁ……
 まぁ、良い思い出になったかな」

「それからオススメだっていう、
 ドンキで買った海苔が大量に詰まってる」

ありがたいけど、それ、
地元の農作物じゃないよね


「こっちの外国の袋麺は、
 ひとつ食べて口に合わなかったから、
 残りをミルくんに食べて欲しいってさ」

もはや国産ですらねぇ

それにこれ、
かなり辛そうなんだけど……

この危険そうなラーメンは、
ひとまず置いといて──……



「このカボチャ、
 変わった形ですね」

「ラグビーボールみたいだよね
 まさかりカボチャっていうらしいよ
 その名の通り包丁では歯が立たない、
 かなりの強度を誇るカボチャなんだって」

どうやって食えと

カボチャに強度は求めてないし、
そこを誇られても困る要素しかないよ?


「食べ方の説明も聞いてるから安心して」

「はい」

「本来はマサカリで一刀両断なんだけど、
 ない場合は袋に入れた状態にして──……
 頭上からコンクリートの地面に向かって
 勢いよく叩きつけて割る

ワイルドすぎる

まぁ、機会があれば挑戦してみましょう

くれぐれもご近所さんには、
見られないよう注意して……






「ところでミルくん
 話は変わるんだけど──……」

「はい?」

「年上の女性は好きかな?」

何を企んでいるのかな?


「以前に、お客さんの誘いで、
 一緒に博物館に行ったでしょ?
 その話を妻にしたら羨ましがられてね」

「いいじゃないですか
 ご夫婦で何処かに出かけられては?」

「いや……それがね?
 妻は『ミルくんも一緒に』行きたいって」


なぜ巻き込む

この社長夫人、
悪い人ではないのだけれど──……

時々カジュアルすぎる用事で
呼びつけられるんだよなぁ……

主にゲームの攻略関連で


そのせいで深夜までスイカを作らされたり、
世界一エロ画像が多い骨と、
泊まりがけで戦わされたりしたんだ……

あの骨は本気で強すぎる。
もう二度と戦いたくない敵キャラです。



「コロナもあって妻はここ数年、
 まともに出かけていないんだよ
 あまり時間は取らせないから、
 少しだけ付き合ってもらえないかな」

まぁ……仕事とはいえ、
あちこち出掛けている自分たちとは違って、
社長夫人は家の中にこもりがちですし。

社長夫妻の事情も、
自分なりに理解しているつもりです。


「しょうがないなぁ……
 本当に少しだけですよ?」

「助かるよ、ありがとう
 日程が決まったら伝えるよ」

「はいはい」

まぁ、縦ロールを打診されたり、
龍の祟りを鎮めに行かされたりするよりは、
まだマシな部類のお願いだからね……



社長とご近所さんを見送って。

果物を摘みながら、ほっとひと息。
これはお爺ちゃん宅のブドウかな……

ポロポロこぼれ落ちるほど完熟で、
顔に近づけるだけで芳醇な香りがします。

うーん……甘い……




ブドウに舌鼓を打ちながら、
本日の出来事に思いを馳せる。

ああ……
不安要素しかねぇ


絶対に平穏無事には終わらないであろう、
社長夫妻の接待もさることながら──……

あのご近所さんが本日、見聞きしたことを
一体、どう周囲に伝えるのか……

想像するだけで目頭が熱くなる

今から近所の噂話が恐ろしいです……